「ハァ? 告白されたァ!?」
いつもの昼食時、ルリは寝ぼけ眼のまま、その一言をポツリと呟いた。
「だ、誰にですか……!?」
「ネトゲの人」
「ダメに決まってんだろ!! ネット恋愛なんて、どこの馬の骨とも知れねぇ奴! 危険すぎだ!」
「『告白された』と言っただけだ。私にそんな気など欠片もない。だが、一度会ったことのある奴でな」
「そういや、前にオフ会に行くっつってた、その内の一人か……?」
「そうだ。また会わないかと誘われている。今度はゲーム仲間のオフ会ではなく、自分のプライベートで親交の深い者を連れて……と」
その言葉に、俺と学は目を見合わせる。
――
ユニバース・アキバのファミレス。
男三人に相対し、俺、ルリ、学と、横に三列に並ぶ。
席に着いてから、俺はドタドタと貧乏揺すりが止まらなかった。
何故なら……
「なんで相手がテメェらなんだよ! おいお前! この間ロドリゲスと戦ってた刑務局の局長だろ!?」
白銀の女騎士、佐藤歩との戦闘時、ババアの護衛に回っていたルリアールは、刑務局の局長と会っていなかった。
だが、ルリアールは声を荒げる。
「な、何!? 重装甲ブレイブ・ラインハルト殿!! 貴方は刑務局の局長なのか!?」
その言葉に、副局長 鮪美は頭を抱える。
「ローガンさん……。アンタ、まだそんな厨二病引き摺ったような名前でゲームしてんのかよ……」
そして、件の重装甲ブレイブ・ラインハルト、もとい、局長 ブライト・D・ローガンは口を開いた。
「だ、だって!! 俺の名前ってなんか男臭すぎるんだよ!! ラインハルトとか超カッケェじゃん!! 異世界の勇者みたいじゃん!! それに、一応自分の能力に因んだ”重装甲”って言葉も入れてるんだぜ!?」
俺たちの顔を見る前から、既につまらなさそうな顔を浮かべるロスタリアが口を出す。
「”ブライト”と”ブレイブ”で、自分の本名を少しだけ格好良さげにしてるところが気持ち悪いっス」
「そういや、『ルリアールさんとは個人的に知り合い』とかなんとか、先生から指令が出た時の会議で話していたが……まさかゲーム仲間だったとはな……」
しかし、問答すべきはそこではない。
「それより……その局長さんとやらが、ルリアールに告白したってのは……マジなのかよ……」
疑わしきは、これもまた、歩に続いて、局長直々の潜入調査なのではないかと思ってしまうのだ。
しかし、頭を掻きながら気怠そうに鮪美が答える。
「問題はそこだ。俺たちも今回に関しては、『ネットで恋をした女に会うから付き添って欲しい』としか言われずにここに来た。まさか相手が……”異世界人”とはな……」
俺たちに立ちはだかる問題、”異世界人”。
公に名前や顔が公開されることはなかったが、一部上層部と、女騎士の問題に関わった者は知っている。
そんな神妙な空気の中で、ずっと黙り込んでいた刑務局 局長、ブライトが口を開く。
「お、俺は、本気なんだ……! ネットだの、ゲームだのと言う輩は多いが、心からルリアールさんを好きになってしまった……! こうやって話していれば分かる! 異世界人なんてそんな垣根は関係ない! 俺たちは、同じく四肢を持った生命体だ……!」
「ほう、面白い。私も、こちらの世界の人間がどの様に恋をするのか気になっていたところだ。君の持てる力全てで私を惚れさせてみろ」
「えぇ!? いいんですか!? ルリアールさん公認!? 見たか、斗真、ロス! 異世界の壁があろうとも、紳士的に想いを伝えれば届くんだよ!!」
「いや、まだ想いは届いていないと思う」
――
俺と学、鮪美、ロスタリアは背後で待機し、少し準備をした後、俺たちは二人のデートを見守ることになった。
「クッソ……俺たちはこんな暇じゃねぇのに……」
「ぷぷっ、お前たちって揃って尖ってる風なのに、大将はまるで馬鹿みてぇだな。なんか面白え」
「笑い事じゃねぇよ……。ネット上でさえ無様な真似してんのに、よりにもよって恋したのが”異世界人”なんて、どこにも口外できねぇ……」
ルリアールは軽食を済ませ、集合場所に待っていると、少し遅れて着替えを済ませたブライトが現れた。
先程着ていた制服は脱ぎ捨て、何やら煌びやかに、髭面にはまるで似合わないスーツ姿に変わっていた。
「お待たせしました、君を迎えに来た、白馬の王子です……なんちゃって」
俺たちは全員、顔面蒼白に背筋を凍らせる。
「君は刑務局の局長であって王子ではない。それに、私の王はヨンガルド王だ。まあ、私のことをコキ使うからあまり好いてはいないがな」
「あ……いや……そういうことじゃないんだけど……」
一言目からマジレスで返すルリアールの姿に、なんとなく嫌な予感がし始める。
その後、ブライトのリードによるデートは続いたが、ルリアールは終始真顔で過ごしていた。
夕暮れが差す街並み、全てを諦めたかのようにトボトボとブライトは傷心しきって歩いていた。
鮪美やロスタリアも、何も言えないような顔で汗混じりに様子を伺っていた。
「なんか……最初は笑って見てたけど、逆に申し訳なくなってきたな……」
「あの娘はなんなんだ……? 確かにローガンさんは乙女心なんて分からねぇし、今日見ていたデートの仕方も見ていられねぇモンだ……。だが、自分から落としてみろと誘っておいて、あそこまで何も反応を示さないのは、様子がおかしいってレベルじゃねぇぞ……」
その容疑が向く先は、やはり、”異世界人だから価値観が違うのではないか”と言うことだ。
「あの……ルリアールさん……今日は連れ回して……」
「ん? もう終わりなのか?」
「え……だって、もうこんな時間じゃ……」
すると、ルリは静かにブライトの背後を指差した。
「え、俺たち……?」
「あの、奴らは今回のデートには……」
「私は、みんなで遊んだ方が楽しいと思うのだ」
「でも、今日は惚れさせてみろって……」
「この地球では、『二人きりでないといけない』という決まりでもあるのか?」
その言葉に、俺たち全員は絶句した。
確かに、女を落とすことに、二人きりである必要性はないし、逆に言えば、ほぼ初対面の二人で楽しませろ、惚れさせろなんて、無理難題に等しい。
「私は、君とはゲーム内で遊ぶのが楽しい。君はよく前に出て前線で暴れてくれる。私は状況を見て魔法を唱えられる。昔を思い出して凄く楽しいのだ」
「参りましたよ……ルリアールさん……」
ブライトは、傷心した姿はなくなっており、むしろ爽やかな表情に変わっていた。
その後、俺たちはブライトの呼び掛けにより、最後まで全員で遊んだ。
しかし、気の合わない刑務局の連中とは喧嘩が多かったが、ルリアールは最後は笑っていた。
――
「よかったんですか? ローガンさん。結局、俺たち刑務局で最後奢らされて終わった感じでしたけど」
「ロス、お前そんなんだからモテねぇんだよ。ローガンさんの魅力は、あの女に伝わってる」
――
「なんか、今日のデートはブライトさんに申し訳ないことをしましたね……」
「学、お前はルリのこと全然分かってねぇな」
そう、ルリアールがブライトに伝えたいことは。
「「 最初から、いつもと違うことなんてしなくていい。 そのまま、変わらないありのままがいいって、アイツは思ってるんだよ 」」
そうして、刑務局 局長と、ルリアールの、よく分からないデートは終了した。
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