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全三話。
中編、後編にいくにつれ下ネタ連発と吉田コード発動する空気になりますがエロくはない…はず…。
相変わらず長いですが暇つぶしにどうぞ!
佐野勇斗という男は、とにかくグループ愛が深すぎることで有名だ。
まだ「M!LK」の名が世間に広く届いていなかった頃から、彼は俳優として単身で爪痕を残し、知名度を着実に上げてきた。
それもすべて「グループに還元するため」と言っても過言ではない。
明るく社交的で、間違いなくM!LKの顔である佐野だが、その裏には泥臭いほどの努力と真面目さ、そしてグループを背負い立つ圧倒的な覚悟がある。
テレビ業界がそんな実直な男を放っておくはずもなく、今やドラマ、映画、バラエティと引っ張りだこで、遥か先までスケジュールはびっしりと埋まっていた。
間違いなく、M!LKで一番忙しい男だ。
それなのに、彼は少しでも隙間時間があればM!LKのために動き回る。インスタライブをつけ、撮影裏でカメラを回し、スタッフやメンバーとの打ち合わせを入れる。休むという選択肢が彼の辞書には存在しないらしい。
最近でこそ「少しは寝なきゃ持たない」という体の悲鳴と気持ち自体は芽生えたようだが、お前は休んだら死ぬ回遊魚なのかと言いたくなるくらい基本的には動き続けている。
メンバーから見ても、そのタフさはもはや心配の種でしかなかった。YouTubeの撮影中やインタビューの合間など、折に触れて「ちゃんと寝られてる?」と声をかけるのが日常茶飯事になっている。
過密スケジュール自体は仕事柄仕方のないことだ。だがせっかくの休日にまで自主的に仕事を入れるのは流石にいただけない。
本人は「M!LKのことを考えるのは楽しいから!」と無邪気に笑うが、ここ最近は目元に隠しきれないクマがうっすらと浮かび上がっていた。吉田が見かねて注意すると「頭の中に『これやりたい』ってことが一個でもあると、気になって寝られなくなるんだよね。」と悪びれもせずに返す始末だ。
さらに最近は、ライブ演出やEBiDANライブの全体練習、ユニットのダンス練習にも佐野だけ参加できないことが増えていた。
一人で遅れてスタジオに入り、居残りで練習を重ねる日々。日に日に疲労の色が濃くなっていく佐野にとって、過密日程以上に「メンバーに会えないこと」が精神的な追い討ちになっているらしく、顔を合わせるたびに「みんなに会えなくて寂しかった〜」と嘆いていた。
なんとかして、彼にまともな休みを取らせてあげたい。
それも、絶対に仕事を挟ませない前提で。
仕事のタスクが頭にあるから寝られないというのなら、その思考ごと強制シャットダウンさせるしかない。
「……あいつ、仕事って言われたら真面目に取り組むかも。」
楽屋での吉田のふとした呟きに、メンバーたちにある案が浮かぶ。
休ませるのではない。「寝ること」そのものを仕事にしてしまえばいいのだ。
——寝ぬのなら、寝るまで寝かせてみせようホトトギス(佐野バージョン)。
かくして、佐野以外のメンバー四人は、愛ゆえの『佐野勇斗を眠らすドッキリ企画』を立案するのだった。
◇
「どうも!僕たちは」
「「「「M!LKです!」」」」
「…なんですが、ご覧の通り今日は佐野くんが不在でございます。」
都内某所のスタジオの一角。
吉田の仕切りから撮影がスタートする。隣では曽野と山中が「勇ちゃんおらへん!めずらしっ!」「いえ〜い。」とカメラに向かって手を振り、楽しそうにピースをする。
「佐野くんは本日別室で休んでもらってます。理由は至極シンプルです。あの人、忙しすぎてクマがヤバいから。」
