テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
耀聖(ようせい)
537
耀聖(ようせい)
1,681
52
22
【少し前・グレイスの部隊】
「どうした、足を止めている暇はないぞ」
「この動き、素人じゃないな」
サラの部隊との距離は、まだ数キロあった。
傭兵達は歩きながらサラの部隊の様子をうかがっていたが、その動きの洗練されぶりに、思わず足を止めた。
「強襲する前に、戦いを一度拝見したい」
「まぁ、それくらいなら、とりあえず急ごう」
中心部の北側で待機していたグレイス達は、サラの姿を求め、足を急がせる——。
※※※※※※
【サラの部隊】
<まだ近づくのか(汗)>
<もう少しよ>
とっくに射程距離内へ入り、左側の敵との距離は100mを切っている。
無線越しの声は平静そのものだが、ウルフは流石にビビっていた。
<撃ったら突っ込む。なので後は頼むね>
<ああ、任せろ、作戦は伝えてある>
なんとも無謀な作戦を実行するサラ。
ただし、これにはちゃんとした理由があった。
サラは遊撃しながら右側の敵を引きつけ、ウルフたちが左側の敵を制圧する隙を作るのが役目だ。
<さあ、行くわよ>
ウルフを信じ、銃を構えスコープを覗くサラ。
敵に照準を合わせ、トリガーに指を掛ける。
パシューン
サラは、撃った瞬間に走り出す。
「うわぁ!」
赤い閃光は容赦なく敵を貫いた――。
戦死判定を示す赤いマーカーが光り、敵の男子は、何が何だかわからない様子だ。
「どこだ、敵は——」
パシューン
「くっそ」
走りながら二射目が撃ち込まれ、あえなく死亡判定が下された。
(すごい腕前だな……負けちゃいられない)
森の狩人と呼ばれるエルフ並みの射撃精度。走りながら正確に敵を撃ち抜くサラの腕前に、ウルフは驚いていた。
パシューン
パシューン
彼は負けじと、一人、また一人と正確に狙い撃ちしていた。
「いやん、こないでー」
残り一人は、銃を構えたまま、腰を低く突進してくるサラに慄き、戦意喪失していた。
パシューン!
戦闘開始から数秒。左側の敵は、あっという間に全滅した。
そして——。
「敵だ敵だ!撃て撃て」
予想通り、右側の連中が気付き、動き回るサラを狙い始める。
パシューン!
パシューン!
狙い通り、無数の赤い閃光がサラに迫る——。
<動けないフリするから、後はヨロ>
<分かった。タイミングは任せる>
自ら囮になったサラは大木に身を潜め、敵の射撃に押されて動けないように見せかけながら、散発的に撃ち返し始める。
ウルフは静かに潜み、護衛達は既に位置につき、照準を合わせていた。
「前の隊は全滅したのか」
「ああ、だが敵は一人だ。みんなで囲むぞ」
サラ以外の敵は全滅したと思い込み、周囲への警戒も薄れたまま、恐る恐る近づいてくる。
パキン――。
小枝を踏み折る音が聞こえるほどの距離まで、敵が迫っていた。
木の陰に潜むサラにも、敵の殺気がはっきりと伝わってくる――。
<撃て!>
敵の意識がサラに完全に向いた、その瞬間を待っていた。
反撃の狼煙となる鋭い命令が下され、赤い閃光が森を染めた……。
※※※※※※
【グレイスの部隊】
「見事なまでの連携だな」
「ああ、射撃精度も、制圧もプロ並みだよ(笑)」
離れた場所でサラの戦いの様子を見ていた傭兵達。
サラの対策が出来たのか、ゆっくりと動き始める。
<逃げ道を塞ぐんだろ>
<ああ、クロスファイアに持ち込む>
光学迷彩によって透明化した三人は、サラが進んでくる位置に布陣する。
※※※※※※
【サラの部隊】
「んっ?」
中心に向かっていたサラは、異変を感じ足を止めた。
「サラ、この先に変なのいるよ」
突然、パタパタと羽を鳴らした風の妖精が現れ、この先の異変を知らせてくれる。
変なのがいるということは、学生とは違う、全く別の何かが潜んでいると考えるのが正解だ。
<ウルフ、迂回する。斜め後ろに下がる>
<了解>
先頭をウルフに任せ、サラがしんがりを務めながら、斜め後ろへ下がる。
後方を注視しながら、ゆっくりと後ろ向きに下がっていく——。
(森の雰囲気が変だ……確かに嫌な予感がする)
エルフの探査能力はないが、森遊びで培われた野生の勘が警告を鳴らす。
その時だった——
「グハァァ!」
突然、青い閃光が走った。次の瞬間、それがサラの肩に直撃した。
サラは、反動でウルフの横まで吹き飛ばされてしまう——。
(ベストが反応しない……実銃から撃ち出されたスタン弾か!)
