今回少なくてごめん!それではどうぞ!
第二話:「緑の空、赤の瞳」
赤は、空を描いていた。放課後の美術室、窓から射し込む光の中で、カンバスに広がる絵の具の色が、彼女の迷いをそのまま映していた。
「やっぱり、ちょっと変かな……」
ぽつりとつぶやいた赤の肩越しから、桃の声が響いた。「どこが?」
赤は筆を止めて振り返る。桃は美術室のドアにもたれ、にこりと笑っていた。
「空が、緑に見えるの。私だけなの。先生には“間違ってる”って言われた」
桃は近づき、カンバスを見つめた。そこには、やわらかく混ざった翡翠色の空と、橙に近い太陽が描かれていた。
「これ、俺には逆に新鮮に見える。たぶん、普通の空より、ずっと赤らしい」
赤は言葉を飲み込んだ。「でも、もしあなたがちゃんと色を見てるなら……私と違うものを見てるのかもしれない。そう思うと、怖いの」
桃はカンバスにそっと指を伸ばした。「でも、同じ空を見て“きれいだ”って思ってる。それでいいじゃん」
「……それで、いいの?」
「うん。たとえば君が“この空は緑だ”って言ったら、俺も“そうだな”って言うよ。だってそれが、君の世界だから」
赤は目を伏せた。「私の世界は、壊れてるの」
「違う。壊れてなんかない。君の世界は、ちゃんと色づいてる。俺にしか見えない色で、ね」
その言葉に、赤の胸の奥が少しだけ温かくなる。
桃は筆を取り、カンバスの端に小さく青い点を描いた。「これ、俺の色。君の緑の空の中に、俺を置いてくれるとうれしいな」
赤は思わず笑った。ふいに、世界が少しだけ優しくなった気がした。
(次回予告) 第三話:「揺れる午後と静かな声」 ―聴こえにくい世界で、白が黒に伝えたかった想い―
コメント
7件
人によって感じかたや見え方は変わるよねっていうのを教えてくれてるみたいですごい感動しましたッ_!
なんか、もうないくんの言葉がめっちゃ心に響く
人によって感じかた、見えかた変わるもんね! そういうアート?的な感じでいいね!