「まじで最近寝てへんのよ!勇斗は休みの日にまでYouTubeの企画考えてたりするんやで。」
塩﨑の言葉に頷きつつ「てなわけで」と、吉田から改めて今回のタイトルコールを視聴者へお伝えする。
「はい本日よりスタート『佐野勇斗、寝ぬのなら寝かせてみせようホトトギス企画』〜〜〜!!!」
「え〜、我らグループの最年長、稼働率100%・休むことすら忘れた仕事中毒こと佐野勇斗に、今日は『仕事』という名目でガチで寝てもらおうと思います。僕たち四人がそれぞれ自信のある『安眠案』を持ち寄って、佐野くんに四週に渡って試してもらうドッキリ検証企画です!…ということで、今から何も知らず楽屋で休んでいる佐野くんのところへ突撃します。」
ゾロゾロと移動し、吉田がゆっくりと楽屋のドアを開ける。室内では、ソファに浅く腰掛けた佐野が、今にも閉じそうな目を必死に開けながらスマホを眺めていた。
「勇斗〜、お疲れ〜……って、まじであなた今にも寝落ちそうじゃないの。」
「お疲れぇ…仁人珍しく遅いじゃん…って、ん?カメラ?撮影?あれ今日のこの時間はライブの打ち合わせじゃ…。」
カメラを向けられ、佐野はパチパチと瞬きをしながら首を傾げるとすかさず塩﨑が前へ飛び出した。
「はぁい! !本日よりスタート!『佐野勇斗、寝ぬのなら寝かせてみせようホトトギス企画』〜〜〜!!!」
「……は?? なにそれ笑。」
突如始まった謎のタイトルコール(二回目)に、なになに?と面白くなってきた佐野の口元が緩む。
「勇ちゃん、これから俺たちが毎週一人ずつ用意した安眠法で、今から三時間ガチで寝てもらいま〜す。これは仕事で〜す。」
「えっ、仕事で寝ていいの!?…いや待って、寝る時間があるなら俺この後インスタライブの準備をしようかな…。」
案の定、ワーカホリックな男に、曽野と吉田が止めに入る。
「あかんあかん!!」
「だーかーらー!そういうのを全部忘れて寝ろって言ってんの!仕事なんだから大人しく寝なさい!」
お母さんのようにビシッと指をさされて叱られると、佐野は「ええ〜」と言いながらも、吉田に怒られてどこか嬉しそうに目を細める。
これから四週にわたって繰り広げられる、計十二時間の「安眠検証」。
検証後に最も効果が高かった安眠法は、メンバーから佐野へプレゼントされる手筈になっている。
「え、じゃあ本当にこの時間は寝ていいんだ…?」
「そうだよ。まずは俺ら四人が安眠案を持ってきたから、どれから試していくか決めてね。」
吉田が促すと、メンバーそれぞれが背中に隠していたフリップを取り出した。四人が横一列に並び、佐野とカメラに向かってフリップの表面を伏せる。
「じゃあみんな、せーので出すよ。せーの!」
「「「「バン!!」」」」
勢いよく裏返されたフリップには、四者四様の安眠案がデカデカと手書きで書かれていた。
吉田:『安眠枕とアロマオイルと超極上ブランケット3点セット』
塩﨑:『太智くんの寝る前のきんしかんほうストレッチ』
曽野:『仁ちゃんの膝枕』
山中:『よっしーの抱き枕(※生身も可)』
文字に目を通した瞬間、ちょっと待てぇ!と吉田は持っていたフリップを床へ勢いよく叩きつけた。
「太智以外おかしいだろ!バカなの!!?大喜利してるんじゃないよ!!お前らもっかい真面目に考えてこい!!」
怒号を響かせる吉田に対し、佐野はヒーヒーと腹を抱えて爆笑し、末っ子二人はどこ吹く風でキョトンとした顔を見せ合う。
「え?柔、俺らめっちゃ真剣に考えてきたやんな?てか太ちゃん、きんしかんほうって全部ひらがなやん笑!」
