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静まり返った会場に、俺の足音だけが冷たく響く。
壇上の大河内は、一瞬だけ目を見開いたが、すぐに冷徹な老人の顔に戻った。
その隣で、車椅子の中臣がガタガタと音を立てて震えだす。
「……黒嵜和貴か。刑務所の藻屑になったと聞いていたが、しぶとい男だ」
大河内が静かに立ち上がる。
その周囲を、黒い防弾ベストを纏った三和会の直属精鋭部隊「死番虫」が瞬時に取り囲んだ。
「死んだ奴らの声がうるさくてな。あんたを連れてこいって、耳元で離れねえんだよ」
俺はジャケットを脱ぎ捨て、腰から二振りのドスを抜き放った。
白日の下、親父から受け継いだ鋼の刃が、獲物を求めて鈍く光る。
「殺っちまえ。一人残らず、証拠ごと消せ」
大河内の短い言葉が、虐殺の合図だった。
死番虫の連中が、音もなく距離を詰めてくる。
奴らの手には、消音器付きの短機関銃。
「……させねえよ!」
上空から志摩の声が響く。
会場の照明塔に設置されたスピーカーが、耳を劈くような高周波のノイズを放出した。
「ぐっ……!?」
聴覚を奪われた精鋭たちが、一瞬だけ動きを止める。
その隙を、俺は見逃さなかった。
一歩。
コンクリートの床を蹴り、弾丸のように突っ込む。
一閃、先頭の男の喉笛を、親父のドスが正確に切り裂いた。
返り刀で二人目の手首を落とし、奪った銃を三和会の旗印に向けて叩き込む。
「大河内ィ!この場所を、お前らの墓標にしてやらぁ!」
俺は返り血を浴びながら、ステージの階段を駆け上がった。
中臣が「助けてくれ!」と叫びながら車椅子から転げ落ちる。
だが、俺の目は、その奥で悠然と構える大河内だけを捉えていた。
その時、大河内が懐から一通の古い書状を取り出した。
「黒嵜。お前の親父が、最後に俺と何を取引したか知っているか?」
俺の足が、止まる。
「…何が言いてえ」
「榊原は、お前の命と引き換えに、この再開発計画の『全責任』を背負って死ぬことを選んだのだ。……お前が今ここで俺を殺せば、親父のその願いは無に帰す」
吹き抜ける新宿の風が、不吉な真実を運んできた。
復讐の刃が、再び「絆」という名の鎖に縛り付けられようとしていた。