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最後の背中
病室の空気は、どこか静まり返っていた。
規則的に鳴る心電図の音だけが、この部屋に流れる残酷な時間を刻んでいる。
「照、そんな顔すんなって。お前が眉間にシワ寄せると、ただでさえ怖い顔がもっと怖くなるぞ」
ベッドの上のふっかは、いつもと変わらない軽いトーンで言った。
頬は痩せこけ、肌も白いシーツと同化しそうなくらい青白いのに、その口調だけはいつもの、あの優しい最年長のものだった。
「……別に、怖い顔してねぇよ」
俺はパイプ椅子に座ったまま、視線を落とした。
自分の大きな手が、ふっかの細くなった手首を包み込む。
Jr.時代からずっと、俺たちは隣にいた。
シンメとして、苦しい時代も、デビューの喜びも、全部半分こにして背負ってきた。
俺が振り付けで行き詰まった時も、グループのことで悩んだ時も、ふっかはいつも「照の好きにやりな。俺が後ろで支えるから」と笑ってくれた。
そのふっかが、もうすぐいなくなる。
医者から告げられた余命は、すでに過ぎていた。今こうして話せていること自体が、奇跡に近い状態だった。
「照」
「ん」
「俺さ、お前とシンメになれて、本当に良かったわ」
ふっかが、ぽつりと言った。
「急に何言ってんだよ」
「いや、ちゃんと言っとこうと思って。お前はさ、不器用で、真面目で、すぐ一人で抱え込むからさ。俺がいなくなったら、誰がお前のストッパーになるのかなって、それだけが心配でさ」
「……心配すんな。俺はもう、子供じゃない」
声を震わせないように、必死で奥歯を噛み締める。
だけど、ふっかは俺のそんな強がりを全部お見通しだった。
自由になる方の手をゆっくりと動かして、俺の手の上に重ねてくる。
「子供だよ、俺から見たらずっと。……でも、今のSnow Manなら大丈夫だな。みんな頼もしくなったし、照の隣には、支えてくれるメンバーが他に7人もいる」
ふっかは満足そうに目を細めて、窓の外の青空を見つめた。
「俺さ、みんなとまだやりたいこと、いっぱいあったなぁ。また9人で飯行って、バカみたいに笑って、次のライブの構成考えて……」
その言葉に、胸が痛いほど締め付けられる。
ふっかは誰よりもSnow Manが大好きで、誰よりも「9人」であることにこだわっていた。
最年長として、自分のことより、いつだってメンバーの幸せを優先してきた奴だった。
「……ふっか」
「ん?」
「お前がいないSnow Manなんて、想像できない」
ずっと堪えていた本音が、口から溢れた。
「俺の隣は、お前じゃなきゃダメなんだよ。誰が俺のシンメやるんだよ。お前が後ろにいないと、俺、前を向けないよ……」
ボロボロと涙が溢れて、ふっかの手の甲を濡らす。
ふっかは困ったように笑って、でも、その瞳にもうっすらと涙を浮かべていた。
「バカ、何言ってんだよ。俺はお前の後ろにずっといるよ。目には見えなくなっても、ステージの真後ろから、お前の背中をずっと押し続けてる」
ふっかの手が、俺の涙を優しく拭う。
「照。お前は俺たちの自慢のリーダーだよ。胸張って、前だけ見て引っ張っていけ。……俺の分まで、Snow Manを最強のグループにしてよ」
それは、最年長としての、そして最高の相棒としての、最後の願いだった。
「……わかった。約束する。俺が、Snow Manを絶対に守るから」
俺が力強く頷くと、ふっかは「うん、頼んだわ」と、いつものあの、優しいタレ目で笑った。
その日の夜遅く、ふっかは静かに息を引き取った。
眠るような、本当に穏やかな、綺麗な顔だった。
それから、何回目かの季節が巡った。
ドームのステージに立つ前、俺は円陣の真ん中で声を張る。
「いくぞ!」という俺の声に、7人のメンバーと、心の中にいるあいつが応える。
イントロが流れ、ステージへと飛び出す。
自分の立ち位置についた瞬間、ふっと、背中に温かい風が吹いたような気がした。
隣を見なくてもわかる。
俺の後ろには、今もあいつがいて、あの優しい笑顔で俺の背中を押してくれている。
「ふっか、見てろよ」
俺は前を向き、最高の笑顔で、一歩を踏み出した。
コメント
1件
わあ…第3話、読ませていただきました。ふっかと照の最後の会話、胸がぎゅっとなりました。「目には見えなくなっても、背中を押し続ける」って台詞、本当にグッときます。照が涙をこらえながら「お前がいないSnow Manなんて想像できない」って本音を漏らすところ、もう…。ラストのドーム公演で「ふっか、見てろよ」って前を向くシーン、泣けました。大切な人を失っても、その人の想いを背負って歩いていく強さが、すごく伝わってきました。素敵な作品をありがとうございます🌷