テラーノベル
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大河内の手にある古びた書状。
そこに並ぶ親父の署名と血判が、俺の視界を歪ませる。
志摩のノイズが鳴り止み、会場は再び、不気味な静寂に包まれた。
「…嘘だ。親父は、俺にすべてを終わらせろと言った。あんたを、三和会をぶっ潰すために……!」
俺の声が震える。
ドスを握る掌には、嫌な汗が滲んでいた。
「ふん。極道の『終わらせる』という言葉を、言葉通りに受け取るとはな。榊原は知っていたのだ」
「三和会という巨大な機構を壊せば、この街の秩序は崩壊し、お前のような野良犬が生きていける場所はなくなる。だから彼は、自らが『裏切りの元凶』として泥を被ることで、お前を清廉な被害者に仕立て上げ、日常へ返そうとしたのだ」
大河内が冷酷な笑みを浮かべ、一歩、また一歩と俺に近づく。
「和貴。お前が私を殺せば、お前はただのテロリストとして一生を終える。親父の死は、本当の意味で無駄になるのだ。……それが、お前の望む『筋』か?」
背後で、倒れていた中臣が低く笑い始めた。
「そうだ……そうだぞ、黒嵜。お前の親父は、最後までお前を『息子』として守ろうとした…その優しさが、この計画の最後のパーツだったんだよ!」
俺の頭の中で、親父の最期の笑顔がリフレインする。
『和貴。……これで、いい』
あの言葉の意味。
あれは俺に託したのではなく、俺をこの血の道から切り離すための、残酷な嘘だったのか。
「……ふざけるな」
俺は俯き、ドスの柄を砕けんばかりに握りしめた。
「親父がどう思っていようが、そんなことは関係ねえ……」
俺はゆっくりと顔を上げた。
瞳の奥に、かつてないほど真っ黒な焔が灯る。
「親父は、俺を『人間』に戻そうとした。…だがな、大河内。……俺は、拓海が死んだあの日に、とっくに人間なんて辞めてんだ」
俺は迷いを断ち切り、地面を蹴った。
「親父の願いだろうが何だろうが、俺の『筋』は、あんたの首を獲ることだけだ」
一閃。大河内の鼻先を刃が掠める。
だが、その瞬間
ステージの床を突き破り、新たな影が飛び出してきた。
「兄貴、下がってください!」
松田の声と同時に、激しい火花が散る。
俺の刃を止めたのは、三和会が用意した「最終兵器」——
かつて榊原組で俺のライバルだった、死んだはずの男だった。
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