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その後の俺たちは、”白銀の女騎士による死闘の中での試験”に合格したとして、『人民に害がない証明』『誰も傷付けようとしなかった意志』を認められ、後日、書類を提出の下で、異世界人でもこの地球で生きていい権利を獲得できることとなった。
あのタワー屋上での乱戦から二日後。
ピンポーーーン。
ババアが出迎えると、そこには頑丈な甲冑を脱ぎ捨て、単身、制服姿の歩が立っていた。
「あ……あの……緑さん……」
「上がんな」
それから、二人は喋ることもなく、ババアは昼食の調理に取り掛かり、歩は静かに茶を啜っていた。
「おはよ〜。うわっ、学の姉ちゃんじゃん」
そこに、俺とルリアール、昼起き組が現れる。
「客がいるんだ! さっさと顔洗ってきな!」
「客って……。自分が一昨日、殺されかけた相手って忘れてんのか……? 遂に認知症か?」
いつも通りの昼食、いつも通りではない客人を交えて、俺たちは全員で食事を囲んだ。
「ババア、いつもより味薄いじゃねぇか。俺はまだまだ若いから濃い味じゃねぇと飯のオカズになんねぇんだよ」
俺の言葉に、遂にブルブルと身体を震わせ、歩は少しずつ涙を溢し始めた。
「え、え……。今のはババアに言ったのであって、別にアンタに言ったわけじゃ……」
「そうじゃないんだ……。私は、緑さんが現役の頃に、この味の世話になっていた。私の栄養を心配して、私の健康を心配して、この味を作ってくれていた……」
その言葉に、俺たちは口を紡ぐ。
「私はそんな恩人を……殺そうとした……」
そんな泣きじゃくる歩に、ババアは言葉を足す。
「アンタ、学に説教垂れてたみたいだけど、私の心臓から大きく離れた場所を刺してたね。まるで、本当は殺したくないって言いたいみたいにさ。お陰で、ルリの治癒魔法で簡単に治っちまったよ。暫くは入院でもして、ゆっくり過ごせるかと思ってたのにね」
ババアの言葉に、ルリも言及する。
「確かに、あの傷の位置は意図して急所を外したとしか思えない。もし、心臓に直接、あの太さ、あの長さを刺していたら、治癒魔法でも間に合わなかった。と言うより、治癒魔法で簡単に治せただけで、あの傷なら人を死に至らしめることはなかっただろうね」
「不器用なのは変わらないね、アンタも」
そう言われ、歩はまた、ぐすぐすと泣き出した。
暫く泣いた後、箸を置き、まだ赤い目を真剣に俺の方に向けると、歩は口を開いた。
「今回、私が来たのは、挨拶だけではない。私は、謝罪だけでは許されない行いをしたと感じている。その為……」
――
「え、マ、マジ……?」
歩に着いて行くこと十分、閑静な住宅街を離れ、更に自然豊かな一等地に、どデカい屋敷が現れた。
「君たちに、この家をやろう。緑さんは退職前、静かな場所で暮らしたい、と仰っていた。今の家で三人で暮らすには少し狭いと思ってな。でも、思い入れのある家からもそう遠くに離れたくない気持ちも考え、近場の距離にと、君たちに用意させて頂いた。異世界人である君たちを正式に認めた証、としてでも良いだろう」
「いや……だとしても……コレ……うん百……いや、うん千万とかするんじゃねぇか……?」
「安心してくれ。君たちは国……いや、宇宙が認めた唯一の異世界人だ。強化されたセキュリティシステムも搭載してある。逆に、暴れられもしないがな」
ふふふ、とニヤけながらも、次には悲しげな顔を浮かべた。
「ここまで用意し、謝罪の意を告げたが、君たちは『私に認められた』だけなのだ……。まだ、上層部では、君たち異世界人を認められないと言う声も多い。そこで、監視システムもあるこちらに住んで欲しいのだ。君たちに贖罪をと思っているが……許して欲しい……」
そう言いながら、歩は綺麗な土下座を地べたで示した。
「待て待て待て、立ってくれ……! 分かったよ……。俺たちだって、バレたらまずいと思って隠してたんだ。ここまでしてくれたこと、感謝しかねぇよ」
すると、歩は微笑みながら俺を見つめた。
「ふふ、学が君に懐く理由がよく分かったよ」
そうこう中を見物していると、何台かのトラックが到着した。
俺は、生活する為の荷物まで用意してくれたのかと、少し申し訳なさそうにしていたのだが。
