テラーノベル
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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第75話:どれだけ雪が降ろうとも〜ダイヤモンドの言い訳と、世界で一番温かい場所〜
限界集落の夜空を覆い尽くした、宇宙規模の光の乱舞。
神獣シロの祈るような長鳴きと共に現れた『オーロラ』は、一千万人の同時接続者が見守る中、今もなお天空で優雅に揺らめき、十勝の雪原を幻想的なエメラルドグリーンに染め上げていた。
広場の氷の城で宴会をしていた村長や村の老人たちも、感動のあまり言葉を失い、ただただ夜空を見上げて涙を流している。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Beautiful… This is the ultimate treasure of the earth!“(美しい……これぞ地球の究極の宝だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”I can’t stop crying. Thank you, Master. Thank you, Shiro.“(涙が止まらないわ。ありがとう主。ありがとうシロ。)』
世界中のVIPたちも、そして一千万人のリスナーたちも、画面越しに広がる奇跡の絶景に完全に心を奪われ、チャット欄は感謝と感動の言葉で埋め尽くされていた。
「……お兄さん。私、北海道に生まれて本当によかったです。こんな奇跡みたいな景色、一生忘れません」
隣に立つ小春ちゃんも、両手を胸の前で組み、瞳を潤ませながら夜空を見上げている。
だが。
俺は、元・陸上自衛隊需品科、そして過酷なクレーム対応を潜り抜けてきた元社畜としての『鋼のポーカーフェイス』を、ミリ単位も崩してはいなかった。
「……世界中の皆さま。そして小春ちゃん。感動の熱に浮かされているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
俺はジンバルにセットしたスマホを持ち、氷の城を背にして、村人たちが宴会を開いている一角へとゆっくりカメラを向けた。そこには、村長が『最高のつまみだべや!』と重機で我が家から樽ごと勝手に運んできた、見覚えのありすぎる物体が鎮座していた。
『出たァァァァァ!!!』
『世界中が泣いてるのに、ブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・感動破壊フィナーレ編ww』
『まだ言い訳する気かよww 頼むから今日は空気読んでくれww』
俺は、広場の片隅に置かれている『コレ』を大写しにし、淀みないフラットボイスで言い放った。
「空が光っているのは、神獣の奇跡でも天空の魔法でもありません。あれは、そこに置いてある『コレ』が原因です」
カメラのレンズが捉えたのは、巨大なプラスチック製の漬物樽。
チャンネル登録者一千万人記念の、MeTube公式から贈られた鈍く輝く銀色のプレート――『ダイヤモンドの盾』が、その樽の中で美味しく漬かりつつある『白菜』の上に、重石として無造作に乗せられていた。
「……は?」
小春ちゃんの涙が、一瞬で引っ込んだ。
俺はキリッとした真顔のまま、堂々と解説を続ける。
「ダイヤモンドの盾の中心に埋め込まれたクリスタル部分に、氷の城のプリズム光が偶然直撃し、強烈な乱反射を起こしたのです。それが上空に立ち込める低層雲に投影され、風で揺らめいているだけです。ええ、ただの巨大なプロジェクター現象であり、光学的な『漬物石の反射光』ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、氷の床をツルッと滑りそうになりながら、俺の背中に渾身のツッコミを見舞った。
「漬物石にしてる盾の反射光が、宇宙規模のオーロラになるわけないでしょ!! どんだけ光量がバグってるんですか!! しかも白菜の汁まみれじゃないですか!! どう見てもシロちゃんが天に祈って降らせてくれた奇跡でしょうが!!」
『小春ちゃんの完璧な正論パンチ!!』
『漬物石の反射光(宇宙規模)』
『適応力バグおじさん、ついにダイヤモンドの盾を言い訳のダシに使うww』
