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「よかった…怪我はないんだね?」

「でも吸血鬼4体とマッチして無傷とかないでしょ!強がってたりするんじゃないの!」

青頭の口付けで快復したなんて口が滑っても言葉にできない。

「と、とにかく、いむは自分の業務に専念して」

「今日も仕事入ってるはずでしょ?」

「いや、ないよ。みんな無い」

「ないちゃん、覚えてないかもだけど、2週間以内に大規模な捜索が始まるでしょ?そのために見回りと駆除は停止されることになった」

「意志を持った吸血鬼の警戒を解くためにね」

「…は?」

全身が硬直した。耳に届いたいむの言葉が事実かすら疑わしかった。

「…その間に何人死ぬと思ってんだよ」

「でも、こればっかりはしょうがないよ」

顔の筋肉が集中的に力んで、手が震えて堪らない。

1日、たった1日で、100人あまりが吸血鬼に襲われて死んでしまう。それは聖職者の不徳だ。こちら側の落ち度なのに。

だが、無理に動いて職権を剥奪されることが最悪の事態だ。認めずにワガママ撒き散らして散る幼子では無いから、仕方なく拳を握って堪えた。




停止期間は12日間に決まった。それまで、本司令部のお偉いさん方以外は自宅待機を命じられた。鍛錬も自由だが、異能力と剣の使用は固く禁じられた。

12日後に向け、トレーニングやシュミレーションを欠かさず行い、時間を惜しみなく使って全力を注いだ。

そんなこんなで自宅待機から10日が経った頃、いつもの様に夜のランニングに身を削っていた。


土手横、夜の海の風はとても涼しく、走っても走っても汗ひとつかかなかった。

ただ、今夜は新月だろうか。月明かりに照らされることが全くない。

(あれ…)

海辺に、遠目に地べたに丸まっている子供らしきものを捉えた。

勢いよく飛び上がり、海辺に着地してスピードを上げて走り出す。

「ちょっと、きみ…」

こちらに背を向ける肩に手を置いた途端、体が力なく床に倒れ込んだ。

口から血を垂らし、よく見れば頭から打ったような打撲傷からも血が垂れている。

開いたままの口が動かず、微小に痙攣するだけだった。

助からない。この量じゃ見ての通り手遅れだ。脈も弱々しくなって、下顎呼吸も始まっている。

「……あっ、ちに…」

「…おか、さ、んがっ」

残りの命で言葉を絞り出し、母の命の危機を伝えてくれた勇敢な彼の、尊い命は枯れ切った。

「…だから言っただろ……」

こんな計画間違ってた。すぐにでも追い詰めて皆殺しでもなんでもすればよかった。

無理強いすればよかったと後悔を胸に抱きながら、少年の弱々しい体を抱えて走り出す。

彼の母の命を命に変えても守ろう、聖職者の名にかけて。


辺りを見回しながら、全力で注意を払い、情報を隅々まで瞬時にインプットする。まだ吸血鬼の姿は確認できないが、見つけ出した時のために本部に電話を掛けた。

こんな深夜でも司令塔は動いているようで、司令塔の職員に電話が繋がる。

「こちら内藤、緊急です!!聞こえますか!!」

『こちら司令塔本部です、どうぞ』

「ただいま吸血鬼を追跡中です!!」

「死亡者の子供1名を発見、連れ去られたと見られる母親を捜索しています」

「討伐のため異能力の使用許可をお願いします!!」

『お待ちください、本部長をお呼びしますっ』

通話が保留になったと思えば、おれの苦手な本部長へと通話相手が代わる。

『こちら本部長、聞こえるか』

「はい、直ちに使用許可をお願いします!!」

『駄目だ、使用は許可できない』

「なぜですか!!使用できなけれは子供の遺体を持ち帰ることで手一杯です!!」

まさかのNOとの指示に頭の血管がちきれるかと思った。それほどの剣幕で怒鳴り、早急の使用許可を求め交渉を続ける。

「まだ救える命があるんです!!!」

『駄目だ!!!ひとりやふたりどうって事ないだろ!!』

その言葉が耳に届いて、思わず足が止まってしまった。

コイツ、今、なんて言った?

