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第29話 〚崩れ始める“自称一軍”〛
その日から、
教室の空気は微妙に変わった。
誰も大声で何かを言うわけじゃない。
でも――
姫野りあの周りだけ、静かだった。
昼休み。
りあは、いつものように数人の女子に話しかける。
「ねえねえ、今日の体育さ〜」
返事は、少し遅れて返ってきた。
「あ、うん……そうだね」
視線が合わない。
会話も、すぐ終わる。
(……なに、これ)
りあは、内心いら立つ。
(昨日まで、こんなんじゃなかった)
別の女子に声をかけても、
反応は似たようなものだった。
笑顔はある。
でも、距離がある。
その理由を、
りあは分かっていた。
――橘海翔。
あの一言。
「正しい方に立ってるだけ」
それが、
クラスの“基準”を変えてしまった。
放課後。
りあは、
教室の後ろから澪を見ていた。
えま、しおり、みさとに囲まれて、
静かに話している澪。
笑っている澪。
(……なんで)
(なんで、あの子が)
胸の奥が、
ぎりっと歪む。
りあは、
一軍だと思っていた。
可愛くて、
男子にも人気で、
中心にいる存在。
でも――
“誰かを下げることで立つ場所”は、
とても脆かった。
一方で、
澪の周りは、少しずつ増えていく。
大げさな味方じゃない。
でも、
「それ言い過ぎじゃない?」
「白雪さん、関係なくない?」
そんな一言が、
自然に出るようになった。
りあは、
それを聞くたび、笑顔を作る。
「え〜、そんなつもりないよ?」
でも、
誰も深くは乗ってこない。
初めて感じる――
“中心にいない感覚”。
その日の帰り。
りあは、
一人で靴箱に立っていた。
周りには、
誰もいない。
(……私、間違ってた?)
一瞬だけ、
そんな考えが浮かぶ。
でもすぐに、
首を振る。
(違う)
(悪いのは、あっち)
そう思わないと、
自分の立場が崩れてしまうから。
りあは、
ぎゅっと鞄を握った。
自称一軍の居場所は、
音もなく、崩れ始めていた。
そして――
その崩れを、
りあ自身が一番、感じていた。