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午前中に執務室に来るのはいけないと知っていながら、時々こうして明はフラリとやってくる、北斗は明を追い出すことはしなかった
これが直哉なら別だが、北斗は血が繋がっていない、傷つきやすいこの子に深い愛情を抱いていた
明は鼻に皺を寄せて言った
「ど・・・どうして、あ・・あんなことしたの? 」
「あんなことって? 」
北斗はしらばっくれたものの、明の問いかけには見当がついていた
「あ‥あ・・あの人と・・けっ・・結婚・・・・ 」
「彼女がとっても綺麗だからだよ、外見も心も」
北斗は明を抱き上げて、机から降ろし執務机の椅子に腰かけさせる
そして自分は執務机の後ろの四方壁一面と、天井まである本棚に向かった
天井は高く、上の段などは脚立が無ければ取れない、話すことが苦手な北斗の唯一の趣味は読書だった
ここは長年北斗が集めたコレクションが息づいていた
そして同じ吃音症に悩まされている、7歳の明にも読み書きを教えたのは北斗だった
なので明には自由にここの書籍を提供していた
「あ・・・あの人・・・は・・裸だったよ・・・・ 」
北斗は本棚から書籍を一冊取り出し、パラパラめくってさも何でもないように言った
「風呂に入ろうとしていたんじゃないか?」
「ナ・・ナオもそう言った・・ 」
フム・・と北斗は人差し指と親指で顎を挟んだ。さすがは兄弟だ
「お・・・おふろは・・・あ・・あそこには・・・ないよ 」
「服を脱いでから、気づいたんじゃないか?」
「ナ・・・ナオもそう・・言った」
やっぱり兄弟だ、北斗はそう思った。いかにも面白くなさそうに明は言った
「あ・・・あの人・・・ずっと北斗の家にす・・住むの?あの人の事が好き?ほ・・本当に? 」
北斗は明を抱き上げて同じ目線にした、そうすることでハッキリ明に自分の意思を伝えるためだ
こうして目を見て話すことは、吃音症の人間にはストレスが溜まる。北斗は自分が経験してきたからこそ、小さいうちから明に指導してあげれる大人が必要だと思った
自分が子供の頃にそうして欲しかったように
「俺はアリスが大好きだよ・・・・だから嫁にした。アリスはアキの家族でもあるんだよ?アリスに優しくしてやってくれるか?俺のために・・・ 」
予想していた以上にたった数日過ごしただけで、こんなにもアリスを愛するようになった、自分に驚いてるぐらいだ
明はしばらく北斗の顔を見つめ、納得したようにやがて頷いた
「わ・・・わかった・・・・」
「今日新しい単行本が届いたぞ持っていくか? 」
北斗がゆび指す方に明の顔が動いた
執務机の上に茶色い包み紙で覆われた「ハリーポッター・シリーズ」と書かれた10冊の単行本が置かれていた
明は喜んで茶色い包みから2冊取り出した
「き・・・今日でぜ・・全部読むっ」
「読んだら次貸せよ 」
嬉しくてたまらないといった感じで、明は両手で本を腕に抱いて、スキップしながら出て行った
北斗は思わず微笑んだ、子供は大好きだ
血が繋がっていない明でさえあんなに可愛いんだから、自分の子供だとどうなるのだろう
アリスによく似た女の子だったら、心配でしょうがなくなるだろう
男の子だったら逞しく育てよう、それでいて自分より弱い存在には優しくしてやれるように躾けてやりたい
何があっても絶対傍にいて助けてやりたい
自分は絶体あんな父親にはならない
アリスはきっと礼儀や、言葉遣いにうるさくなるだろう
どっちみち明には遊び相手が必要だと北斗は思った