コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
エレノアだよ。私達は『海狼の牙』の幹部メッツから『暁』が『エルダス・ファミリー』と本格的な抗争に為ったと聞いて完全武装で農園へ向かっていたんだ。もちろん今回の成果の大金を持ってね。
そして農園が近付いてくると、激しい銃声が聞こえるじゃないか。
「船長ぉ!」
「野郎共走りなぁ!急いで戻るよ!遅れた奴は海に叩き込むからね!」
「「「応っっっ!!!」」」
私が先頭に立って駆け足で農園の外郭陣地に来てみると、塹壕の中で派手な乱戦が起きてるじゃないか。マクベスの旦那がしくじるなんて珍しいが、見ているわけにもいかないからね!
「野郎共ぉ!どうやらお客さんが居るみたいだよ!」
「なんだよ!それなら歓迎してやらねぇとなぁ!」
「ほらほらっ!パーティーに遅れるんじゃないよ!飛び込めぇーっ!」
「「「応っっっ!!!」」」
乱戦が起きてる塹壕に手下達が次々と……あっ!?
「待ちなロメオ!!アンタは行くんじゃないよ!!」
私と同じ青髪を肩口で切り揃えて、私と逆の左目に眼帯をした少年が今まさに飛び込もうとしてたから、慌てて止めた。
「何でだよ姉貴!?俺だって戦える!」
「生意気言ってんじゃないよ!足手まといだからすっこんでな!」
こいつはロメオ、私の歳が離れた弟さ。今年で十五になる。バカな私と違って頭が良いこいつには海賊家業なんてさせたくないから、親父に内緒でこっそり帝都の学校へ行かせたんだ。堅気の道を歩けるならそれが一番に決まってるからね。
それが何故か今回の船旅で出会う羽目になった。アルカディア帝国でな!まあ詳しい話はシャーリィちゃんにするとして。
「見くびるなよ姉貴!俺だって戦えるんだ!」
「良いから言うことを聞きな!お前が戦うにしても、先ずはシャーリィちゃんに挨拶してからだ!筋は通さなきゃいけないからね!」
もちろん方便だよ。シャーリィちゃんはそんなの気にするような娘じゃないからね。
……出来るなら裏社会になんて来させたくないんだけどね。それを決めるのはシャーリィちゃんだけどさ。
「ちっ!」
どうやら諦めてくれたみたいだね。ロメオは渋々といった感じで下がる。そして先を見てみれば……無駄にゴツい大男が女の子を踏みつけて大きな剣を振り上げてやがる。どっちも見たことはないけど、捨て置けないね。
「よぉ、随分と楽しそうなことしてるじゃないか。女の子を踏みつけるなんて、素敵な趣味だねぇ。心の底から軽蔑してやるよ」
私が声をかけると大男が振り向いた。
「あぁ?なんだ姉ちゃん。邪魔すんのか?」
「どう見てもロマンチックな雰囲気じゃなかったからね。私は『暁』のエレノアってんだ。旦那は?」
「てめえも『暁』か。『エルダス・ファミリー』のバンダレスだ!」
おやおや、素直に名乗りを挙げてくれたよ。敵ってことで良さそうだ。
「そうかい。んじゃアンタが踏みつけてる女の子はうちの娘みたいだねぇ」
そう言うとエレノアは隻眼を細めながらゆっくりと腰に下げたカトラスを引き抜く。まるで静かになった背後を気取らせないように。
それを見たバンダレスもまた獰猛な笑みを浮かべた。
「へぇ、今度は姉ちゃんが相手してくれるのか?」
「そうだよ、だからその汚い脚を退けな。女の子は足蹴にするもんじゃないよ」
「そうかい」
バンダレスは勢いをつけて脚を振り抜き、エーリカを蹴飛ばした。
「がっ!?」
「うぉっと!?」
慌ててエレノアがエーリカを抱き止めるが、それを狙っていたバンダレスは猛然と大地を蹴ってエレノアに迫る。
「下衆な男だね!見下げ果てたよ!今だ!」
