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「第五幕」 月殿本丸決戦前夜
月殿城の中庭――かつて敵兵が訓練をしていた石畳の広場に、今は小さな焚き火が燃えている。
夜風が吹き抜け、遠くに海の匂いが漂った。
ラシードは剣の刃を研ぎながら、焚き火の向こうを見て呟く。
「……俺は昔、戦場から逃げたことがある。仲間を見捨ててな」
その声に、あなたもリュミエールも静かに耳を傾けた。
「でも、もう逃げない。今回は、どんな地獄でも一緒に抜ける」
リュミエールは焚き火に両手をかざし、炎の揺らぎを見つめていた。
「私は幼い頃から、兄の背中だけを追ってきた。でも、その兄が迷ってしまった……」
彼女はカイラスをちらりと見て微笑む。
「だから明日は、兄と一緒に正しい道を歩く」
カイラスは無言で座っていたが、やがてゆっくり口を開く。
「俺は剣を振るう理由を見失っていた。ただ“守れ”と言われるままに……」
彼はあなたを真っすぐ見据える。
「だが、お前たちを見て気づいた。守るとは、命令じゃなく、自分の意思ですることだとな」
そして、あなた。
星欠片を握る手に力がこもる。
この旅の始まりの日、あの小さな村で見た夜空。
守れなかった人々の笑顔、消えた光。
――もう二度と、あの光を失わないために。
焚き火がぱちりと弾ける。
誰もが黙り、月を見上げる。
明日、この月殿城で全てが決まる。
生き残れる保証はない。
だが、ここに集った者たちの心はひとつだった。
ラシードが立ち上がる。
「さあ、休め。明日、全員で勝ちを取りに行くぞ」
あなたは頷き、目を閉じた。
夢の中でも、夜空の星が武器となり、仲間の背を守っていた――。