「そうだよ〜こっちも寝ずに考えて来たんだからさぁ。てか逆に二人とも無難すぎってか、仁ちゃんのそれ絶対自分が使ってて良かったアイテムでしょ。自分のおすすめ持ってくるところがよっしーらしいよねぇ。」
山中から鋭いツッコミを食らい、吉田の顔が瞬時に赤くなった。
「そうだよ?勇斗が一番寝れそうなのを考えた結果だよッ!無難だろうがいいでしょ!!お前らのアホみたいな提案よりマシだろうが!!しかも何二人揃って安眠対策が俺なの!?悪意しか感じねぇわ!!その※とかいらんもん付け足すな!!」
憤慨する吉田の横で塩﨑は「さのじんトーク」の気配を察知したのか、急速に興味を失った様子で一気に真顔になっていた。スンッと無表情になる塩﨑に、曽野が気づいて笑う。
「ねぇねぇ、仁人。枕とか俺用にわざわざ買ってきてくれたの?」
ふいにソファから佐野がニヤニヤしながら口を挟む。その意地悪そうな顔につい対抗心が湧き、吉田は「そうだよ!」と勢いで返してしまった。
「「「愛だねぇ。」」」
「……ッ!うっざぁ!!何こいつら!!真剣に企画立ち上げた俺が馬鹿みたいじゃん!!」
ニヤニヤしながら声を揃えるメンバーを前に、顔を真っ赤にして地団駄を踏む吉田の姿。それを見てお前はうさぎさんか?と佐野の目元がますます細くなった。こういうところがたまらなく可愛いなぁと思う。
「勇斗!ごめんね、もう一回やり直すから……。」
気を取り直して佐野に向き直り、申し訳なさそうに謝る吉田。しかし、佐野はニコニコと満足そうに微笑むだけだった。
「いや、いいよそれで。」
「え?」
予想外の言葉に、吉田はハトが豆鉄砲を喰らったような顔で固まる。困惑する吉田をじっと見つめながら、佐野は笑顔でもう一度はっきりと伝える。
「いいよ。その案で試してみよう。」
「…うそでしょ…。」
まさかの快諾だった。
「…あのね、佐野さん。YouTube企画だからといって無理してボケに走ろうとしなくていいんだよ?お前がボケても面白くないし。」
「いや、失礼極まりないだろ!でもマジで無理してない、純粋にこの検証に興味がある。」
「はい???興味とは……???」
こいつは何を言っているのだと吉田が混乱していると、すかさず曽野と山中が進行を横取りして仕切り出した。
「はいはーい!時間は無限ではなく有限やしそろそろ始めていくでぇ〜。」
「勇ちゃん何から行く〜?」
「ん〜じゃあ、仁人から順番通りでいいよ。」
「え、は??マジで行くの?これ?本当に?」
佐野の即答に未だ困惑が抜けない顔をする吉田の横で、塩﨑がニヤニヤしながら小声で呟く。
「後半二週はさのじんタイム確定やんけ。俺耐えられへんよどないしよぉ。」
「お前はお前で俺に失礼。」
◇
第一週
「まずはトップバッター、吉田仁人いかせていただきます。」
末っ子組のくだらない案に負けてられないと、持ち前の負けず嫌いに火がついた吉田は、絶対一番になってやると意気込んでカメラに向き合う。
むしろあのラインナップを見たら敵は塩﨑だけだ。
「僕からは安眠枕とアロマオイルと超極上ブランケット3点セットで検証をしていきたいと思います。佐野くん、よろしくお願いします。」
「はい、よろしくっ。」
ニコニコ笑う佐野に、やけにご機嫌だなこいつと訝しげながら「では、こちらの布団にまず入ってくださいね。」と楽屋に用意した布団に促す。
「おぉーこの枕、肌触りめっちゃいいわ!」と横になる佐野に隣で腰をかけた吉田は「そうだろそうだろ。」とブランケットを掛けてあげながら満足げに頷く。