エレノアはエーリカを抱き抱えたまましゃがむ。その瞬間。
「撃てーーーっっ!!!」
マクベスの号令により、乱戦を制した『暁』戦闘団がバンダレス目掛けて一斉射撃を行う。
「脚だ!脚を狙え!!」
俊敏を誇るバンダレスも百人以上からの一斉射撃を受けてはどうにもならない。何発もの銃弾が脚を貫いていく。
「ぐぁあああっ!?」
凄まじい激痛と共に彼は倒れ伏す。その脚は多数の銃弾により原型を留めないほどズタボロとなり、二度と立つことも歩くことも出来ないであろうことを示していた。
「行け!行け!」
マクベスを先頭に団員達は塹壕から這い出して銃を構えたままバンダレスを包囲する。
数多の銃口が倒れているバンダレスに向けられる。
ガァアンッッっと大きな音を響かせて大剣が地面に転がる。
「がぁああああああっ!!ひっ、卑怯者ぉ!」
激痛に叫びながらバンダレスはエーリカを抱き抱えたエレノアを睨む。
「卑怯だぁ?なに言ってんだい?アンタは騎士様かい?ここはお城かい?ハッ!違うだろう?ここはシェルドハーフェンで、私は海賊だ。卑怯なんて言葉は無いよ。死んだ奴がバカなだけだ」
エレノアは鼻で笑いバンダレスを冷めた視線で見下ろす。
「くそっ!殺しやがれ!」
「殺しゃしないよ。アンタには生きていて貰う。んで、処遇はシャーリィちゃんが決めるんだ。クリューゲ達みたいにね!」
「なっ!?ふざけるなぁあっ!」
「拘束しろ!死なない程度に手当てをしてな!」
「やめろ!離せ!こんな最後があるか!?戦え!戦いで死なせろぉ!そのカトラスは飾りかぁあっ!?」
バンダレスは喚く。それをエレノアは冷めた目付きのまま見つめる。
「銃がどんどん増えてるのが分からないのかい?そう遠くないうちに、剣なんてただの飾りになるさ。連れていきな」
「ぁああああっ!!」
農園にバンダレスの絶叫が木霊する。それを無視して数人がかりで拘束されたバンダレスは連行されていった。
「ふんっ、他愛もない」
「エレノア殿、救援感謝する。正直危なかった。」
マクベスが頭を下げる。
「構いやしないよ、同じ仲間じゃないか。それに、一番の功労者はこの子さ。時間を稼いでたんだろう?」
エレノアは気を失い手当てを受けるエーリカを見ながらマクベスと言葉を交わす。
「ああ、万全とはほど遠い状態でありながらな。それに比べて我々は不甲斐ない結果を出した。数人ではあるが死者も出ている。お嬢様に会わせる顔がない」
「一緒に謝ってあげるよ。それより、この子は新入りだろう?紹介してくれないかい?」
「ああ、エーリカ殿だ。仕立て屋の娘らしく我が『暁』の被服担当に任命されている。詳しくは知らないが、どうやらお嬢様の幼馴染みらしい」
「仕立て屋の娘だぁ?大した度胸だよ。それに、シャーリィちゃんの幼馴染みか。シャーリィちゃん、飛びっきりの笑顔になるだろうね。あのバンダレスって馬鹿は楽な死に方しないだろうさ」
想像しただけで身震いするよ。あの笑顔を向けられて生きてるのは今のところ私だけなんだよねぇ。良く決断した!三年前の私!
「エレノア殿、そちらの少年は?見慣れないが」
マクベスの旦那がロメオを見てる。ロメオは結構な数の怪我人を見て青ざめてやがる。ほら見ろ。
「私の弟でね、ロメオって言うのさ。頭が良くて医者になるために帝都の学校に居た筈、なんだけどねぇ」
「ほう、医師の卵か。それはありがたいな。我々には医療関係者が居ないからな」
「私個人としては、堅気の世界で生きていて貰いたいけどね」
医者の卵の癖に怪我人相手に青くなってるようじゃ頼りないよ、全く。
エレノアは窮地に間に合ったことに安堵しつつ弟の今後を考えてため息を漏らすのだった。