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放課後の図書館。静寂が支配するその場所に、場違いなほど幻想的な影が落ちた。上杉風太郎は、山積みの参考書と格闘しながら眉をひそめる。
「……おい、そこ。資料の邪魔だぞ」
顔を上げず、ぶっきらぼうに言い放った風太郎の視界に、ふわりとフリルの裾が入り込んだ。ゆっくりと視線を上げると、そこには人間離れした美貌を持つ「潤羽るしあ」が立っている。
「……あ? なんだ、コスプレか?」
風太郎は一瞬、呆気に取られた。だが、目の前の「少女」があまりにも精巧で、透き通るような白肌にエメラルドグリーンの髪が映え、まるでCGが実体化したような違和感のない美しさを放っていることに、言葉を失う。
雄大は、るしあ特有の少し寂しげで、それでいて独占欲の強い視線を風太郎にぶつけた。
「……上杉さん、るしあを見てくれないの? お勉強の方が大事?」
その声は、甘く、鼓膜を震わせる。風太郎の背筋に冷や汗が流れた。
(……なんだ、この圧倒的な『圧』は。それに、なんで俺の名前を知ってる?)
「……お、おい。俺は今忙しいんだ。悪いが他を当たってくれ。……というか、お前、どこのモデルだ? ここは撮影禁止だぞ」
必死に平静を装う風太郎だが、耳たぶがわずかに赤くなっているのを雄大は見逃さない。
雄大はわざとらしく椅子を引き、風太郎の顔のすぐ近くまで顔を寄せた。潤羽るしあとしての「病み」と「愛」が混ざったような、危うい微笑みを浮かべる。
「撮影なんてしてないよ。ただ、上杉さんが一生懸命なのが、るしあ……気になっちゃって」
至近距離。雄大の首筋から漂う、微かな、だが確かな清潔感のある香りが風太郎の鼻をくすぐる。
「……っ! 近い! 離れろ!」
風太郎が椅子ごと後ろに下がる。その動揺っぷりに、雄大は心の中でほくそ笑んだ。「男の娘」であること、そして村雨雄大であることを完全に隠し通せている。
そこへ、騒ぎを聞きつけた四葉がひょっこりと顔を出した。
「あ! るしあちゃん! 上杉さんとお話ししてたんですか?」
「よ、四葉! 知り合いなのか、この……この、めちゃくちゃ綺麗な人は!」
風太郎の叫びに、四葉はきょとんとして答える。
「えっ、上杉さん、気づいてないんですか? この人は――」
その瞬間、雄大は四葉の口を手で優しく、だが素早く塞いだ。そして風太郎に向かって、悪戯っぽくウィンクしてみせる。
「内緒だよ、上杉さん。……また、るしあに会いに来てね?」
雄大はそのまま、風が吹き抜けるように図書館を去っていった。残されたのは、心臓の鼓動が止まらない風太郎と、呆然とする四葉だけ。
「……なんだ。あいつ、何者なんだよ……」
風太郎はペンを握り直すが、ノートの文字は全く頭に入ってこない。
その頃、廊下の角で雄大は地声に戻り、小さく「ふぅ」と息を吐いた。
「……案外、チョロいな。上杉も」