テラーノベル
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次の朝。重たい空気がリビングを包んでいた。
俺たちは無言のままテーブルを囲んでいたが、誰ひとりとして昨夜の出来事を忘れられるはずもなかった。
俺の手には包帯が巻かれ、じんじんとした痛みがまだ生々しく残っている。
傷そのものよりも……
あの場にいた全員の心に残った傷のほうが、よほど重たかった。
晶哉はというと、ソファの端で縮こまり、明らかに大晴を直視できずにいた。
目線がぶつからないよう、わざと距離を置いているのが分かる。
そして……
如月ちゃんは、まだ部屋から出てこない。
階段の方はずっと静かで、普段なら如月ちゃんの気配を感じるはずなのに、今日はその影も形もなかった。
そんな沈黙を破るように、大晴がぽつりと呟いた。
{……みんな、昨日はホンマごめん。}
大晴の声は震えていた。
でもそれは“怖さ”じゃなく、“後悔”からくる震えだった。
{俺……勝手に嫉妬して、頭おかしくなってしもうて……。如月ちゃんや晶哉や誠也くんを傷つけて……こじけんまで怪我させて……。ホンマ、俺最低やな。}
その場にいる全員が息をのんだ。
重たい告白だ。
けれど逃げずに口にした大晴の姿は、昨夜とは別人みたいに弱くて、必死だった。
《まぁ……痛かったけどな。せやけど、大晴が反省してるならそれでええ。》
俺がそう言うと、大晴は、涙をこらえようと下を向いたまま肩を震わせた。
でも……問題は終わっていない。
みんなの視線が自然と階段の方へ向く。
部屋にこもったままの如月ちゃん。
扉越しに心を閉ざしたままの彼女。
大晴は、うつむいたまま小さく呟いた。
{……俺のせいで、如月ちゃんを怖がらせてしもうたんやな……。}
その声は、今にも消えてしまいそうだった。
俺は居ても立ってもいられず、如月の様子を見に行った。
如月の部屋の前に立ち、そっとノックした。
【……如月。俺、末澤や。入ってもええか?】
しばらくして、弱々しい声が返ってくる。
「……いや。……ごめんなさい……。」
その震え方だけで、昨夜の恐怖がどれだけ深く刺さったのか分かってしまう。
【……分かった。無理に入らへん。ここにおるだけでええわ。】
俺はドアにもたれかかり、床に座り込んだ。
木の冷たさが背中に伝わる。
【怖かったな……。ホンマ、ごめんな……。守れへんくて……。】
返事はない。
だけど、ドアの向こうにいる如月の気配が、ほんの少しだけ震えを弱めた気がした。
それが……今の俺にできる唯一の救いだった。
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