「まずは僕がこれを選んだ理由なんですけど、この枕は頭の形に合わせて沈み込んで首の負担をゼロにしてくれる優れもので、ブランケットも肌触りが尋常じゃないくらい気持ちいいんですよ。実は両方僕も愛用してて、マジで一瞬で落ちます。それとアロマオイルは、過去に香水コンシェルジュを担当した僕が厳選した香調です。勇斗とは香りの好みが一緒なので、絶対ハマるっていう自信があります。」
「えー、俺の好みなんで知ってんの?笑」
「何年一緒にいると思ってんだよ。」
そう言って誇らしげに鼻を鳴らす吉田に、佐野は「知ったかぶりしちゃって〜」と茶化しつつも、自分の好みを完全に把握されていることが隠しきれない笑みとなって口角が上がる。
「じゃあこのセットを使えば人類皆吉田仁人になれるってことか。」
「そんなんでなれたら俺、お手軽過ぎるわ。…ちなみに、佐野さんは検証結果後の話は覚えていますか?」
そう、検証後に最も効果が高かった安眠法は、メンバーから佐野へプレゼントするという話だった。
…が、吉田からしたら山中と曽野の案が万が一、億が一、選ばれた場合一体何を渡せばいいというのだ。そんなアホみたいな展開には絶対にさせてたまるか。
布団に寝っ転がる佐野の顔横に両手を突き、のしかかるように上から顔を覗き込む。
今日吉田が着ているのは、少し首元の開いたゆったりとしたオフホワイトカラーのニットだ。上から覆い被さる姿勢になったことでゆるりと襟ぐりが垂れ下がり、その隙間から普段見せない吉田の鎖骨と透き通るような白い肌が鮮明に覗く。本人は全く無自覚なのだろうが、その無防備な近さとあざとさに、佐野は一瞬目を奪われそうになる。
まるで押し倒しているかのようなそのまま至近距離で、吉田はふんわりと笑ってみせた。
「だからね?勇斗。絶対、俺を選んでね?」
わずかに開いたぽてっと色っぽい唇と、笑うと下がる目尻。この可愛さを本人はどこまで自覚しているのやら。
薄々感じてはいたが「この顔を向ければ勇斗は俺に甘い」とわかっている節がある。このタイミングでこの顔をして微笑みかけてくるあたり、間違いなく計算しているんだろうなこいつ。
あざといなぁと心の中で思いながら、佐野は「どうでしょうねぇ」とニヤリと微笑み返す。対して反応がイマイチ悪い佐野に不満そうな顔をする吉田。佐野からしたら勝負は勝負、どんな可愛い顔で言い寄られようとも検証はきっちりさせてもらうつもりである。
アロマオイルをセットした後は部屋を暗くし、吉田は用意した別室にてメンバーと共に、楽屋のカメラ映像をモニターで見守る流れだ。さすがに三時間もあるので各自仕事をしつつ、ではあるが。
「じゃあ、勇斗。おやすみなさい。絶対仕事するなよ。」
出て行こうと立ち上がった瞬間、ガシッと手を握られ一瞬びくっと肩を跳ねさせる。
「ちょっと、離して。」
「んー眠いは眠いんだけどさ、一人になると寂しいから寝るまで手を握ってて欲しい♡」
「…は?きっしょ。散々俺のこと寂しがりやとか言っといて…。」
暗がりの中、見上げてくる佐野の視線はやけにまっすぐで、握られた手から直に熱が伝わってくる。普段はグループを引っ張る男が二人きりで見せる無防備な甘えは毎度心臓に悪い。
(……うっ、こいつのこの顔に弱いんだよな…。)
湧き上がる胸のむず痒さに耐えきれなくなった吉田は、握られた手を少し強引に振り払う。
「……無理。大人しく寝てください。」
「え、仁ちゃん!!冷たぁ!」
逃げるように楽屋を出た吉田の背中に佐野の不満そうな声が追いかけてきたが、顔の火照りを悟られないよう、吉田は振り返らずにドアを閉めた。
一方、別室のモニターで一部始終を見ていた三人は、序盤からのさのじんタイムに砂を吐きそうであった。
◇
検証結果。
「まーー普通に気持ちよく寝れた。でも仁人が手握ってくれなかったからマイナス五十点かな。」
