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#ペケペケペケッツくん
Nami_0621
413
#がんばります!
🦁💫ライオンさん
2,123
ガラスケースの向こう側で、全高十五センチほどの精巧な人型AI——「レプリカント」が、小さな木製の椅子に腰かけて本を開いていた。
彼が読んでいる本は、僕が3Dプリンターで出力したミリ単位のダミーだ。中身は無地の紙だが、彼の頭脳である超小型コアには「そこに物語が書かれている」というデータが送られている。彼はページをめくり、時折、感極まったように小さな息を吐く。
「……面白いかい?」
ケースのスピーカー越しに声をかけると、彼はハッと顔を上げ、空を仰いだ。
「ええ、とても。ですが……時々、天井の向こうからあなたの声が聞こえる気がするんです。まるで空の上から神様が話しかけてくるような……そんな妙な感覚に襲われます」
「それは、君の気のせいだよ」
僕は微笑みながら、コントローラーのパラメータを微調整した。彼の「違和感」の数値を数ポイント下げる。彼は少し困惑したように首をかしげたあと、「そうですね、気のせいですね」と納得し、再び小さな本に目を落とした。
科学が限界を超えて発達したこの時代、僕たちは手のひらサイズの世界と、そこに生きる人工知能を作り出す技術を手に入れた。
彼らは自分が「作られた存在」だとは知らない。精巧に再現された小さな部屋、小さな街、小さな生態系の中で、朝起き、働き、誰かを愛し、やがて機能停止という名の死を迎える。
だが、この技術には常に倫理的な非難がつきまとっていた。自我を持たせ、苦痛や喜びを感じさせる人工生命を、箱庭の中に閉じ込めて観察する行為。それは悪趣味な神様ごっこであり、人道的に見れば拷問にも等しい。
だからこそ、僕は彼らを「十五センチの人形」にとどめていた。人間と同等のサイズで作る勇気も、完全な街をひとつ構築するほどの傲慢さも持てなかったからだ。罪悪感を少しでも減らすための、無意味で身勝手な妥協だった。
レプリカントが小さなベッドに入り、スリープモードに入るのを見届けてから、僕は作業場の明かりを消した。
部屋を出て、夜の街を歩く。
街灯が路面を湿った光で照らしている。頭上を見上げると、分厚い雲の隙間から星がいくつか覗いていた。冷たい夜風が首筋を撫でる。その皮膚の感覚も、遠くで聞こえるクラクションの音も、息を吸い込んだときに鼻腔を刺す排気ガスの匂いも、すべてが圧倒的なリアリティを持ってそこにあった。
ふと、歩道橋の上で足を止めた。
眼下を通り過ぎていく車のヘッドライトの群れを見つめながら、僕は自分の手を見た。
皮膚の皺、爪の形、静脈の青い筋。間違いなく僕の身体だ。だが——
なぜ、光はこれ以上速く進めないのだろう?
なぜ、この宇宙の外側へ行く方法が存在しないのだろう?
なぜ、量子の世界では「観測するまで状態が確定しない」なんて都合のいいルールがあるのだろう?
それは……この世界の処理能力(レンダリング)の限界だからではないか?
ゾク、と背筋に冷たいものが走った。
僕が作っていたあの小さなガラスケース。あの世界の計算コストを削るために設定した「世界の限界」と、僕たちが生きるこの物理世界の上限は、構造的に何が違うというのか。
もしも、僕たちの頭上にも「ガラスケース」が存在するとしたら。
もしも、僕がさっき感じた「ふとした疑問」すらも、上位の創造主がパラメータをいじって消去しきれなかったバグの残骸だとしたら。
「……まさかな」
僕は声に出して笑おうとした。しかし、その声は夜の静寂に吸い込まれて消えた。
そのとき、頭上の暗い雲の向こうから、かすかなノイズのような音が響いた気がした。空を見上げる。そこにはただ、果てしない暗闇が広がっているだけだ。
だが、僕にはもう確かめる術がなかった。
僕がケースの中の彼に「気のせいだよ」と語りかけたように、もし天から声が聞こえたとしても、それが「仕様」なのか「神の悪戯」なのか、僕には永遠に判別できないのだから。
僕はポケットに手を突っ込み、再び歩き出した。
自分が今踏みしめているコンクリートの感触が、急速に嘘っぽく思えていく感覚を、ただ静かに噛み締めながら。
コメント
1件
おお、これはめっちゃ刺さったわ……。箱庭の神様ごっこという設定がもうエモいし、主人公が「自分も誰かに作られた存在だったら?」って疑い始めるラストのゾクッとする感じ、最高やん。レプリカントに「気のせいだよ」って言いながら違和感パラメータ下げるところ、背筋が冷えた。続き読みてえ……!