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オズボーン公爵夫人にも挨拶をし、エーファはある部屋に通された。
広い部屋に置かれた広い寝台には男が眠っている。
なるほど、そういうことか。
恐らくこの人がゲオルク・オズボーン公爵当主その人だろう。
エーファは寝台の脇にある椅子に座るよう促され、椅子に腰掛けた。
「彼が僕の父オズボーン公爵だよ。父は一ヶ月ほど前に倒れて、今では寝たきりの生活だ。専属の魔法使いたちや医師たちにも診てもらったけど、口をそろえてわからないと言われてしまったわけなんだ」
フリードリヒは苦笑した。
エーファは相槌を打つ。
「お倒れになる前のご様子をお聞かせください」
フリードリヒは考えるような仕草をした。
「体調不良もなくいつも通り仕事をしていたよ。ミスもなかったようだし。倒れたのは本当に急だった」
……体調不良もなく、急に、か。
少し見えた気がする。
「……なるほど。それでは診ていきますね。お身体に触れてもよろしいでしょうか?」
エーファがフリードリヒの方を向いて聞くと彼は頷いた。
フリードリヒの了承を確認し、エーファは視線をゲオルクの方に戻す。
「失礼します」
ゲオルクの腕を片手で包んだ。
身体の中の様子がどうなっているのか魔法で見るのだ。
エーファの掌から淡い白い光が放たれた。
そしてしばらく身体の中を探る。
……なるほど。肉体に異常があるわけではなさそうだ。
となると、やはり頭か。
そう思い、エーファが頭の異常を探ろうとした途端、彼女の掌が包んでいたゲオルクの腕から、バチバチッと静電気のようなものが起こった。
エーファは結構な痛みを感じ、ゲオルクから手を離してもう片方の手でその手を覆う。
エーファの様子を見守っていたフリードリヒや使用人たちは何事かと瞠目した。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
エーファは面々に笑いかけた。
大丈夫だと言ったものの、痛いものは痛い。
「……それで、何かわかった?」
恐る恐る尋ねるフリードリヒにエーファは頷く。
「恐らくこれは、黒魔法を使ったことによる症状です」
黒魔法とは、あまりにも辛い記憶を薄れさせ、感情を和らげるための魔法だ。
それだけ聞くと誰しもがいい魔法だと思うが、使えば使うほど感情がなくなっていき、やがて死に至る恐ろしい魔法だ。
今では禁忌とされているが、しようと思えば裏ルートで黒魔法の魔導書を入手できてしまうため、黒魔法に手を出す者は多い。
フリードリヒは目を大きく見開いた。
「父上が……、黒魔法……?」
悲しみを孕んだ表情だ。
フリードリヒは俯き、額に片手を当てる。
「まさか父上がそんなことをしていたとは……」
フリードリヒが呟く。
「先程の静電気のようなものは、公爵様の潜在意識からの拒絶です。深入りするなということでしょうね」
フリードリヒの方を向いて、エーファは言葉を続けた。
「差し支えなければ、過去の公爵様に何があったのか、お聞かせ願えませんか?治療の助けになるかもしれません。もちろん、差し支えなければ、ですが」
フリードリヒはばっと顔を上げた。
エーファは真剣な表情でフリードリヒを見る。
フリードリヒは一瞬躊躇ったようだが、治療のためだと割り切ったのか頷いた。
「わかった。話そう」
覚悟を決めたような硬い声に、エーファは背筋を伸ばして耳を傾ける。
「僕には七つ離れたフリーデリーケという妹がいたんだ。愛らしい子でね、素直で優しくて、いつもにこにこと笑っていたよ。僕も母もフリーデリーケ……、フリーデを愛していたけど、父は特に妹を愛してた。僕に対しては叱ることもあったけど、父はフリーデを叱ることもなかったし、寧ろ彼女の言うことなら何でも聞いてあげてたよ。それくらいフリーデを愛してたんだ。けれど……」
エーファは黙ったまま引き続き耳を傾けた。
「三年前、フリーデは不慮の事故で亡くなってしまった。馬車が衝突したんだ。葬式が終わってから父はしばらくの間部屋に引きこもってしまったよ。数ヶ月してようやっと出てきたと思ったら、父は感情を表に出さなくなっていた。笑うことも怒ることもなくなってしまったんだ。悲しみのあまりそうなってしまったのだと思っていたが……」
フリードリヒは黙り込んだ。
代わりにエーファが言葉を発する。
「もしかするとその数ヶ月の間に黒魔法を使われていたのかもしれませんね。……話してくださってありがとうございました、公子様」
エーファが礼を言いながら椅子から立つと、フリードリヒは首を横に振った。
「いや、治療のためになるなら何よりだよ」
そしてエーファはフリードリヒの前まで歩み寄る。
フリードリヒは首を傾げた。
「不安に思われるかとは思いますが、尽力いたしますので、ご理解とご協力よろしくお願い申し上げます」
エーファの言葉にフリードリヒは少し笑み、頷いた。
「うん。よろしく頼むよ、レディウィルズリー」
エーファは安堵する。
良かった。
そこでエーファは一旦帰り、薬を作って後日またオズボーン家を訪ねることにした。
エーファも治療がうまくいくかはわからないが、とにかく頑張ろうと気を引き締めた。
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