「はぁ!?ふっざけんなよ!!!そんなオプションついてませんから!!」
理不尽すぎる減点にブチギレる吉田と、「照れて逃げただけやん」と冷ややかな視線を送る塩﨑たちであった。
◇
第二週
「今週は俺の出番や!!『佐野勇斗、寝ぬのなら寝かせてみせようホトトギス企画』!!題して、太智くんの寝る前のきんしかんほうストレッチ〜!!」
お馴染みのメンカラジャージ姿で「だ〜いチャージ!!」とカメラの前に立つ塩﨑が、本日もハイテンションにタイトルを叫ぶ。そのエネルギーに引っ張られるように、同じくジャージ姿の佐野も思わず笑顔になった。
「俺、太智のは普通に楽しみにしてたんだよ!」
「ほっほっほ!勇斗もよく筋トレするやろ?トレーナーさんにも教えてもらったんやけど、やっぱ筋肉をぎゅーってして、パッ!ってやったら、身体がふわーっとなって超寝れるのよ!!」
「…あの…言いたいことは分からなくもないけどさぁ。」
腕を組んで隣に立つ吉田が、ジト目で塩﨑を睨みつける。
「なんで俺らまで全員ジャージ着て呼び出されてんの?俺、筋トレ後のストレッチなんて一ミリも興味ないんだけど。」
「仁人もいずれするかもしれへんやろ?」
「しないよ。」
即答する吉田に、山中が「よっしー、筋トレなんてガチで興味ないもんね」とクスクス笑い、曽野が「まあまあ仁ちゃん!太ちゃんがせっせと準備してくれたんやから!」とニコニコしながら吉田の肩を叩く。
「そうやぞ舜太!聞いて驚くなかれ、今回はただのストレッチちゃうねん!なんやっけ、ぷろぐれっしぶ……なんちゃら…、とにかく日本語で言うと『きんしかんほう』や!!」
「え、太智が難しい言葉知ってる…?奇跡?」
感動する佐野に、塩﨑はふふんと胸を張ってドヤ顔を決めた。
「凄いやろ!要するに一回ぎゅーーっと全身に力入れてから、一気に脱力!これをやると頭がバカになって超熟睡できるんや!」
「勢いだけで説明すんな。あと頭はバカにならん、リラックスするだけね。」
吉田がすかさず訂正を入れると、山中は「え、太ちゃん今なんて言った?『きんし…』?一ミリも分かんないんだけど」と首をかしげ、曽野が「んーと、要するに一回筋肉をめちゃくちゃ緊張させてから緩めると、落差で身体が超リラックス状態になる、ってことやろ!」と噛み砕いて補足する。
「っちゅーわけで!あらかじめ勇斗には寝る三時間前に軽い運動を仕込んであるから、ここからは全員で実践していきます!みんなもポーズ真似してな!」
「あ、やっぱり俺らもやるのね?」と苦笑する末っ子組をよそに、塩﨑インストラクターの指導のもと全員でのストレッチ&筋弛緩法がスタートした。
「じゃあまずは、上半身!腕をぐーっと上に伸ばして、肩とお腹に全力で力込めて!五秒キープ!」
塩﨑の掛け声で、五人全員が全身に力を込める。
グループのダンスを引っ張るふたり――圧倒的なパワーと跳躍力でブレない軸を持つ塩﨑と、しなやかで芯のある確固たる体幹を誇る吉田のポーズは美しく、一ミリもブレない。
「太智と仁人はさすが軸が全然ぶれねぇな。」
「当たり前だろ、ダンス歴舐めんなよ。」
隣の佐野の呟きに、吉田は姿勢を崩さずドヤ顔で返す。
「はい、脱力ーー!…からの、次は間髪入れずに全身!!つま先立ちで頭のてっぺんまで百二十パーセントの力込めて!」
間髪入れずに畳みかける塩﨑の言葉に、負けず嫌いな吉田は意地でも完璧なポーズを作ろうと、爪先立ちで全身に極限まで力を込める。驚くほどの体幹で、一本の美しい芯が通ったように微動だにしない。
「う〜案外きついッ!よっしー爪先立ちなのに全然揺れないじゃん、すご。」
「あかんあかんこれけっこうきっつい!!」
