テラーノベル
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――夜が明ける。
ないこは、静かに目を開けた。
少しずつ整い始めた心。まだ不安は残っている。
けれど、今日は何かが違っていた。
目覚めた部屋には、暖かな光が差し込んでいた。
もう、鏡のヒビも、影も、ない。
ないこ(心の声):
「終わったんじゃない。
今、やっと“始められる”気がする」
リュックに、ノートとギターを詰めた。
音が怖くない。
沈黙の中に閉じ込めていた“想い”を、また音に乗せてみたいと思えるようになった。
今日は――久しぶりに、スタジオに向かう。
*
いれいすのスタジオ。
扉を開けると、そこにはメンバーがもう揃っていた。
りうらがニッと笑って言った。
りうら: 「遅い。どれだけ待ったと思ってんの」
いふ: 「って言いながら、一番緊張してたのあいつな」
いむ: 「今日のために機材全部磨いたし」
初兎: 「さっきからピアノの前から動いてない」
悠佑: 「俺? 俺はずっと歌詞帳抱えてたけど?」
ないこは思わず笑ってしまう。
自然に、こんな風に笑えたのは、いったい何日ぶりだろう。
そして、そっとギターケースを開ける。
ないこ(心の声):
「これが、“俺”の“最初の音”――」
スタジオの空気が静まり返る。
コードを一つ、弾いた。
それはどこまでも優しくて、弱くて、でも確かに力強い音だった。
すぐにピアノが寄り添い、ベースが重なり、ドラムが支える。
いれいすの音が、久しぶりに“ひとつ”になった。
誰も言葉を交わさなかった。
けれど、みんなが知っていた。
この音こそが、ないこが帰ってきた証。
そして――新しい“物語の始まり”。
ないこ(心の声):
「俺はもう、逃げない。
“この音”が、俺をここに繋ぎとめてくれるから」
ひとつ、またひとつ、音が重なる。
その響きが、ようやく“未来”を描き始める。
次回:「第二十四話:ひとつのメロディ」へ続く
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