テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
如月の部屋の前で、しばらく座っていた。けれど……
如月が部屋から出てくる気配はまったくなかった。
俺はため息をついて立ち上がり、リビングへ戻った。
すると……
佐野がソファに座り顔を伏せたまま、微動だにしなかった。
昨日の出来事が頭から離れへんのやろうな……。
そんなの、見れば分かる。
でも……
佐野の顔には、もう“恐怖”だけではない何かが宿っていた。
不安。
焦り。
そして罪悪感。
【……佐野、大丈夫か?】
声をかけると、佐野はビクリと肩を震わせた。
〈……俺、如月ちゃんのこと守れへんかった。〉
か細く、震えた声だった。
【佐野は悪くないで……。俺だって守れへんかった。】
そう言うと、晶哉はぎゅっと唇を噛んだ。
〈……俺、気づいてた。〉
【何を……?】
〈……大晴くんが、ずっと如月ちゃんのこと鋭い目で見てて……いかにも如月ちゃんに被害を与えそうやった。でも俺、気のせいかなとか……見間違いかなって。そう思って見て見ぬふりした。あの時、大晴くんを止めてれば……〉
言葉が震えた。
【……俺もや。如月から“誰かに見られてる気がする”って言われてたのに……如月を1人にしてもうた。】
〈……っ〉
【佐野だけやない。だから……そんな自分を責めんな。】
少しの沈黙。
その時……
階段の方から、微かな物音がした。
俺らは同時にそっちを見る。
けれど……
如月が出てきたわけではない。
ただ階段に、小さな影が一瞬落ちただけ。
その瞬間……
佐野が急に立ち上がった。
〈……如月ちゃん!?〉
……でも返事はない。
佐野は焦りに駆られたように、階段を駆け上がっていく。
【ちょっ、佐野!!】
俺は慌てて後を追った。
佐野は如月の部屋の前で立ち尽くしていた。
今にも折れそうなほど細い肩が、小刻みに震えている。
震える手でドアをノックしながら叫んだ。
〈……如月ちゃん、ごめん……。大晴くんが如月ちゃんのこと、鋭い目で見てたこと……“危ない”って気づいてたのに……俺は気のせいやって、自分に言い聞かせて逃げた。見ないふりした。あの時俺が止めてれば……如月ちゃんも、誰も傷つけへんかったのに……〉
声が裏返る。
〈……俺、如月ちゃんに嫌われたくない。嫌われるくらいなら……俺、男やめる……〉
まるで胸を裂くような声だった。
その言葉は、あまりにも本気で、あまりにも痛すぎた。
俺は……
その場で崩れ落ちそうになっている佐野を見つめることしかできなかった。
そして……
沈黙だけが、薄いドアを隔てて流れていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!