『一千万人の感動を白菜の漬物で上書きする男ww』
『オーロラ(物理)』
『MeTube CEO「そんな機能は付けてない」』
俺の理不尽極まりない現実逃避と、小春ちゃんの鋭すぎるツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を引っ込め、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
「……ふっ。まぁ、理由はともかく、いい祭りだったな。世界中の皆さま、限界集落の『裏雪まつり』はこれにて閉幕です。風邪を引かないように、暖かくして寝てくださいね」
俺はカメラに向かって笑いかけ、配信の終了ボタンをタップした。
プツン、と画面が暗転し、世界中との繋がりが切れる。
後に残ったのは、オーロラが優しく照らす限界集落の静寂だけだった。
「あーあ。お兄さんのせいで、せっかくの感動が台無しですよ」
小春ちゃんがぷくっと頬を膨らませるが、その顔はどこか楽しそうに笑っていた。
「まぁいいだろ。泣きながら寝るより、笑い疲れて寝る方が健康的だ。ほら、もふもふたちも眠そうだし、俺たちもそろそろ引き上げよう」
片付けを村長たちに任せ、俺と小春ちゃんはシロたちを連れて、ポカポカと温かい我が家へと歩いて帰った。
古民家に到着すると、俺は縁側のガラス戸を閉めて、鍵をかけた。
シロの『適温25度の絶対防壁』が、外界のマイナス二十度の極寒を完全にシャットアウトしてくれる。
「ふぁぁ……」
大きな欠伸をしながら、俺は居間の中心に鎮座する『こたつ』へと、吸い込まれるように潜り込んだ。
『ミャウ(お疲れ様)』
すでにこたつの中央を陣取っていたシロが、俺の胡座(あぐら)の上にトコトコと乗ってきて、丸く香箱座りをした。
その純白の毛並みからは、太陽のような温もりと、極上のマイナスイオンが放たれている。
『コンッ!』
『キュゥ!』
さらに、外で遊び疲れたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎も、急いでこたつに潜り込んできた。
二匹は俺の両脇にピタリとくっつき、フサフサの黄金色の尻尾を俺の腕に巻きつけて、あっという間に寝息を立て始めた。
「……お前ら、本当に遠慮がないな」
俺は苦笑いしながら、シロの背中を撫で、キツネたちの頭を優しく撫でた。
ブラック企業で、暖房も切られた深夜のオフィスに一人取り残され、凍える手でキーボードを叩いていたあの冬。
誰の温もりもなく、ただ絶望だけが降り積もっていた日々。
それが今や、どうだ。
右を見ても、左を見ても、膝の上を見ても、最高に温かくて柔らかい『もふもふ』たちが、無防備に俺に命を預けて眠っている。
元・需品科として完璧な兵站(ロジスティクス)を誇る俺でも、この圧倒的な『温もりの物量』の前には、完全に降伏するしかなかった。
「……おやすみ、お兄さん。シロちゃんたちも」
隣の布団に潜り込んだ小春ちゃんが、安心しきった声で呟き、静かに寝息を立て始めた。
「ああ。おやすみ」
俺は、こたつの天板に腕を乗せ、ゆっくりと目を閉じた。
窓の向こうでは、オーロラの残光が消えゆき、再びしんしんと、音もなく真っ白な雪が降り始めている。
これから先、北海道の冬がどれだけ牙を剥こうとも。
世界がどれほど理不尽な猛吹雪に包まれようとも。
俺の帰るこの場所は、絶対に、揺るがない。
神獣のオーラと、黄金の眷属たち。そして、画面の向こうにいるたくさんのバカで愛すべき共犯者たち。
ここは間違いなく、世界で一番温かくて、世界で一番幸せな、俺だけの『限界集落』なのだから。
コメント
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やっば第75話読み終わったよ〜!!😭💕 オーロラの光がまさかのダイヤモンドの盾の反射光&白菜の漬物石ってww 世界中が感動して泣いてる横で「ただの光学的現象です」ってキリッと言い放つ主、強すぎるでしょ!!小春ちゃんの渾身ツッコミも完全決まってて、腹筋崩壊したわww でも最後のこたつでシロともふもふたちに囲まれて「世界で一番温かい場所」って締めるの、ギャグと尊さの振れ幅バグってる…!幸せすぎて泣ける😭💎✨ 次話もめっちゃ楽しみにしてます!!