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バンダレス一派による農園襲撃は失敗に終わり部隊は壊滅。バンダレスは捕らえられる結果となった。
それを知らぬ十六番街の各勢力は包囲を継続していた。しかし罠にかけて二週間が経過すると『エルダス・ファミリー』幹部であるマクガレスにも焦りが現れ始めた。
『暁』幹部連は巧妙に姿を隠して、代表であるシャーリィも何度か補足するものの悉く取り逃がしているのが現状なのだ。
「あんまり長引かせると、『血塗られた戦旗』の奴らがどう動くか分からねぇ。出来るだけ早くしろよ?」
エルダスはマクガレスを呼び出して注意した。これはつまり時間は多く残されていないことを意味していた。
「もちろんだ、ボス。少しずつだが奴らを追い詰めてる。良い知らせを期待してくれ」
エルダスの指摘はマクガレスを焦らせる結果となった。直ぐにでも何らかの成果を挙げなければいけないマクガレスは、滅多に行わない陣頭指揮を執りながらシャーリィ達を追い詰める。
対するシャーリィ、ルイス、アスカの三人は土地勘の無い場所で二週間も逃避行しており、心身ともに疲弊していた。
~ある廃屋の二階~
「流石にそろそろ限界だな」
よう、ルイスだ。ようやく休めそうな場所を見つけた俺達は廃屋に隠れてる。
家具なんかはボロボロだけど、雨風を凌げるだけ有り難いもんさ。
周りを調べても今すぐになにかあるような場所じゃない。持ち主には悪いけど、流石に疲れ果てた俺達は少し休ませて貰ってる。
「すぅ……すぅ……」
シャーリィは床に座って壁に寄りかかりながら寝てる。アスカはそんなシャーリィに膝枕されてるな。気持ち良さそうだな。無事に帰れたら頼んでみるか。
早いもので二週間だ。露店商の奴らが物を売ってくれて、シャーリィが大金を持ってたから食うに困ることはなかったな。固い干し肉やら乾パンばっかりだけど、腹が減るよりましだ。水も綺麗な水源があったから助かった。
けど、『エルダス・ファミリー』の奴らを見かける回数が増えてる。あいつらは俺達が居そうな場所をゆっくりと包囲してる。何度も危ない場面があったけど、なんとか乗りきった。
だが、それもいつまで持つか分からねぇ。服もボロボロになってきた。しかもシャーリィとアスカはワンピースにサンダルだ。今まで持ったのが不思議なくらいだな。
武器も、槍はとっくに壊れて追手から奪ったナイフくらいしかない。奴らは銃を持ってるから、正直しんどい。逃げ回るしかないからな。
何とか脱出しねぇと先がない。それはバカな俺だって分かる。
「すぅ……すぅ……」
実際、逃げ回ってるがマトモに休めてない。同じ場所に一日居たことはないからな。どうやってるかは分からねぇけど、あいつらは直ぐに俺達を見つけて襲われる。俺だってここ何日かマトモに寝てない。
かなり眠いが、それより無理をさせてるシャーリィ達を少しでも休ませてやらねぇと。アスカはいつも気配を探ってて、奇襲なんかもやって貰ってる。
シャーリィはいつも狙われてるからな、プレッシャーも半端じゃない筈だ。それに比べて俺はあんまり狙われない。まあ、構成員の一人って感覚なんだろうな。
「……ん」
そうしてると、シャーリィの奴が目を覚ました。
「よう、シャーリィ」
「ルイ……?」
珍しい寝惚けたシャーリィだな、レアだ。
「まだ寝てて良いぞ。今はまだ静かだからな」
「いえ……むしろルイも休んでください。いつも見張りを任せてしまってますから」
「なぁに、構わねぇよ。それに、何だかんだで少しは休んでるからな。心配すんな」
「そうはいきません、ルイだって疲れてるんですから」
「心配性だなぁ」
それがシャーリィなんだけどさ。
「……ボロボロになってしまいましたね。折角ルイが買ってくれたのに」
シャーリィは自分のワンピースを見ながらそう呟いた。確かにな、こりゃ買い直したほうが早い。
「気にすんなよ、仕方ないさ。ちゃんと帰られたらまた買ってやるよ」
シャーリィは三年前に買ったワンピースを大事に使ってる。なれない裁縫をして、解れとかを直しながらな。
まあその、なんだ。体つきは女の子らしく成長してるけど悲しいくらい身長は延びてないんだよなぁ。それ言ったら怒るから言わねぇけど。
「約束ですよ?」
「おう。それで、どうするか。食い物はあるけど武器は厳しいぞ」
「何がありますか?」
「相手から奪ったナイフくらいだな。シャーリィは?」
「45口径は撃ち尽くしてしまいました。魔法剣はまだまだ使えるとは思います。後はナイフかな」
「あのゴツいナイフだよな?」
「はい、シスターに頂いたものですよ」
「アスカはどんな感じだ?」
「アスカは短剣がありますね。ドルマンさんが頑丈に作ってくれたものです。まだまだ使えそうですよ」
「見事に飛び道具がないなぁ」
「『エルダス・ファミリー』の銃保有率が想定以上ですからね。『ターラン商会』のテコ入れは予想以上でした」
「『ターラン商会』も潰すんだよな?」
「敵である以上は」
「まあ敵だろうな。マーサの姐さんは派閥の奴らを集めてるって話だ」
「ええ、理解してくれる方を連れてうちに来る予定ですよ。もちろん皆さん私の大切なものになってもらいます」
「……なあ、嫌なこと聞いて良いか?」
「なんですか?」
この騒ぎが起きてからずっと思ってたことだ。『ターラン商会』絡みでは随分とシャーリィに都合が良い状態にはなってる。
「『ターラン商会』の今の状態さ。シャーリィが望んだ通りになってるような気がするんだよ。『ターラン商会』がなくなれば『暁』は直接商売できるようになるし、マーサの姐さん達腕利きを仲間に出来るんだからさ」
「私が仕組んだと?」
「違うのか?」
「……あなたはどう思いますか?ルイ」
俺かよ。そりゃもちろん。
「俺はどっちでも構わねぇよ。古巣だけど、世話になったのはマーサの姐さんと本店の連中だけだ。それに、今俺は『暁』の人間だし、シャーリィの隣が俺の居場所だからさ」
ん、シャーリィの奴顔が赤いぞ。
「またそうやって恥ずかしいことを平気で……。疑念は尤もですよ。ですが、『ターラン商会』の内乱に関しては私も関知していません。マーサさんを欲しいとは思っていて、小さい頃に宣言したことはありますけどね」
「そっか」
「信じてくれますか?」
「そりゃお前、俺がシャーリィを信じないで誰がシャーリィを信じるんだよ?」
当たり前の話だよな。
「本当にあなたは……」
「ん?」
シャーリィがなにか言おうとした時、アスカが勢い良く身体を起こした。
「……足音がたくさんくる」
ああ、畜生だな。ゆっくり話をする時間もないのかよ。本当に世界は意地悪だな!