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妖刀鬼神丸〜蛇骨長屋戦闘記

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妖刀鬼神丸〜蛇骨長屋戦闘記

34 - 第34話それぞれの事情

2025年10月16日

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それぞれの事情

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「旦那、そんな躰でどこへ行かれますな?」

山形屋伊兵衛は廊下に立ち止まって一刀斎に微笑んだ。

ここは三河国、二川ふたがわ宿の湊にある山形屋の母屋である。

千石船を追って、志麻を狙う刺客海音寺松千代を倒した一刀斎は、一瞬の油断を突かれ忍者小猿の放った吹き矢の毒によって倒れた。その小猿は三河へ向かう途中、千石船の寄港地で水夫の目を盗んで逃走した。

毒の回りを止める為、自ら矢の刺さった周辺の肉を抉り取った一刀斎は、あの世とこの世の境を三日三晩彷徨さまよった。

伊兵衛や水夫達の手厚い看護により船の上で意識を取り戻した一刀斎は、このまま三河へ連れて行ってくれるよう伊兵衛に頼んだ。

とは言え、身体中に痺れが残ってまだ立つ事は出来ない。

三河に着くと、伊兵衛は水夫たちに命じ、一刀斎を自らの店の奥座敷に運んで医者を手配したうえ、手厚く看護した。

それから更に三日が立つ。

一刀斎は総身に力を込め刀を杖にして立ち上がった。

そして足を引き摺りながら座敷を出ようとしたところを店の者に見咎められ、伊兵衛が飛んできたと言う訳だ。


「おう山形屋、今、挨拶に行こうと思ってたんだ。とんだ世話んなっちまった、この恩は一生忘れねぇぜ」

「何をおっしゃいますやら、そんな躰じゃお連れの方達を探すのはどう考えたって無理でしょう」

「俺ぁどうでも行かなきゃなんねぇんだ、小猿が逃げちまったからな」

「だったら、前後の宿場に店の者を遣って探させます、貴方はここに居てお連れの到着を待っていれば良い」

「しかし、この二川宿を張ってりゃ必ず通るんじゃねぇか?」

「そうとは限りませんよ。本坂通を行く可能性もある」

「本坂通ってのは何だ?」

「俗称『姫街道』と言って女旅にはこちらを使う者が多い、他の関所に比べて調べが緩やかなのです」

「そこを通ったら何処へ着くんでぇ」

「下り旅なら見付か浜松から入って吉田か御油宿に出ます、貴方一人で全ての宿を見張るわけには行かないでしょう?」

「そ、そんな道があったのか・・・」

「だから貴方は大人しくここで待っているのが良いんです」

「だが、これ以上お前ぇに迷惑をかけるのは心苦しい」

「ふふふ、もちろんタダでとは言いませんよ。こう見えても私は商人あきんどですからちゃんと損得勘定はしています」

「俺に何をしろと言うんだ?」

「私は貴方の剣の腕に惚れたのです。その腕をちょっとばかりお貸し願えればと思っているんですよ」

「なんでぇ、用心棒にでもしようってのか?」

「はい、その通り・・・ですがこの山形屋の用心棒ではありません」

「ん?じゃあ何だってんだ?」

「二川宿の用心棒をお願いしたいのですよ」

「何だって、この宿全体の用心棒だってか?」

「近ごろこの街道沿いには、雨後の筍の如く博打場が出来ました。と言うことはそれぞれにそれを取り仕切っているヤクザがいるって事です。そいつら須賀宿や吉田宿からこの二川の利権を狙って入り込んでいる奴らなんです。二川宿にはそれに対抗出来るような大きなヤクザはいない、せいぜい町のごろつきを集めた程度の小さな組があるだけだ。私は二川で商売をさせて貰ってるんです、ここの利権をよそ者に良いように食い荒らされるわけには行かないんだ」

