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ルティとフィーサの二人は戦力として申し分ないが、ひとまずここから離れてもらった。連中が狙いを定めているのは、間違いなくおれとシーニャのみ。その獣狩りの連中がどこまでやれるのか。そして獣化の力がどれほどのものか、思いきり試させてもらう。
戦闘態勢を取るシーニャに対し、連中があざけりながら近づいて来る。そのうち感じる強い気配は三つほどだ。支援系と荷物持ち、それら含めて総数八人程度といったところ。
「ぶははっ! おい、見ろよ! こんな雑魚な地にワータイガーなんかがいやがるぜ?」
「ラクルに近いこんな平地に? そんなわけないじゃない!!」
真っ先に近付いて来たのは攻撃特化の魔術師と短剣使い。さすがにこの体ではサーチが使えないが、奴らの外見ですぐに分かった。後方に控えているのは強化者《ブースター》が一人と、回復士が数人。その中で際立って強いのは二人だけのようだ。
「ウウゥ……ッ! 何なのだ、お前たち!」
シーニャの視線は短剣使いの女に集中している。
「へぇ? 獣人がいんのか! 狩り甲斐がありやがるじゃねえか。よし、獣人はオレがやる! ヘルガはそっちの狼みてぇな奴をやれよ!」
「はぁ? 何でヴィレムが勝手に決めるわけ? よりにもよって狼……って、フェンリル!?」
「ソイツはフェンリルの爪をつけてるだけのただの雑魚狼だ。爪でビビってんじゃねえよ!」
「うるさい!!」
勝手にフェンリルと決められても困る。そのうえシーニャ相手に魔術師の男は少し分が悪い。身のこなしが俊敏な彼女には短剣使いの女の方が適しているのだが。
「ガガガウ、ガウガ?《お前らが獣狩りか?》」
少人数で狩るやり方ということはこいつらが噂の連中に違いない。ラクルの連中の話では、目立つことなくあっさりと片付けると聞いていた。後ろに控えさせている強化者もそれなりの力がありそうだが、回復士はおまけ程度のはず。
「――何だって? おい、獣人! そこの狼は何て言いやがったんだ?」
「獣狩りパーティはお前らなのかと聞いているのだ!」
(ナイスだ、シーニャ!)
「獣なんかに知れ渡ってるとか、最悪じゃない? 早く片付けなよ、強化が切れる前にさ!」
「そんなもん簡単に切れるかよ! おっと、言葉が分かる獣人には一応礼儀として名乗っておくが、オレの名はヴィレム・バロシュだ。Sランクの魔術師……まぁ、分かりっこねえか!」
Sランクか。今さらランクで脅しをかけられてもな。
「それくらい分かるのだ!! 人間の女、お前は何なのだ?」
「そっちの狼には通じないだろうけど、あたしは短剣使い《ダガーキャスター》。もちろんSランク」
「名前を教えてやれよ、ヘルガ! 可哀想だろ?」
「ヘルガ・コティラ……、狼に礼儀も何も必要無いと思うけど? どうせすぐぶっ殺されるんだし」
(なるほど。奴らなりの礼儀……いや、勝利宣言のようなものか)
シーニャのように言葉の理解が出来る獣人ならそれもいいが、獣に聞かせるあたり趣味が悪いな。しかしシーニャには魔法攻撃を相手にするのは厳しいだろうし、おれの力も未知数のまま。とはいえ、おれは攻撃を受けたとしても多分弾《はじ》くことが出来る。
「シーニャ! 魔法攻撃がきつくなったら、おれに全てを委ねてくれ!」
「分かったのだ! アックの望む通りに動くのだ! ウニャッ!」
魔法の連続攻撃でもされたらシーニャでは防ぎきれない。早い内にガチャで出したスキルを使うしか無さそうだ。おれもせっかく出た獣化専用の爪をレベルアップさせたい。Sランクの獣狩りだろうと、人間相手に苦戦はあり得ないのだから。
連中にやるべきことは恐怖と圧倒的な力の差を植えつけることだ。殺す獣相手に名乗るほど調子に乗っている連中には恐怖に相当する力を見せつけてやる。上手く行けば他の罪なき獣を狙うことは無くなるはずだ。
「はぁ~、面倒くさい。そういうわけだから、そこの狼! とっとと死んじゃいな!!」
「――!?」
先制攻撃という名の不意打ち。
「アハハハハッ!! その耳、腕、足……その全てを、あたしの短剣で切り刻んでやる!!」
やれやれ、魔術師の男よりも危ない女だったな。コイツは相当数の獣を切り刻んで来たとみえる。まずは棒立ち状態で好きなだけ切り刻ませてやる。疲れた時を見計らい、こちらも便乗レベル上げ。シーニャの戦いを気にしたいところだが、単発の魔法詠唱程度なら心配無用だ。
それよりも問題は強化者の存在。姿を見せない強化者が絶えず強化を放ち続けられるとすれば、形勢はすぐに崩れてしまう。だが、今は短剣使いの女の気分を良くさせておくか。