※この物語はフィクションであり、
実在の人物及び団体とは関係が御座いません。
僕――は見ている。
「やめて! こっちにこないで!」
今にも朽ちそうな古城内にある、
450メートルにもおよぶ 回廊を裸足で駆ける美しい少女を。
「お願い……これ以上近寄らないで!」
桜色の長い 艶髪。
滑らかだが、触れると柔らかそうな白い肌。
東欧系の少女(名はナージャ)は、
いたるところが破れた白いワンピースの裾をなびかせ、
僕を時折り振り返り、なおも走り続けている。
この先が 袋小路になっていることも知らずに。
「……ああっ、そんな」
繊細なレース生地が優雅なワンピース以外、
なにも身につけていないナージャ。
割れた天窓から差し込む蒼白い月明かりが、
ツンとした上向きヒップと、
僅かに膨らみ始めた 蕾のようなバストを照らしている。
僕の 劣情(れつじょう)を誘うみたいに。
「お家に帰して……ううっ。もう許して……」
ナージャは大理石の床に座り込むと、
白い指を重ね合わせて僕を見上げた。
瞬間、僕とナージャの間(埃が漂う空間)に、
薔薇や 骸骨等をモチーフにした、
ゴシック調デザインのフレームが浮かびあがった。
それには、狂気と 恩寵(おんちょう)が入り混じった選択肢が、
3つ書かれていた。
①襲いかかる
②殺人衝動に身を委ねる
③家に帰してあげる
僕――は見ている。
パソコンのモニターに映る、怯えるナージャを。
大ヒット美少女ゲーム『ゴシカ』の世界に存在し、
同じ時間を永遠に繰り返す二次元美少女を。
(人生ってのは選択の連続だ。だけど毎回迷う……。そして、たいてい選択を誤る。それでも人は選択し続けないといけない。こんな時、どの選択肢を選ぶのが正解なんだろう?)
「うーん……よし! 3番だ!」
ゲームの世界にすっかり入り込んでいた僕(名前は 武藤 清志郎。 千里鈴蘭(せんりすずらん)大学のゲームサークルに所属する1年生)は、
迷いに迷った挙句、マウスを走らせて3番の選択肢をクリックした。
すると――。
僕のすぐ隣で、深く長いため息が零れた。
「ばぁーか!なんで①を選ばねぇんだよ!つーか、アダルト要素強めの美少女ゲームで善人ぶってどうすんだ!」
「……いや。ほら、このゲームって善人ルートと悪人ルートがあるでしょ?だから、まずは善人ルートでクリアしようかなって……」
「だ~か~ら! 善人とかいらねーの!悪人のほうがスリルがあって楽しいじゃん!」
ため息の主、 清木場 広臣(僕の悪友で、あだ名は“オミ”)は、
僕の頭を両手で掴んで乱暴に揺さぶった。
「ふふっ! 私は清志郎さんの、そういうところ好きですよ!」
耳ざわりの良い声がして、ふわりと甘い髪の香りが漂う。
見ればそこには、すらりとした細身に豊満な胸を持つ美少女、
遠山 明日美 ちゃん(男ばかりのむさ苦しいゲームサークルに、ある日降臨した女神)の姿があった。
「今日も今日とて破壊力抜群のスタイルだな……」
「……よせよ」
肘で押し合い、魅惑の谷間に視線を注ぐ。
だが、彼女は僕達の邪な想いにまったく気づいていない様子で、
自分の携帯をサッと取り出した。
そして、あるゲームのタイトル画面を僕とオミに見せた。
「善人の清志郎さんと、悪人のオミくんなら……このゲームを、どう攻略します?」
「遊ンデハイケナイ?……なんなのこれ?」
「聞いたことのないゲームだな」
真っ黒な画面に赤文字で『遊ンデハイケナイ』と書かれた、
シンプルで古臭いタイトルは、どこか奇妙に感じられた。
「最近話題のSNSゲームなんですけど、やってみません?」
「どういうゲームなの?」
「なんでも……遊んだら、呪われるそうですよ! ふふっ!」
「ははっ! そりゃこえーな!」
「明日美ちゃんは、やってみたの?」
「私と甲斐(かい)くんも、さっき登録してみたんですよ!」
ね? と言って、彼女が振り向くと、
甲斐(かい) 涼介(りょうすけ)(僕と同学年の神経質そうな眼鏡男子)が、
携帯の画面をこちらに向けた。
「お前らもやれ。で……呪われて死ね」
「ばーか! 俺は殺されても死なねーよ!」
オミは軽口を叩きながら、慣れた手つきで携帯を操作し――。
「うしっ! 登録完了っと!ほら、清志郎も!」
あっという間にアプリのインストールをし、
アカウントの作成を終わらせてしまった。
「ちょ……呪われるのにやるの!?」
「ばっか!そんなの宣伝文句に決まってんだろ?」
「それは、そうかもしれないけど……」
ごにょごにょと反論するが、拒みづらい雰囲気に飲まれてしまい、
言われた通りにする(僕はいつだってこうだ……)。
その間、オミはさっさとゲームをスタートさせてしまっていた。
「すっげ! キャラと街の風景がドットで描かれてるぞ!ははっ! 無駄に凝ってるかも!」
「一昔前のRPG風って感じだね」
「見ろ。すぐ前に、他のプレイヤーがいるだろ?あれ、殺せるぞ。ほら、コマンドを入力してみろよ」
「えっ!? 殺しちゃうの!?」
「あはっ! ゲームの中の話ですよ!」
「っしゃあ! ナイフ無双スタートッ!」
ノイズ混じりの2Dドットで描かれた現代の街並み。
その路地を突き進むオミの操作キャラ(二頭身の戦士)が、
他のプレイヤー(同じく二頭身で魔法使い)にナイフを突きたてた。
瞬間――。
ドスッ! グチャッ! という生々しい効果音が鳴り、
画面が赤くフラッシュしたかと思いきや……。
チーン! ファファ~ン!
レジスター音と賑やかなファンファーレが部室内に響いた。
「よっし! 敵撃破!」
「見てください!ボーナス獲得だそうですよ!」
「10万円が口座に振り込まれました?なんだこれ……やけに言い回しがリアルだな」
「それ、本当に入金されてるから確認してみろよ」
「……はは。さすがに嘘でしょ?」
「いや、アカウントを設定した時に登録したネット口座に……入ってる。10万……」
「すごーい! これ神アプリじゃないですかー!」
「試しにもっかいバトッてみようぜ!」
「連続キルすると、アイテムが貰えるらしいぞ」
「いや、アイテムなんかよりマネーっしょ!くぅー! テンションあがってきたー!おい清志郎、あとで飯おごってやんよ!」
「オミくん! 頑張って!」
やめたほうがいいんじゃ……。
このゲーム、なんかおかしいよ……。
そう言いたかったけれど、言える雰囲気ではなかった。
なぜって、オミも 明日美ちゃんも、
それに 甲斐も目をギラギラ輝かせていたし、
完全にゲームにのめり込んでいたから。
だから僕は、止めるという選択肢を引っ込め、
傍観者(ぼうかんしゃ)となって薄ら笑いを浮かべるという、
マヌケな選択肢を選んだ。
この選択が、あらゆる不幸を呼び込み、
数え切れない程の死を招くことになるだなんて、
微塵も想像せずに……。
コメント
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文ོ字ོだོけོはོ意ོ味ོ深ོ
文ོ字ོだོけོはོ意ོ味ོ深ོ
漢字が苦手やから、意味不明なんやけど 最初から