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「サオリ様。この国を救っていただき、深く感謝申し上げます」
皇帝ヴィルヘルムとハインリヒ王から、沙織は丁寧にお礼を言われた。
これから沙織は、イザベラと一緒に青龍のシュヴァリエに乗ってベネディクト国へ向かう。
「何で、姉上まで?」
疑問に思ったサミュエルが、イザベラを問い詰める。
「え? だって、契約紋の解除してもらわなきゃ」
あっさり言ったイザベラに、「は?――えええっ!?」とサミュエルは叫ぶ。
まさか、イザベラが契約紋を入れているとは、予想もしなかったのだろう。
「本当……ごめんね、イザベラ」
ああいった状況だったとはいえ、沙織は謝った。
「良いのよ! だって、それでサオリと対戦する約束なんだからさっ」
(あ、忘れてた……)
「……た、対戦!? 光の乙女と?」
サミュエルは目を白黒させる。
「そうよっ! この国が少し落ち着いたら、やりましょうねっ。ふふっ……それまで、鍛えておくわよー!」
やる気満々のイザベラに、沙織とサミュエルは乾いた笑いしか出なかった。
シュヴァリエは――ステファンに全てを報告したら、帝国に戻る予定だ。
この大きくなりすぎた帝国を解体する。二分して侵略を行わない王国に戻す為、シュヴァリエは尽力すると沙織に言った。
国王には、ヴィルヘルムとハインリヒに、それぞれを担ってもらうつもりだそうだ。
勿論、友好国として平和条約も結ぶ。
そんな訳で、シュヴァリエは暫く忙しくなる。
(ちょっと、寂しいけど……。頑張るシュヴァリエを応援したいから!)
沙織は沙織で、前に進みたいと思った。
――そして。
青龍の背に乗った沙織達は、帝国を後にした。
◇◇◇
青龍姿のシュヴァリエは、ベネディクト国の宮殿が見える場所までやって来ると、近くの森に降り立った。
青龍の気配で動物達が騒がないように、気配遮断を慎重に行い、そこからは歩いて向かう。
いきなり、宮殿の上空に青龍が現れたら、パニックになってしまうだろうから。
前もって、ステファンには連絡を入れてある。
ステファンが持たせてくれた魔道具の中に、簡単なメッセージを送れる、便利な物が入っていたのだ。
ようやく宮殿に辿り着くと、人目を避けいつもの研究室へ向かう。真夜中なので、廊下はシーンと静まり返っている。
ノックをして、扉を開けると――。
こんな時間だというのに……そこには、ステファン、ガブリエル、カリーヌ、ミシェルが待っていてくれた。
「サオリ様! お帰りなさいっ」
嬉し泣きのカリーヌが沙織に抱きついた。
「カリーヌ様っ、ただいま帰りました!」
沙織も目頭が熱くなり、涙が溢れてくる。
ひしっ!と抱擁し合う姿を眺めて、イザベラもうんうんと感動していた。
「皆様、ご心配をお掛けし申し訳ございません」
――シュヴァリエが、全てをこの場で報告した。
◇◇◇
シュヴァリエの話が終わるまで、誰ひとり言葉を発さず聞いていた。
その静寂を破ったのは、ステファンだった。
「……では。シュヴァリエは帝国の皇太子として、あちらに行くのですね?」
「はい。侵略国ではない平和な国にする為には、この龍の力が必要となるでしょう。私は、先祖と誓いましたので、それを果たさねばなりません」
あの頭に響いた声は、シュヴァリエの龍の血に引き継がれる思念体の言葉――そう結論付けた。
「サオリ姉様は、また何て危ない事を……ご無事で良かったです」
言いたいことが山ほどありそうなミシェルだが、本当に心配していたのだと表情から伝わってくる。
「ミシェル……心配かけて、ごめんね」
ガブリエルはそんな沙織を見つめ、黙って微笑んでいた。
その視線が優しくて、また泣きそうになってしまう。
「答えを……見つけた様だね」
「はい、お義父様」
ガブリエルを真っ直ぐに見て、沙織は言えた。
◇◇◇
――翌日。
沙織とシュヴァリエは、国王に謁見した。
昨夜の説明を国王にも伝えると、シュヴァリエのプレート破棄を行った。
「その、……なんだ。シュヴァリエ……龍の姿を見せてはもらえぬだろうか?」
少し照れながら言った国王は、少年の心の持ち主だったみたいだ。
「国王陛下、この場で青龍になりますと……王宮が壊れますので、この国を出る時でよろしいでしょうか?」
「……うむ」
けれど、シュヴァリエは大人だった。
「龍王の姿で宜しければ……」と、あの迷宮で見た姿になった。
青い髪に金色の瞳、龍の鱗を纏った身体は……圧巻の美しさだった。
格の違う魔力を感じ、国王は目をキラキラさせる。
(――子供かっ!)
と声に出して突っ込みたかったが、沙織も龍王姿のシュヴァリエを見れたので……まあ、良しとした。
謁見も終わり、ガブリエルとシュヴァリエは、これから先の国交問題を少し詰めたいと会議室へ向かう。
それを待つ間、ステファンにイザベラの契約紋を解除してもらうことにする。
それらが済むと――。
シュヴァリエとイザベラは、グリュンデル帝国へと帰って行った。
国王の希望により、宮殿の真上に現れた青龍が空を舞い、遠くに消えて行く姿は……とても神秘的な光景だった。
視力を強化して見れば、龍の上でぶんぶん腕を振るイザベラがいたのだが。
「行ってしまいましたね」
ステファンの声は少し寂しそうだった。
シュヴァリエは、ずっとステファンを影として見守って来てくれたのだ。ステファンもまた、影であったシュヴァリエの幸せを、誰よりも願っていたことを沙織は知っている。
「ステファン様。シュヴァリエはこの国も、きっと守り続けてくれますよ!」
そう確信をもって、沙織は明るく伝える。
(だって――)
シュヴァリエも、ステファンをとても大切に思っているのだから。