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「ほお、彼女達があの生意気な聖壱と二階堂 柚瑠木の奥さんかね。なるほど、聞いてはいたが二人には勿体無いほどの美人だな」
私達をそんな品定めでもするかのような目で見ないで欲しいわね。そう言いたいけれど我慢よ、いま余計な発言をすれば月菜さんを巻き込みかねない。
「本当ね。しかもあの子たち、この娘たちの身内から支援してもらい放題らしいじゃない? 本当にあの子達ばかりいつも良い思いをして……」
いったい何を言っているの? 確かに聖壱さんは岩崎の叔父様の会社と繋がりはあるけれど、きちんとした契約を交わしてるわ。そんな私の身内に甘えるようなことはしていないのに。
ちゃんと聖壱さん達の仕事ぶりを知っていれば、そんな事を言うはずがない。きっと彼らにとって邪魔な存在としてでしか、2人の事を見ていないのでしょうね。
「そうそう、その上俺たちの事をコソコソ嗅ぎまわって。社長の息子だからって特別扱いされて、目障りでしょうがない」
聞いているとだんだん腹が立ってくるわね、本当に二人の事を何も知らないくせに。でもこうやって時間を稼いでいれば――――
「まあまあ、お喋りはそのくらいにして……そろそろ始めましょうか?」
私達に最初に話しかけてきた、年配の男性が立ち上がりそう言った。やはりこの人がこの中のリーダー的存在みたいね。
「ふふふ、これでやっとあの子達に一泡吹かせることが出来るのね。どんな顔を見れるのか楽しみだわ」
「ああ。関係の無い君達には悪いと思うが、恨むのなら余計な事に首を突っ込もうとばかりする自分達の夫を恨むんだな」
勝ち誇ったような笑みを浮かべていられるのも、今のうちだけだから好きにしてればいいわ。貴方達のような人達がいるのに、聖壱さん達が何の対策もしてないと思う方が甘いのよ。
震える月菜さんの背中を撫でながら、私はリーダー格の男性の言葉を待つ。彼が私達に要求してきそうなことなんて、最初から分かってる。
私達の前にある小さなテーブルに、男性が二台のスマホを置いた。
「今から彼らに電話をかけて「助けて欲しい」とお願いしてください。これくらいの事は、出来ますよね?」
「……聖壱さん達に助けを呼ぶだけでいいのかしら?」
もちろんこれだけで済むわけがない。彼らが助けに来る前に、この人たちは何らかの条件を付けてくるはず。そう思って聞き返すと、彼は私の返事に満足そうな顔をする。
「よく分かっていらっしゃる、もちろんこちらも、大事な奥さんをタダで返してあげる訳には行きませんからね」
男の言葉に抱きしめていた月菜さんの身体がビクリと揺れた。怯えているのか、彼女の私の服を掴む手の力が強くなる。
「そんな、私が迂闊だったばっかりに柚瑠木さん達に迷惑を……?」
何も知らない月菜さんは自分で自分を責めてしまい、今にも泣きそうな顔をしている。だからあれほど月菜さんにも事情を話すべきだと言ったのに!
けれどいまさらそんな事を言っても仕方ない。私は、今の自分に出来る事をするしかないのだから。
「落ち着いて、月菜さん。柚瑠木さんはこんな事であなたを責めたりしないわ。今は何も考えちゃ駄目よ」
「はい……」
月菜さんが小さく頷いたのを確認して、私はテーブルからスマホを一つ手に取った。タップして中を確認してみると、そこに登録されているのは聖壱さんの携帯の番号の一つだけ……
「私が夫の聖壱さんに電話をかければいいんでしょう?」
わざと彼らに見えるように、聖壱さんの番号に発信する。会話もちゃんと周りに聞こえるようにスピーカーに切り替えた。
「物わかりの良い女性で助かります。まず最初は、貴女が聖壱君に助けてもらうように頼んでくださいね?」
「……分かったわ」
男性は余裕からか笑みを浮かべ煙草を口に咥える。見てなさいよ、そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだから。
『プルルルル……プルルルル……プルルルル……もしもし?』
数回のコール音の後、聖壱さんの声が聞こえてきた。彼の声を聴いて少し安心したの、やはりこんな状況で不安だったのかもしれないわ。
「もしもし、聖壱さん? 私……香津美だけど、分かる?」
「ああ、こんな昼間にどうかしたのか? それにこの番号は……?」
男性の事をチラチラと見ながら聖壱さんと話をする。これも犯人たちに疑われないように聖壱さん達に頼まれていた事。怯えるように電話をする私を満足そうに見ている……本当に最低な人達ね。
「あの、聖壱さんに頼みがあって電話をかけているの。お願い、聖壱さん。私を……助けて?」
「助けて? それはどういうことなんだ、香津美!?」
心細さを感じさせる声で頼めば、焦った様子で聖壱さんが答えてくれる。彼らはその様子を計画通りと言わんばかりの顔で見てる。それはどうかしらね……?
「あのね、聖壱さん。私は今、捕まっていて……きゃっ!」
話している途中でいきなり電話を取り上げられて、ソファーへと押し戻される。その様子を見ていた月菜さんが慌てて、小さな身体で私を抱きとめてくれた。
「……もういいだろう。狭山 聖壱君、君の大事な奥さんが今どういう状況なのかは分かってもらえたかな?」
取り上げたスマホで、聖壱さんと話し始めたリーダー格の男性。要するに私には、人質として最低限の事だけしか話すなって事なのでしょうね。
「その声……っ! アンタはまさか、眞二叔父さんなのか……!?」
もしかしてこの人が狭山 眞二? 確かSAYAMAカンパニーの常務を務めているという……社長の補佐ともいえる常務が、どうしてこんな事を……