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不正取引をしている重役の人物までは聞いて無かったから、聖壱さんの驚いた様子が演技なのは本当なのかまでは分からない。
けれどまさか狭山常務がそんな事をしているなんて……
「ああ、だけど君たちの不満を持っているのは私一人ではないよ。君たちだって分かっているだろう?」
やはりここに集まっている人達は聖壱さんと柚瑠木さんの存在を邪魔だと感じている人達ばかりなのね。二人がどれだけ頑張っているのか知りもしないくせに。
「……眞二叔父さん、アナタは何が望みなんだ?」
唸るような低い声で、聖壱さんは狭山常務の要求を聞いた。聖壱さんのその言葉に狭山常務は勝者の笑みを浮かべる。
「まずはコソコソと君達が集めていた私たちの不正取引のデータ、この本体やコピー全てを私達に渡しなさい。知らないとは言わせないよ?」
……やはりこの人達はそれが狙いだったのね。けれどその証拠欲しさだけに私達を攫ったとは思えない、彼らにはもっと別の要求があるような気がする。
「叔父さんの最初の要求はやはりそれなんだな。で、次の要求はいったい何だというんだ?」
やはり聖壱さんも狭山常務の要求がそれだけではないことは、最初から分かっていたようで……早く次の要求を聞きたがっているようだわ。
「ふふ。言わなくてもわかるだろう、聖壱君。君の大事な奥さんを無傷で返して欲しいのなら……」
ああ。やっぱり狭山常務が手に入れたがっているものは、将来聖壱さんが手に入れることになるものだという事なのね。
けれど、そんなこと簡単には……
「私はね、聖壱君に約束されたSAYAMAカンパニーの次期社長の座をずっと譲ってほしいと思っていたんだよ」
やはりこの人は……っ! 不正取引を見逃せと言っているだけじゃなくて、聖壱さんの未来まで奪い取ろうというの? こんな不正取引を行うような人を、SAYAMAカンパニーの社長になんて出来る訳がないでしょう⁉
「聖壱さん! 私達は大丈夫よ、こんな人の言う事を聞く必要はないわ!」
狭山常務の発言が頭にきた私は立ち上がり、彼の持つスマホに向かって大きな声で叫んだ。すぐに周りの人たちにソファーに戻されてしまったけれど。
「おやおや、思っていたよりも元気な奥さんだね。彼女はこう言っているけれど聖壱君はどうする?」
「……眞二叔父さん、データは俺だけが持っている訳じゃない。データの半分は二階堂 柚瑠木に持たせている」
なるほど、聖壱さん一人では勝手に決められないという事にしていたのね。でもそれを考えていたのは狭山常務たちも同じだったようで。
「……なるほどね、じゃあ今度は二階堂君の奥さんに頑張ってもらおうかな?」
そう言って笑いながら狭山常務は、今度は月菜さんにもう一台のスマホを差し出したのだった。
目の前に差し出されたスマホをジッと見つめる月菜さん。今の彼女に柚瑠木さんに電話を出来るだけの気持ちの余裕があるか分からない、いざとなったら私が……
月菜さんは狭山常務の差し出したスマホにゆっくりと手を伸ばして――――
「私は……私は、柚瑠木さんに電話をかけるつもりはありません!」
常務の手からスマホを床へ落としたの。まさかさっきまでずっと震えていた月菜さんがこんな行動に出るなんて思わなかった!
月菜さんから歯向かわれることを予想していなかったのでしょうね、常務は驚きを隠せない様子だった。
「私は柚瑠木さんの妻です。こんな事で彼に迷惑をかける訳にはいかないんです!」
「……自分の事より二階堂君が大事ですか? ちゃんと私の言う事を聞けば貴女は無傷で帰れるんですよ?」
私は柚瑠木さんと月菜さんの夫婦関係がどのような物か知らないけれど。月菜さんは柚瑠木さんのために一生懸命なのだという事は分かる。
月菜さんの気持ちは分かるけれど、このままじゃ彼女の方が危険だわ!
『 香津美! いったいどうした!?』
「待って聖壱さん、今、月菜さんが……」
もう一度常務が月菜さんにスマホを差し出す、今度は先程のような余裕の笑みなど見せてはいない。……けれど彼女はきっと考えを簡単に変えるような子じゃないはず。
「これが最後です、よく考えてごらんなさい?」
「……いいえ、私の考えは変わりません。私は夫の柚瑠木さんの事を一番に優先します」
小さく震える声、だけど彼女はハッキリと自分の考えを言える強い女性なんだわ。それにこんなにも柚瑠木さんの事を大切に思っている。
だけどそんな彼女に狭山常務は激怒し手を振り上げた!
「この生意気な小娘……!」
いけない、私が月菜さんを守ってあげなくては……! 私は月菜さんの前に飛び出して、狭山常務から彼女を庇う。