それら荷物は、全て二階の一番大きな一室に運ばれ、歩は得意気に振り向いた。
「ここが私の部屋だ! 良い部屋だろう! 前に住んでいたインテリアと変わらずに作らせたのだ!」
「ちょっと待て。え……お前も住むの……?」
「当たり前だ! 学との怨恨は晴れ、ようやく姉弟が同じ家に住める。ずっと心配していたんだ……」
「な、なら……お前ら姉弟だけ別の家に住めよ……」
「いや、そうはいかないのだ。今回、君たちを許したのは私の独断でもある。先程の話の続きだが、私は引き続き、君たちの監視役も担うことになっているのだ」
俺が呆けていると、ルリは早々に眠そうに欠伸をした。
「別にいいんじゃなーい。緑さん家より広いし、元々複数人で住んでたし、なんなら、私の部屋は前より広くなるみたいだし。私の部屋、今度は一階ね。起きてから階段降りるの、いつもしんどかったんだ〜」
そう言うと、ルリは自分の魔法で早々に引っ越しを済ませ、昼寝をし始めた。
「んだよ……どいつもこいつも勝手に……」
「ちなみに、家賃は一人四万だ。この上等な家なら本来はもう少し取るところなのだが、私の贖罪の意として、半分ほど私の方から支払うことにしよう」
「は!? 家を勝手に用意されたのに、家賃まで取られんのかよ!? しかもババアの家賃より高ぇよ!!」
俺の慌てる様を見てババアは声を上げて笑う。
「アッハッハ! 働かざるもの食うべからず。大人なんだから、衣食住は自分でしろってことさね」
――
「チクショウ……なんか損した気分だ……」
家の整理も終わり、俺と学は、二人でせっせこ自分たちの荷物を運んでいた。
俺の愚痴を聞きながら、学はニコニコしていた。
「姉さんらしいです」
「何がだよ……。結局、性格悪いところか?」
「ふふ、そうかも知れません。一人四万と言うことは、三人で十二万円。あの豪邸のローンで考えたら、姉さん個人の負担額は三十万を超えますね」
「そ、そんなにか……? いくらあの女が稼いでたところで、半分どころの騒ぎじゃねぇだろ……!」
「しかも、特殊部隊や刑務局に流れてしまう依頼も、姉さん越しに国からの任務として横流ししてくれるとか……。家賃の心配は無縁になりそうですね」
重い段ボールを両手に五段ずつ抱えながら、俺は遠くの夕陽を眺めた。
「ったく、どいつもこいつも……不器用で仕方ねえ」
そう言いながら俺は少し早歩きになる。
歩は黙って俺の背を見ていた。
「それは、貴方も同じかも知れませんね。優さん」
白銀の女騎士 完
――
◇緑一派:政府公認となった異世界人の集団
鯨井・LU・優
元異世界の魔王の息子。自分の闇の魔力すら吸い取ってしまう刀で戦う。蒼炎の剣士。トップ・トーキョーのニューヒーロー。
ルリアール=スコート
異世界の最強を自称する魔法使い。優のこちらでの生活を監視する為にやって来た。趣味はネトゲ。
佐藤 学
新米科学者。元々、政府公認の宇宙技術の開発班に所属していたが、優の特殊な体質に惹かれ、班を抜け出して優の元で手伝いをする。
船橋・LU・緑
元UT変異体育成班所属。
佐藤 歩
UT変異体育成班所属。B型世代からの古参育成士で、数多くの隊士を生み出した。白銀の女騎士。
◆UT刑務局
ブライト・D・ローガン『重剣』
局長。どんな巨大な剣でも、重力をなくし自在に振り回すことが可能。
鮪美・B・斗真『死線』
副局長。剣術に特化した家出。死線を感じた時のみ能力を発動し、迅速な剣を仕向ける。
ロスタリア・A・バーニス『瞬身』
特攻隊長。自身にダメージを負わすマッハ速度で移動し、摩擦を生じて火炎を発生させる。戦闘狂。
◇UT特殊部隊
ビアンカ・D・ドレイク
総隊長。頭がキレ、裏の裏を読んで作戦を立てる。
アリス・F・マーマレード
中隊長。お嬢様のような容姿だが、ビアンカの代わりにUT特殊部隊を束ねる優れ者。
雅・L・刹那『テレポート』
優がいた頃のL型世代の友人。物静かな六番隊所属の新人。
◆犯罪者
ロドリゲス・B・フォードマン
βの使徒 司教。宇宙人との共生に反対する勢力を率いる。B型からL型までのUT技術を体に宿す。
鮫島・A・司
A型世代。特級犯罪者。何やら侵略者を操ることができる。能力は謎に包まれている。
ガ・A・ガ
A型世代の地底人。鮫島の仲間。筋肉を岩石のように変貌させることができる。