テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――学園の卒業式と、ダンスパーティーの日がやって来た。
帝国に行っていた間に、カリーヌは沙織のダンスパーティー用のドレスをオーダーしてくれていた。
用意されていたのは、シュヴァリエの髪色のよう素敵なドレスだった。
「カリーヌ様! このドレスにアクセサリー、とっても素敵です!」
「ふふっ、喜んでいただけて嬉しいですわ。今回は、イヤリングをお揃いにしてみました!」
魔石が埋め込まれた、品の良いイヤリング。
「実はですね……」と、カリーヌは悪戯っ子のように微笑んだ。
いつも突然、危険な所に行ってしまう沙織を心配し、イヤリング型の通信魔道具を、ステファンに作ってもらったらしい。
(うーん。……本当のチートは、私よりステファンなのでは?)
そんな疑念を持ってしまう。
肝心のエスコート相手は決められず……結局、沙織はガブリエルにお願いしたのだ。
式典も終わり、ダンスパーティーの準備が始まった。
皆それぞれに、エスコート相手を待ったり、迎えに行ったりするのだが。沙織は約束の時間まで、ここでガブリエルを待つことになっている。
――ふと、ホールの外が騒がしくなった気がした。
何かあったのかと思い、沙織も慌てて外へ出てみると……上空には何と青龍の姿があった。
「……ふぇっ!? ……シュヴァリエ?」
沙織は起こっている事態に混乱する。
青龍は、学園に向かって下降してくると……途中で人の姿になり、沙織の目の前に降り立った。
「ど、どうして?」
ダンスパーティーに相応しい、正装に身を包んだシュヴァリエは、格好良すぎだ。
その上、あまりにも衝撃的な登場で、注目の的になってしまっている。
「サオリ様、ご卒業おめでとうございます。どうか、私にエスコートをさせて下さい」
「は、はい!」
ドキドキして、思わず返事をしてしまったが……。
はっ!と、ガブリエルの事を思い出してキョロキョロする。
「アーレンハイム公爵は、あちらです」
シュヴァリエの指した方を見ると――カリーヌとステファンが微笑み、ガブリエルとミシェルは苦笑していた。
(え……まさか、お義父様)
シュヴァリエが来ることを、事前に知っていたみたいだ。
けれど、青龍で現れるとは、思ってもみなかったのだろう。
「申し訳ありません。もう少し早く、到着する予定だったのですが……」
シュヴァリエは何かを取り出すと、跪く。
「どうか、私に……これから先、一生をかけてサオリ様を守らせてください。そして、ずっと私のそばに居てください。こちらを、受け取っていただけますか?」
それは、綺麗な箱に入った、指輪だった。
「はい……、ずっと……シュヴァリエと一緒にいさせてください」
嬉しさで声が震える。
シュヴァリエは破顔し、沙織の左手の薬指に指輪をはめた。
「今度、あちらの世界のご両親にも、ご挨拶に行かせてくださいね」
耳元でそっと囁かれたシュヴァリエの言葉に、思わず抱きついた。
「シュヴァリエ、ありがとう! 大好き!!」
祝福の嵐の中、シュヴァリエにエスコートされた沙織は、ダンスパーティー会場へと向かった。
◆◆◆◆◆
その日――。
千裕は高校から帰ってくると、何となく引き出しを開けた。
「えっ? うそ……!?」
そこには、ある筈の物が無かった。
『乙女ゲーム』のパッケージ、更にはゲーム本体や保存しておいたスチルも全て、真っ白になっていた。
千裕も会った、あの見目麗しい美男美女が全て消えていたのだ。
「もしかして――沙織?」
沙織は、向こうの世界を現実だと言った。
それなら、同じ世界がゲームの中に存在するのは変ではないかと、千裕は漠然と思っていたのだ。
(だって……)
ゲームは作られた世界で、現実では無いのだから。
つまり、現実ではない方。世の中から、このゲームそのものが消えたのだ――。
「このゲーム結構人気あったから……こりゃ、荒れるなネットが」
いや、もしかしたら――。
(最初からゲーム会社まで架空で、全部が無かった事になっちゃってたりして。まあ、ゲーム会社はさておき……)
明日になったら、誰もゲーム自体を覚えていないかもしれない。多分だが、千裕はその予感が当たりそうな気がした。
「あはっ! きっと沙織が、向こうの世界を現実にしちゃったのね!」
沙織ならやりかねない。
「まあ、私は絶対に沙織のことは忘れないけどね! おーい! たまには、こっちに帰って来いよー!」
千裕は何も無い天井を見上げて叫ぶと、にっこり笑った。