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重量感があって、でも着け心地は軽やか。
これが結婚指輪……俺の指に結婚指輪が……
「えっ、あ、え……あっありがとうございます……っ!!」
あまりの突然のことで頭がついていかないけれど
間違いなくこれは〝プロポーズ〟というもので──
心臓の鼓動が激しすぎて、胸が痛いくらいだった。
でも、それは嬉しい痛みだった。
「でも、本当にこれ、俺がもらっていいんですか?こんな綺麗な…」
信じられないといった声色で尋ねれば仁さんも同じトーンで返す
「似合うものを選んだんだ、綺麗だと思うなら、楓くんに相応しいだろ」
夕日に照らされた彼の瞳がキラキラ輝いて見えたのはきっと勘違いなんかじゃないと思う。
仁さんの表情が、いつになく優しくて、愛おしそうで。
この人が俺のために、こんなに美しい指輪を選んでくれた。
その事実だけで、胸がいっぱいになりそうだった。
「それにしてもこんなのいつから準備して…」
「昨日だ……昨日」
「へ?」
「恥ずかしいが昨日、銀座の杢目金屋に駆け込んで即決で買ったんだ。焦ったけど無事に渡せてよかった」
さらっと爆弾発言を落としていくこの人にはいつも驚かされるばかりだが
今回も例外ではなく俺の胸は高鳴った。
昨日って、兄さんに会うことが決まってすぐに買いに行ってくれたんだ。
仁さんの行動力と、俺への想いの深さに、改めて感動してしまう。
この人は本当に、俺のことを大切に思ってくれているんだ。
しかも指輪の模様をよく見てみればそれは木目が引き立つ彫りになっていて
「もしかしてこれって…雪銀花っていう?」
「知ってるのか?」
「はい…20歳ぐらいのころに、結婚した友達がつけてるの見て、綺麗だったもんですから」
あの時、友達の指輪を見て
「いつか自分もこんな綺麗な指輪をもらえる日が来るのかな」なんて思ったことを思い出す。
まさかその日が、こんなにも早く、こんなにも素敵な形で訪れるなんて。
「そりゃちょうど良かったか、白銀の世界に重なるふたりってキャッチフレーズ見て、花ってのも楓くんに似合うなと思って選んだんだが…気に入ってくれたか?」
珍しく不安そうに俺の顔を伺う仁さんが愛らしくて思わず笑ってしまった。
いつもは自信に満ちている仁さんが、こんな風に不安そうな表情を見せるなんて。
それだけ俺のことを大切に思ってくれているからなんだと思うと、胸が熱くなった。
「はい!それはもうめちゃくちゃに気に入っちゃいましたよ…嬉しすぎて、なんか、また泣きそうですし」
「おいおい」と苦笑いする仁さんは、いつも以上にかっこいい気がした。
夕日を背負った仁さんの姿が、まるで映画のワンシーンみたいで。
「……ずっと、ずっと大切にしますね!」
「ああ」と優しく答えてくれたかと思えば
大きな手で俺の指を絡めとってきて、それに応えるように俺も彼の温もりをぎゅっと握り返す。
指輪越しに感じる仁さんの温もりが、なんだかいつもより特別に感じられた。
この指輪が、俺たちの絆の証なんだと思うと、胸がいっぱいになる。
「ふふっ、なんか、今が俺の人生で一番幸せな日かもしれませんね」
「まさか、思いつく限りじゃこれからまだ4つもやることあるぞ?」
「やること?」
「同居する部屋探し、結婚式、婚姻届書いて提出、新婚旅行…これ以外にもまだまだ楓くんとしたいことはたくさんあるけどな」
そう言って微笑む仁さんがとても眩しく見えた。
(もう俺はこの人とずっと一緒にいられるんだ)
そう思うだけで幸せすぎて夢みたいだった。
仁さんと一緒に住んで、結婚式を挙げて、正式に夫婦になって
新婚旅行で二人だけの時間を過ごして……
想像するだけで胸が躍る。
「じゃあ早く探しましょ!次のステップに進むためにもまずは物件探しが最優先ですよね?!」
「そうだけど…はしゃぎすぎだ」
「だって善は急げって言いますし!」
俺の興奮した様子を見て、仁さんも嬉しそうに笑っている。
「楓くんって案外せっかちなところあるよな」
「ははっ、それは褒め言葉として受け取ってもいいんですかね?」
「くくっ……褒めてるよ。ほんじゃまあ、早速明日にでも見に行くか」
「はい!」
そうして、俺と仁さんは新しい生活に向けて一歩ずつ進み始めるのだった。
波の音に包まれながら、俺たちは手を繋いで砂浜を歩いた。
夕日が完全に水平線に沈むまで、二人でその美しい景色を眺めていた。
海風が俺たちの髪を優しく揺らして、波が砂浜に寄せては返していく。
この瞬間が永遠に続けばいいのにと思うくらい
幸せな時間だった。
これから始まる新しい人生への期待で胸がいっぱいになりながら、俺は心の中で静かに誓った。
仁さんと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。
そして、この人を一生愛し続けよう、と。
指にはめられた結婚指輪が、夕日の最後の光を受けてキラリと輝いた。
それはまるで俺たちの明るい未来を予告しているかのようだった。
車に戻る途中、俺は何度も左手を見つめてしまった。
指輪が本当にそこにあることが、まだ信じられなくて。
でも、確かにそこにある温かい重みが
これが現実なんだということを教えてくれていた。
これから俺たちは本当の意味で一緒の人生を歩んでいく。
その第一歩を、今日踏み出したんだ。