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「芹那ちゃん……」
真衣香がその名前を口にすると、坪井は抱き締める腕の力を緩め密着していた二人の身体に隙間を作った。
開いた距離が、まるで今から辿る二人の未来を見ているようで。ズキン、と誤魔化せそうにもないほどに胸が痛んだ。
芹那の方をゆっくりと振り返った坪井の姿。
目で追う、一瞬が、一秒が。
真衣香の胸を抉るように傷めつけていく。
「お取り込み中ごめんね。初めまして真衣香ちゃん」
意外にも、芹那の第一声は真衣香に向けられた。
さらりと、柔らかそうな髪の毛が小さな顔に沿って揺れる。
凛とした中にも可愛らしさがあり、目を引く美人だと思った。
自然と萎縮したように声が詰まる、そんな自分が情けない。
「……初めま……まして」
「って、言うのも何か不思議だよね。名前はよく聞いてたから」
「私もです」
「どうして敬語なの? 同い年だよ」
坪井の身体に半分隠れるようにして受け答えする真衣香を見て芹那は、小馬鹿にしたように「守ってもらっちゃって可愛いね」と付け加えて笑う。
それに対して「青木」と、低く、小さな声で芹那の笑い声を遮った坪井。
しかし芹那は特に気にする様子もなく真衣香に向けて、話し続けた。
「今日は彼氏、お借りしてごめんね。でも真衣香ちゃんにプレゼント受け取ってもらえなかったのはちょっと残念だったかな」
「は? プレゼント?」
聞き返したのは真衣香ではなく坪井だ。
明らかに声には怒気が含まれていて、真衣香はヒヤヒヤと焦りを覚えた。
せっかく再会できた“本当に”好きな人が相手だというのに。
芹那は、わざとらしく顎に指を添え悩んでいるような仕草を真衣香と坪井に見せた。
「う~ん、だって、坪井くんの相手しようっていうんなら……今の真衣香ちゃんじゃ、ちょっとしんどいんじゃないかなぁって。優里の話聞く限りね」
「しんどくなんてないです」
次こそ芹那の言葉に自分で応えた真衣香は、強く否定した。
「ここに来るまで芹那ちゃんのこと隼人くんに聞きながら来たよ」
「え? 澤村くんに?」
「何言ったのよ」と言わんばかりに、芹那は目を細めて隣に立つ隼人を見た。
と、いうよりも睨んだと言った方が正しいだろうか。
隼人が目を合わせないように、きょろきょろと視線をさまよわせているのを目の端に捉えながら。
真衣香は続けて芹那に声を向ける。