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現実世界――
「……ただいま」
それは、本当に久しぶりの“ないこ”の声だった。
震えていたが、確かに存在していた。
静まり返った部屋に、その声が、初めての風のように流れていく。
ないこは、そっと目を閉じた。
胸の奥で、もうひとりの“自分”が静かに眠っている気がした。
――壊れていたのは、自分ではない。
否。
壊れていたのは、“自分のふりをした”誰かだったのかもしれない。
ないこ(心の声):
「壊れたふりをしていたのは、わたしだった」
「傷ついたまま、声を出すことが怖かった」
「だから、代わりに“あの子”に全部背負わせていた」
それに気づいた今、ようやく本当の意味で、「ここ」に戻ってきたのだ。
*
数時間後、ないこは一通のメッセージを送った。
「会いたい」
それだけの短い言葉が、いれいすのグループチャットに現れた瞬間――
すぐに既読が5つ、光った。
*
同日夜、事務所近くのスタジオ前。
玄関の前に立っていると、扉の向こうから聞き慣れた足音が近づいてくる。
最初に現れたのは、りうらだった。
目が合った瞬間、何も言わず、ただ抱きしめられた。
りうら(震える声で):
「……おかえり」
それに続くように、いむ、初兎、いふ、悠佑が次々と駆け寄ってきた。
誰も泣かないと思っていた。でも違った。
いふ: 「何だよ……ちゃんと……帰ってくるなら、言えよ……」
悠佑: 「あーもう、ずるいって……」
いむ: 「声、出るようになってんじゃん。……よかった」
初兎(笑いながら): 「……夢じゃないよな、これ」
ないこは何も言えなかった。
ただ、喉が震えて、声が詰まって、目に涙が浮かぶ。
ないこ: 「……ごめん……でも……ありがとう」
それだけで、十分だった。
彼らが、“ないこ”を受け入れてくれるのに、言葉なんて必要なかったのかもしれない。
その瞬間、ないこは知る。
本当に壊れていたのは、「繋がりを信じる勇気」だったのだと。
それを、自分は今、取り戻した。
*
闇ないこの意識――
もう存在することのない、深層のその最果て。
眠るように、穏やかな表情で瞼を閉じていた。
彼の中にも、“ひとつの終わり”と“新しい始まり”が確かにあった。
闇ないこ(微かな声で):
「……守れて、よかった。お前が……お前でいられて」
そう呟くと、その姿もゆっくりと光に溶けていった。
*
夜の空を見上げるないこは、ひとつ深く呼吸をして、ぽつりと呟いた。
ないこ:
「また、歌いたいな……」
それは、かつての“夢”の声だった。
誰の代わりでもない、自分自身として。
その声が、空に昇っていく。
次回:「第二十三話:最初の音」へ続く