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「どうして、芹那ちゃんと会ったりするの!? 連絡先まで交換して……わ、私が八木さんと一緒にいるだけで怒ったりするくせに!」
「た、立花……」
「そのくせ、坪井くんいっつも知らない女の人から着信来てるの私知ってるんだから! 一緒に寝てる時スマホ近くに置くから見えちゃうの、デリカシーないと思う! 隠してよせめて!」
怒鳴ったり泣いたり、忙しい真衣香を坪井はどう扱えばいいのかわからないのかもしれない。
「ご、ごめん……」
振られてから今日まで、坪井の真意がわからなかった頃さえも。こんなに喚き散らしたことはなかった。いつも、いっぱいいっぱいだったようで、それでも無意識に嫌われないように押さえ込めていたようだけど。
(もう無理、何考えてるかわからない!)
「嫌だよ、他の人のことなんて見ないでほしいし考えたり思い出したりしてほしくもないよ……! つ、坪井くんは……」
ひとつ呼吸をする。
ずっと言いたくて、でも自分なんかが口にしてはいけないような気がしていた。
言葉を。
「坪井くんは私のなんだから!」
叫び終わると、真衣香の荒い息遣いだけが嫌に響いた。
とんでもないことを口走っていることも、遠巻きに水族館へ向かう人たちにジロジロと見られていることも。
肩で息をしながらもちろん理解していた。
「芹那ちゃんのことなんて知らない! 何も解決しなくたって二人が気まずいままだって私は別によかったの、会わないで欲しかった!」
それでも、止められない。
どこに隠していたんだ? と、自分でも恐ろしくなるくらいに。醜い感情ばかりが表に出てくる。
「芹那ちゃんになんかあげない……! 絶対あげない! 咲山さんにだって小野原さんにだって笹尾さんだって! 電話してくる知らない女の人だって……みんな、やだ、あげない……!」
喉が痛くて声が枯れてきて、まるで、それごとを飲み込むように。
坪井が、真衣香をキツく抱き寄せた。
耳元で大きく息を吸って、耳たぶにキスをしながら震える声が囁いてくる。
「……そう、だよ、俺お前のものだよ」
そんなふうに言われてもあんなキスを見た後じゃ悲しいだけなのに。
「……嘘つき」
「お前に嘘、つかないってば」
「隠し事も一緒なんだよ」
テンポ良く切り返す真衣香に、小さく唸った坪井が「ほんとに、ごめんなさい」と。
自分の身体よりも小さな真衣香へと沈み込むように抱きつき、項垂れて言った。
(言いたいこと言っちゃったな……)
愛しい重みを受け入れつつ、心残りが少し減ってくれたかもしれない。
そう、ぼんやりと思っていた。
今抱き締めてくれてる、この腕が離れたら振られちゃうのかな、と。覚悟しながらゆっくり息を整えていると。
坪井の肩越し。
隼人と共に歩いてきた、芹那の姿があった。