本当に血管がはち切れる思いだ。結局コイツらは目先の利益と手柄しか見えてない愚かな老いぼればかりだった。

「……なら、僕がいま、許可なしに使用すればどうなりますか」

『規定違反として解雇だが…』

『……おい待て!!駄目だ使うな!!』

おれが今から何をするか察してしまったのだろう。こんな時にしか感情的になれない老いぼれには心底呆れて腹が立つ。

『駄目だ、落ち着け』

『私たちはまだ君という戦力を失いたくない』

『君が今、違反を犯せば、聖職者は何万人にも匹敵する戦力を失う』

『そうすれば我々に勝ち目は』

「知らないっすよ…んなこと」

「ひとりやふたり……?大概にしろよ。上に立って脳が肥えた証だな」

『なっ、お前…!!』

「……僕の仲間に…お世話になりましたと、伝えてください」

『まて!!!ないッ__』

無慈悲に通話を切断し、いつも開いているであろう本部の窓に向け、風圧で傷がつかない程度の速さで少年を飛ばした。


これで俺は解雇だ。

最後の最後、少年のお母さんを助けて、この復讐に終止符を打とうと思う。


そしてまた、速力を最大限にまで上げて走り出す。

鳴り止まないスマートフォンの電源を切断し、五感すべてを働かせて居場所を探る。

すると、10時の方角から、微かながらに女性の叫び声が耳に届いた。

瞬時に方向を変え、雑木林の生い茂る薄暗い闇の中に足を踏み入れた。




「っや、やめて……!!!」

視界の際に、血だらけになった女性の命乞いが聞こえる。音を立てぬように限界まで近づき、木の裏に隠れて様子を伺った。

「半妖も聖職者も居ないもんなぁ…」

「誰も助けに来ないぜ……」

人語を口にする吸血鬼。意志を持ち、言語を用いるならば、あの吸血鬼は例の青髪のアイツにも匹敵するのだろうか。

「聖職者が居ないはずなのに…」


「なんで居るんだろうなぁ?」

瞬きで視界が塞がったほんの一瞬で、木の向こうからこちらを覗き込む吸血鬼と視線が重なる。

(やばっ…)

いつもなら、剣をひと振りすれば終わるものの、いまは持ち合わせていない。こんな至近距離じゃ弾き飛ばすこともままならない。

迷ったその一瞬の隙に、腹を軽々と蹴飛ばされ、間の木を折りながら何メートルも吹っ飛んだ。

「ってぇ……ッ゛」

背中を襲う猛烈な痛みが全身の力を抜いていく。

手足に力が入らなければ、立ち上がることもできない。

「お前知ってるぞ、強い奴だろ」

「強いヤツと殺り合いたかったのに剣持ってねぇじゃん」

「つまんねぇ」


「…お前もな」

刹那、己の指を鳴らす。

吹っ飛ばされた時、瞬時に触った木々や石を全て吸血鬼に向けてぶっ放す。

物凄い爆音が辺りを轟き、吸血鬼が動けないこの一瞬で全ての力を振り切り女性の元へ飛び出す。

「もう大丈夫、掴まって」

「ぇ……あ…」

「早く!!!!」

無理矢理にでも彼女の腕を掴み、全速力で駆け出しながら抱え込む。

今はとにかく救助が最優先だ。あんなに強いなんて聞いていない。剣がなきゃ勝負なんてできない。

「っあ、あの……ッ」

「息子は……っ」

「……舌、噛みますよ」



憎き本部まで到着し、門を張っている同業者に彼女を引渡した瞬間、身体が鉛に押し潰されたかのように倒れ込んだ。

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