伊兵衛は廊下の板張りに膝をついた。

「一刀斎の旦那、どうかこの山形屋伊兵衛に力を貸してはくれないだろうか?」

「おい、よしな、そんな真似。俺はお前ぇには返しきれねぇほどの恩があるんだ、こんな躰だが役に立つなら存分に使ってくれて構わねぇ」

「おお、引き受けて下さるか!」

「それこそ、乗り掛かった船よ」

「そうと決まれば座敷にお戻りになって、滋養のある物でも食べてゆっくり吉報をお待ちなせぇ」

「むむむ・・・」

「ささ、座敷に戻った戻った」


一刀斎は伊兵衛に押し戻されるようにして座敷の敷居を跨いだ。


*******


「志麻ちゃん、次の宿場はまだなのぉ?」

坂道を道中杖を突いて降りながらお紺が訊いた。

「もうすぐ和田の追分道に出るわ。そこを左に行けば吉田宿、右に行けば御油ごゆ宿よ」

「ねぇ、近い方に行こうよぅ」

「私もそのつもり、本坂峠は結構キツかったもんね」

「た、助かった・・・その前にちょっと休んで行こ」

「分かった、あの先に幟が見えるわ、あそこまで頑張って」

「うん・・・頑張る」

ちょうど坂を下りきった辺りに茶屋がある、志麻とお紺はそこで一休みする事にした。


「いらっしゃい」愛想笑いを浮かべて、茶店の親父が二人を出迎えた。

緋色の毛氈を敷いた床几に二人は腰を下ろす。

「なにになさいます?」親父が訊いた。

「志麻ちゃんにはお茶とお団子・・・わっちにはお酒を一本・・・あ、それから何かつまみになるものはあるかい?」

「たくあんの古漬けならありますが?」

「それでいいよ」

「お紺さんお酒も飲むの、歩けなくなるわよ?」

「わっちは酒が入った方が元気が出るのさ・・・親父さん、いいから持ってきておくれ」

「へい」

親父はペコリと頭を下げると店の奥に入って行った。

「さて、もうだいぶ伊勢に近づいたね」

「津に入ったら私は一度家に帰るからそこでお別れね」

「寂しいねぇ、また江戸に出て来るんだろう?」

「そのつもりだけどいつになることやら・・・」

「長屋のみんなは志麻ちゃんの帰りを首を長くして待っているはずだよ」

「一刀斎に銀ちゃん慈心のお爺ちゃんそれにお梅婆ちゃんも、・・・今頃どうしているかしら?」

「きっと元気にしているさね・・・ねぇ、伊勢に参ったら帰りにあんたの実家訪ねてもいいかい?」

「もちろんよ、きっと来てよ待ってるから!」

「嬉しいねぇ、そう言ってもらえると・・・最初は無理やりついてきちまったから」

「ううん、ここまでたくさん危ない目にもあったけど楽しかった」

「志麻ちゃん・・・」

お紺が目を潤ませて志麻を見た。

「お待ちどうさま」

親父が盆に団子と酒を乗せてやって来て、床几の上に盆を置いた。「この団子はうちの自慢の団子だよ、他所じゃそうそう味わえないよ」

「へぇ、何処が違うんだい?」

「まず、蕨わらび粉と水を捏ねて赤子のこぶし大に丸めて鉄鍋で茹でる。茹で上がったら麦焦がしに砂糖と塩を塩梅よく混ぜたものに塗まぶして皿に盛る」

「他と同じじゃないか?」

「いやいや、うちのは砂糖の量が違う、たっぷり使っているからね」

「へぇ、砂糖なんて贅沢なもんそうそう使えないよ」

「だから他より美味しいのさ」

「ふ〜ん」お紺が感心している間に、親父はさっさと奥に引っ込んで行った。

「お紺さん、欲しければ一個あげるよ、こんな大きなお団子三つも食べられないから」

「え、ほんと?・・・いいの?」

「いいわよ」

「じゃあ遠慮なく、いただきま〜す・・・」

お紺が黒文字(和菓子を食べるときに使う楊枝)で団子を突き刺し、口に入れようとしたその時・・・

「きゃっ!」お紺が小さな悲鳴をあげて飛び上がった。その拍子に団子はお紺の手を離れ下に落ちてコロコロと転がった。

「え?なになに・・・あれ!」

見ると鞠のような焦茶色の獣がまん丸の瞳でこっちを見ている。

そして目の前に転がってきた団子をパクリと口に咥えた。

「狸ね・・・」志麻が言った。

「タヌキ?」

「ここは山の中だもの貍くらいいるわよ」

「だってせっかくのお団子をこいつ・・・」お紺が貍を蹴飛ばそうと足を踏み出した時、狸が急にキリキリと回り始めた。

そしてキュ〜ンと苦しそうな声で一声鳴くと、口から血を吐いて倒れてしまった。狸はピクピクと二度痙攣し動かなくなった。

「え、え・・・どうなってんの!」

「お紺さん毒よ!」志麻が叫んだ。「そのお団子には毒が入ってたのよ!」

「ええっ!」

お紺は呆然として立ち竦んだ。

「あの親父!」

志麻は店の奥に駆け込んだ。しかしそこは既にもぬけの殻だった。

「あいつ・・・大和屋の刺客」

「近頃おとなしいと思ったら、まだいたの!」

「今度は武器じゃなく毒を使ってきたわ、どうあっても私を殺すつもりね」

「志麻ちゃん、どうしよう・・・毒なんか使われちゃ防ぎようがないわ」

「私にも分からない、でも暫くは襲ってこないと思う。とにかく吉田宿まで急ぎましょう」

「そうね、そうしましょう・・・でも、こいつがいてくれなかったら、わっちが死んでいたのね・・・」

「お紺さんの身代わりになったこの子を、ちゃんと供養してあげましょう」


志麻とお紺は店の裏側に穴を掘り、狸の亡骸を埋めると小ぶりな石を乗せて手を合わせた。

それから大急ぎで街道に出ると、和田の追分道を目指して歩き出した。

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