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歩んだ先でまた出会おう
「またな」
高校の卒業式の日、線路沿いの坂道で、湊が右手をかざしながら碧に言った。それは、どこにでもある別れの合図で――けれど、二人にとっては胸が軋むほど重い約束だった。
碧はうまく言葉が出せず、ただ小さく笑って、「うん」と答えた。
雪解け水が流れる坂道の、白い残雪の上に二人の足跡が並んでいた。
***
それぞれ選んだ都会、別々の大学。最初のうちは月に一度は連絡を取り合った。何気ない写真を送りあったり、時間を合わせて通話したり、笑いあった。
けれど、互いに新しい友人や慌しい課題、バイト、恋の噂……様々な出来事が二人のやりとりの隙間をうめていった。
送ろうと思って下書きに入ったままのメッセージが、いくつもスマートフォンに残された。未送信の言葉ばかりが積もってゆく。
湊と約束した「また会おう」が、どんどん遠ざかっていく気がした。
***
季節は流れ、社会人になった碧は、転勤で地方都市に赴任した。
「ここで自分の世界をつくっていこう」
そう思いながら、毎朝新しい革靴で少しずつ馴染みのない街を歩いた。それでも、道端で見かける学生の制服や、坂道から見下ろす夕焼けに、ふっと湊の面影が重なることがあった。
たまにSNSのアイコンが変わっているのを見て、「声をかけてみようか」と思うけれど、その勇気が出せずに画面を閉じた。
***
転勤二年目の春、碧は町の路地裏の小さな古書店を見つけた。休日になると、その場所で静かな時間を過ごすのが日課となった。
その日、雨上がりの夕方。カラン、とドアベルが鳴り、誰かが店に入ってきた。その声は碧の背中越しに届いた。
「……あ、すみません、これって初版ですか?」
耳慣れた低い声。振り返れば、少しだけ大人びた湊が、そこに立っていた。
「……湊?」
湊も一瞬きょとんとしたが、すぐに微笑む。
「うわ、本当に碧!? すごい偶然。いや、偶然だけど……もしかしたら、会えるかもって思ってこの町歩いてたんだ。」
二人の間に、静かな沈黙が流れる。懐かしさと、また新しい距離感。それでももう、「立ち止まらず進んできた自分」がここにいる。
湊がふと、碧の手を取った。
「なぁ、歩いてく?また、歩きながら話そうよ。」
***
線路沿いの道を並んで歩く。あの坂道を思い出す。
「ずっと、また会いたいと思ってた。」 「オレも――でも怖かった。会えなくなっても、そのまま時間だけが進んでいくのが。」
「でも、オレたち、ちゃんと歩いてきた。だから今、こうしてまた会えたんだと思う。」
二人の間に、かつての空白はなかった。ただ、歩んできた時間の分だけ、言葉の奥に優しさと強さが混じっていた。
夜風が頬をかすめる。
「オレたち、きっとこの先もっといろんな道を歩くんだろうな。そのときも、また、歩いた先で会えたらいいな。」
「約束しようよ。今度こそ未送信の言葉なんて残さない。」
肩を並べて歩く碧と湊。二人の影が、重なって長く伸びていく。
歩んだ先でまた会おう――その言葉に、これからの人生が静かに照らしだされていくのを、二人とも確かに感じていた。