「はい、一気に抜けーーー!!」
合図とともに、全員が「ふぅーっ」と息を吐いて力を抜く。
その瞬間だった。
さっきまで完璧な体幹でビシッと停止していた吉田の体が、一気に緊張を解かれたことでふにゃふにゃのタコのように崩れ、すぐ隣にいた佐野の胸元へ倒れ込んできたのだ。
「うおっ!?」
「…ふぁっ、あっ、ごめんっ!」
不意に飛び込んできた柔らかな重みと熱に、佐野は思わず抱きとめる形で吉田を受け止める。
脱力した状態で佐野の厚みのある胸に顔を埋めたまま、「ふ〜…」と無防備に吐き出される熱い息。
「…おい、人の胸で力抜くな。」
「…だって脱力しろって言われたから…。」
あとまじで力入んない、と吉田は佐野の胸元に頬を預けたまま、上目遣いでぼやく。
決して小さくはない成人男性一人の体重がそのまま預けられているはずの佐野の足腰は微動だにせず、吉田は腕の中に収まりながら(こいつも体幹すごいな)と改めて感心してしまう。長年隣にいる佐野だからこその絶対的な安心感に、そのまま体重を預けて甘えたくなってしまう。
一方佐野はジャージ越しにダイレクトに伝わってくる吉田の体温と、無防備すぎる姿勢に少しドギマギしていた。
普段はしっかり者として気を張っている吉田が、自分の腕の中で完全に脱力し切っているという状況に、佐野の心臓がどクンと大きく跳ね上がった。
(……やっば。心臓めっちゃうるさいんだけど。)
「…なんか勇斗の心臓バクバク言ってない?心拍上がった?」
「ストレッチの後だから!代謝上がってんの!」
動揺を隠すように大声で言い張る佐野を見て、後ろで様子を見ていた山中が「なんか勇ちゃんだけ別の意味で熱くなってない?」と首をかしげ、曽野が「いつまで抱きついとんのあの二人」と苦笑している。塩﨑だけは、さのじん空間を完全スルーし「よし!勇斗めっちゃ効いてるやん!そのまま布団入れ!」と大満足気に指示をする。
◇
四人が別室で見守る中、画面に映る佐野は布団に入ったものの目がバッチリ冴え渡り、天井をじっと見つめたままピクリとも動かない。
『佐野さん、寝れそう?』
モニターのスピーカーから塩﨑が尋ねると、目がギンギンな佐野はゆっくりとカメラの方へ顔を向けた。
「……太智。」
『ん?』
「お前の指導に熱入りすぎて逆に目が冴えたのと……仁人のふにゃ顔が目に焼き付いて、全然寝られねぇんだけど。どうすんだよこれ。」
『やっぱ俺の指導、熱入りすぎてもうたか〜!』
『いや太ちゃん、そこじゃなくてよっしーのふにゃ顔の方に触れてあげなよ』と山中が冷静にツッコミを入れ、吉田は『は〜?人のせいにしないでくださぁ〜い』と呆れたように語尾を伸ばして言い返す。
(勇ちゃん、結構すごいこと言うてるけどスルーしてええんか…?)
密かにそう思いつつも、下手に突っ込むと余計に話がややこしくなりそうだと思った曽野はそっと口を閉ざした。
検証結果はもちろん0点。
「全く寝られない」という致命的な結果とともに、佐野の動揺を残して幕を閉じたのであった。
――残された検証はあと二つ。
『仁ちゃんの膝枕』
『よっしーの抱き枕(※生身も可)』
中編へ続く。
コメント
7件
いつも楽しく拝見させていただいております。 私もこの動画見ました!と言いたくなるくらい脳内で動画再生されて本当に面白かったです。 残り2案も楽しみにしております!

はじめてコメントさせて頂きます。 最初の作品読ませて頂いた時より、勝手にフォローさせて貰っています。 全部の作品が、早く次読みたいってなります。 つぶ貝様の書かれる🍼💛の感情の見え方が、純粋に好きです。 今後も、楽しみにしております♪