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痛い痛いと言い続けながらも、足の負傷はいつのまにか治っていた。
しかし痛みが治まったあとも、スニーカーを履くのはキツイ。
右足が少し大きくなったみたい。
きっと変な形で骨がくっ付いたんや。
未だ育ち盛りのアタシにとって、それは大問題には違いない。
でも今は更に上をいく鬱陶しい問題を抱えていた。
それは──背後霊のような存在や。
「リ~カ~ちゃ~ん……」
オキナがピッタリくっ付いて離れない。
かぐやちゃんの仕打ち(いや、あの人は別に何もしてないけど)に脆弱なガラスハート、打ち砕かれたらしい。
「頼むよ、リカちゃん」
30歳のバツ1男が、涙ながらにアタシに懇願する。
どこに行っても付いてくる。
「かぐやちゃんの心を確かめたいんだ。リ~カちゃ~ん」
「た、確かめたらいいやん」
アタシを巻き込まんといて!
声を大にしてそう叫びたい。
みんな、アタシを頼らんでくれ!
しかし目を潤ませて俯いたままのオキナを見ると、そんな言葉は出ない。
突き放すことは出来なかった。
「元気出しぃや、オキナ。いつもの憎まれ口はどしたん?」
「リカちゃんだけが頼りなんだ」
そう言って赤毛の30歳は泣いた。
こうしてアタシらは、謎の多いかぐやちゃんの1日を追いかけることになったのだ。
「どれどれ」と言って桃太郎も付いてきた。
アタシと桃太郎、オキナ──嫌な面子(メンツ)やで。
向かう先がかぐやハウスっていうのも、またビミョーなセレクトやわ。
かぐやちゃんについて知っていることは、実はあまりない。
それはオキナも同じらしい。
お姉がこのアパートを買うより先に、あの場所に住んでいたかぐやちゃん。
お姉とオキナは家具屋の息子だからかぐやちゃんと思っているらしいが、それが事実とは思えない。
安直過ぎるネーミング、そして設定やもん(設定って言うな!)。
いつもお腹を空かせていて、腹の鳴る音は地震のような轟音だ。
食べ物を前にするとヨダレがすごい。
もっとも最近はお姉やオキナにご飯をもらうようになり、例の音はあまり聞かれなくなった。心なしか、顔色もいい。
口癖は「テロ」!
何か異変があるとテロを疑う。「テロかッ!」とか「テロだッ!」とか1人で叫んでる。
あの人がこう言ってるのを聞いたことがある。
「日常生活から常にテロを警戒しろ。テロリストは何食わぬ顔をして隣りにいる。ワシは常にその覚悟だ」
大真面目な顔してそんなこと言う。
酔っ払ってるわけじゃない。完全に素面で喋ってる。
アンタがまず第一の警戒対象やで、とは恐ろしくて口に出せない。
お願いだから黙っててほしい。
できれば動かずにいてほしい。
超絶美青年なのに何もかも台無しや。
暗い面持ちでアタシらはオールドストーリーJ館裏手の竹やぶへとやって来た。
せっかくの竹林。
マイナスイオンに癒されようってのに、転がる電化製品(ゴミ)によって景観は破壊されてる。
「リカ殿、何とかしてたもれ。最近空気が乾燥しておって、余は喉の調子が悪いのじゃ」
桃太郎がぼやく。
確かに最近、雨が降らない。
「たもれってアンタ……アタシに訴えられても。それよりコレ、何なん? 夜な夜な拾いに行ってるらしいけど、壊れた電化製品であの人は何をしようとしてんの?」
「いや、あの……考えはあるらしいけど?」
「間違いなくゴミ屋敷やで。テレビ局に電話したら、ワイドショーが取材にくるで? このアパートだけでゴミ屋敷特集組んでもらえるかもな。アタシも感電少女として出演オファー相次いだりして。フフ……ハハッ……」
投げやりな調子で言ってたら、突然竹林がガサガサ鳴った。
「何奴っ!」
桃太郎が声を張り上げる。
瞬時にアタシの背に身を隠しながら。
「桃太郎、アンタな……」
そんなアタシらのすぐ脇で竹林が割れた──ように感じた。
ドサッと音立てて、重い塊が地面に転がる。
「かぐやちゃんッ!」
オキナが叫んだ。
かぐやちゃん、今日も突飛な登場だ。
「な、何があったの?」
オキナに助け起こされてかぐやちゃん、ハァハァ言ってる。
「雨乞い……雨乞い……」
途切れ途切れの呼吸の中で何かブツブツ言っている。
はて、雨乞い?
「か、かぐやちゃん? 大丈夫か?」
かぐやちゃんはハッと我に返り、キョロキョロ周囲を見回した。
「どこまで息を止められるか、頑張ってた」
「……そうなんや」
一瞬やけど心配したアタシのこの気持ちはどこで昇華されればいいんやろ……。
この変な人、何だか突然喋り始めた。
「現代社会はテロの脅威と常に隣り合わせだからな。車内やオフィス内で、神経ガス噴霧テロに遭遇した場合の最善の対処法についてレクチャーしよう」
「はぁ……」
どうでもいいけど、かぐやちゃんの口から現代社会とかオフィスという言葉を聞くと何か違和感が……。
マシンガントークは容赦なく続く。
止めどころを逸してしまって、アタシらはボケーッとかぐやちゃんの声を聞いていた。