「大丈夫か、サラ、撃たれているじゃないか」
左肩から立ち上る煙と、ベストに開いた穴を見て、実銃だと嫌でも理解した。
だが——
「アーマースーツ着ているから平気よ、とりあえず下がりましょう」
軍用のアーレイワークスのモジュールならシールド機能があるが、さすがに訓練にそれを使うわけにはいかない。
その代わり、防御力の高いアーマースーツを着用していた。肩の装甲が衝撃を受け止めたおかげで、致命傷には至らなかった――。
「サラ、救援を呼ぶか?」
「奴らはプロよ、既に通信を妨害されているわ。さぁ、走りましょう」
殺す気ならとっくに撃ち込んでくる。
静かなのは、こちらが動くのを待って、いたぶるつもりなのだろう。
(狙いは私よね……さてどうやって反撃しようかしら)
もはや、グレイスが仕組んだとしか思えなかった。
だが支援しているのはプロの連中だ。
サラは難しい判断を迫られることになる。
考えながら走っているその時だった——。
「ガフゥ」
まさかの足元から、青い閃光が走りウルフの足を貫く。
それは、待ち伏せ用に配置した小型ドローンの攻撃だった――。
「ウルフ!すぐに治療をする。護衛の方は周辺警戒をお願い」
サラはバックパックから医療用トリコーダを取り出すと、すぐに治療を始める。
傷は浅く、みるみる回復してゆく。
「すまない助かる。君達実銃の許可を出す。みんなを守ってくれ」
ウルフは護衛たちを本来の任務に戻し、自分たちの安全確保を優先させた。
護衛たちは軍用モジュールや支援装置を装備している。そう簡単にやられることはないだろう。
「承知しました王子」
護衛達は、早速簡易型のシールド装置を起動させて、安全地帯を作り出す。
これで傭兵達は迂闊に手を出せなくなる。
「狙いは私なのに、巻き込んで悪いわね」
「これからどうする? 君が狙われているんだろう」
狙いが自分だと分かっている以上、ウルフたちをこの場に留めておくわけにはいかない。
「私が何とかします。ウルフ、悪いけど、みんなをお願いします」
覚悟を決めたサラは、物静かにウルフと向き合う。
普通の女の子なら慌てふためくところだが、サラの表情は静かに凛としたものへ変わっていく。
(雰囲気が……変わった)
目を見開き驚くウルフ。
その堂々とした佇まいは、民を守るためなら死をも恐れない軍人――いや、王族のような気高さを感じさせるには十分だった。
「すまない」
「いえ、当然のことです」
サラはふっと笑みをこぼすと、銃を肩に掛けて走り去っていった。
※※※※※※
【グレイスの部隊】
<早い早い、待ってくれ>
<足止めするから、慌てるな>
グレイスたちは、ありえない速度で森を駆け抜けるサラを必死に追いかけていた。
しかし、バックパックを捨てて身軽になったサラに、簡単に追いつけるはずもなかった。
先ほどまで見えていた赤髪は、すでに緑に邪魔され、視界から消えた――。
<クッソ見失ったぞ、マップからも消えた>
<ダメだ赤外線モードにも反応しない>
マーカーで追跡できる以上、自分たちが優位に立っていると思っていた。
しかし、サラはマップから忽然と姿を消した。
そして――。
ビュー
「んっ、何だいきなり風が吹いたぞ」
自分たちの周りだけ風が吹き、身体に木の葉が纏わり付く。
静かな森に突如として吹いた風、底知れぬ不気味さが脳裏を過る――。
ゴン!
「ギャ!」
突如、足元の草むらが跳ね上がり、何かがグレイスに襲いかかった。
グレイスはいきなりの衝撃に、悲鳴を上げた。
ゴンゴン!
「ギャー!」
鈍い音とともに、見えない何かの攻撃が続く。何もない空間に、シールドの淡い光だけが浮かび上がっていた——。
コメント
1件
いやー、第29話めっちゃ熱かった!サラの射撃技術と連携がプロ並みでかっこよすぎる!でもまさかの実弾襲撃で一気に空気が変わったね。あの場面で「すまない」ってウルフに言うサラの覚悟、そして雰囲気が変わったって描写がすごく刺さったわ。風の妖精や野生の勘とか、世界観の細かい設定も好き。次が気になる🔥