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第28話 〚静かに立ち上がる三軍女子たち〛
海翔が席に戻ったあとも、
教室はしばらく静まり返っていた。
誰も、りあを見ない。
でも、澪を見る視線は――
さっきまでとは、少し違っていた。
澪は、席に座ったまま、
まだ胸の奥の熱を持て余していた。
(……夢じゃないよね)
そんな澪の机に、
コツン、と小さな音がする。
顔を上げると、
えまが立っていた。
腕を組み、
いつもの少し荒っぽい目つき。
「……さっきの」
教室中に聞こえるほど大きくはない。
でも、はっきりした声。
「私は、白雪が調子乗ってるとか、
一回も思ったことないから」
一瞬、空気が止まる。
続いて、
しおりがゆっくり立ち上がった。
「私も」
穏やかな声なのに、
芯がある。
「澪は、自分から誰かを傷つけること、
一度もしてない」
「それなのに、
悪く言われるのは、おかしいと思う」
最後に、
みさとが照れたように頭を掻きながら立つ。
「えっと……」
少し笑って、でも真剣に。
「澪ってさ、
面白いし、優しいし」
「一緒にいると、
落ち着くんだよね」
三人の言葉は、
大きくも、派手でもない。
でも――
確かに、教室の空気を変えていた。
「……私も、そう思う」
誰かが、小さく言った。
「白雪さん、別に悪くないよね」
別の席から、
頷く人が増える。
りあは、
その様子を信じられないように見ていた。
(……三軍のくせに)
そう思いたいのに、
誰ももう、笑っていない。
澪は、
目の前の三人を見る。
えまは腕を組んだまま、
しおりは静かに微笑み、
みさとは少し照れくさそうに手を振った。
(……ありがとう)
言葉にしなくても、
それは伝わった。
この日、
教室で起きたのは小さな変化。
でもそれは――
確実に、流れを変える一歩だった。
声を張り上げなくてもいい。
目立たなくてもいい。
静かに立ち上がるだけで、
世界は少し、変わる。
そして澪は、
もう一人じゃなかった。
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