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✧≡≡ FILE_009: 温もり ≡≡✧
気づけば街には、もう誰もいなかった。
ガラス張りのカフェも、薬局も、交差点のタクシー乗り場も、警官すら見当たらない。すべて無人。
ニュースで報じていた通り、避難は着実に進んでいるようだ。
「……はぁ……はっ……ひゅっ、は……っ」
──逆を向いているのは己だけか。
体温が急速に奪われていく。
マイナス2度の世界では、風の強さは変わらないはずなのに、空気が冷たく、皮膚の奥が痛い。
頭がズキズキと疼き、足の感覚も曖昧になってきた。
「……はー」
肺は悲鳴を上げ、吸うたびに胸の奥がきゅうっと縮む。
──おかあ、……さん……。
寒さが増すほど、胸が苦しいほど、会ったこともない“母親”という存在に、無意識に手を伸ばしてしまう。
「はー、はーっ、ひゅ……はー」
boyは手袋のない手を口元に当て、白い息を吐き続ける。それが泣き声の代わりであることを、自分でも気づいていなかった。
「……は、……はぁ──っひゅ……」
その瞬間──視界が揺れる。
「っぅ……!」
足元がもつれ、boyは前のめりに倒れ込んだ。
コンクリートの地面が、容赦なく膝を打つ。
手をつく間もなく、肩から崩れ落ちるように倒れた──