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橘靖竜
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手が震えていた。 榊からしおりを奪うみたいに受け取る。
滲んだ文字。
黒いインク。
『見てるだけなら、お前も同じだから』
知らない字だった。
でも、なぜか見覚えがある気がした。
「……なんで、お前がこれ持ってんだよ」
「拾った」
「どこで」
「この辺」
「嘘つけ」
思ったより強い声が出た。
榊が少し目を細める。
「お前さ」
俺は息を荒くしたまま言う。
「最初から全部知ってんだろ」
「全部ではない」
「じゃあ何知ってる」
沈黙。
川の音だけがする。
「……水野が落ちた日」
榊がゆっくり口を開く。
「お前、屋上にいた」
頭の奥で何かが弾けた。
フラッシュみたいに、一瞬だけ映像がよぎる。
夜の校舎。
濡れた床。
誰かの背中。
『お前、最低だな』
知らない声。
でも次の瞬間には消える。
「っ……」
視界が揺れた。
「おい」
榊が腕を掴む。
「触んな」
反射的に振り払う。
榊の手が離れる。
その顔を見た瞬間、胸が妙に痛んだ。
傷ついた、みたいな顔。
「……悪い」
なんで謝ったのか、自分でも分からない。
榊は少し黙ってから、
「帰るか」
とだけ言った。
帰り道はほとんど会話がなかった。
別れ際。
榊が急に言う。
「明日、視聴覚室来て」
「なんで」
「見せたいもんある」
「……何」
榊は少し迷ってから答えた。
「動画」
嫌な汗が滲む。
「去年の」
その夜、ほとんど眠れなかった。
夢を見た。
暗い屋上。
フェンス。
雨。
そして、
誰かが俺に向かって言う。
『ちゃんと見ろよ』
次の瞬間、
ぐらり、と視界が傾いた。
落ちる。
そう思った瞬間、目が覚めた。
荒い呼吸。
汗で濡れたシャツ。
朝の四時。
スマホの画面が光っていた。
榊から通知が来ている。
『逃げんなよ』