テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#学園ファンタジー
成瀬りん
291
#家族
たつ
53
#日常
ももは
551
コメント
1件
みぃです🥀読ませていただきました。 住職さんの「敗北とは己を知る機会」って言葉、すごく心に残りました。三人が静かに決意を新たにしていく空気感が丁寧で…瞳ちゃんの一途さにもグッときたし、公太くんのお母さんの登場で空気が一気に和んだのも良かったです。重くなりすぎず、でもちゃんと温かさがあるお見舞いの連続で、三人の絆がまた一段階深まった感じがして続きが楽しみです🌙
病室には、白いカーテン越しに柔らかな朝日が差し込んでいた。
公太、唯我、一祟の三人は、それぞれベッドの上で静かな時間を過ごしている。
修行もできない。 戦うこともできない。
ただ回復を待つしかない現実が、胸を重く締めつけていた。
その時――
コンコン。
静かに扉が開き、一人の僧侶が姿を現す。
一祟の師である住職だった。
穏やかな笑みを浮かべたその姿だけで、病室の空気が少し柔らかくなる。
「お邪魔します」
一祟は慌てて起き上がろうとする。
だが住職は優しく手を上げた。
「そのままで構いません。無理は禁物ですよ」
「……ありがとうございます」
公太と唯我も軽く頭を下げる。
「どうも」
「お久しぶりです」
住職は持っていた包みを差し出した。
「ささやかですが、お見舞いです」
中には彩り豊かな精進料理。
「精進料理かぁ……」
少し残念そうな公太。
住職は優しく笑う。
「派手な味ではありませんが、体には良いものばかりです」
「ありがとうございます」
唯我が礼を言い、公太も照れくさそうに笑った。
「サンキュー」
住職は三人を見回し、静かに語り始める。
「今回の敗北……悔しかったでしょう」
三人の表情が曇る。
「ですが、敗北とは己を知る機会でもあります。
本当に恐ろしいのは負けることではありません。
そこで心が折れてしまうことです」
その言葉は静かに胸へと染み込んでいく。
「戦いは力だけでは決まりません。
冷静さ、仲間への信頼、そして何度でも立ち上がる意志。
それこそが真の強さです」
公太は拳を握る。
唯我は静かに目を閉じる。
一祟は真っ直ぐ住職を見つめていた。
「今は焦らず、まず体を癒してください。
そして再び立ち上がる時、その悔しさは必ず力になります」
住職は穏やかに微笑む。
「皆さんに仏の加護がありますように」
そう言い残し、静かに病室を後にした。
残された三人は、しばらく言葉を交わさなかった。
だが、その沈黙は先ほどまでとは違っていた。
「……絶対、次は負けねぇ」
公太が呟く。
「もっと強くなる」
唯我が続く。
「ええ。必ず勝ちます」
一祟も力強く頷いた。
三人の胸には、新たな決意が宿っていた。
瞳のお見舞い
コンコン。
再び扉がノックされる。
顔を覗かせたのは、瞳だった。
「えっ……」
唯我が目を丸くする。
公太と一祟は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「おっ、唯我の彼女じゃねぇか」
「唯我さんも隅に置けませんね」
「違う」
即座に否定する唯我。
その言葉に瞳は少しだけ寂しそうに笑う。
「そんなに否定しなくてもいいのに」
「ほら見ろ」
「もう決まりですね」
「黙れ」
唯我の視線も気にせず、瞳は袋を差し出した。
「お見舞い。何がいいか分からなかったから」
果物、栄養ゼリー、そしてブラックコーヒー。
唯我は少し目を細める。
「……どうして俺が入院してるって知った?」
瞳は優しく笑った。
「畑中さんに教えてもらったの」
「……あいつが?」
「最初は断られたよ。でも諦めなくて……車の前に立って『教えてくれるまで帰りません』って言ったの」
「……は?」
「だって、唯我は私にとって大事な人だから」
病室が静まり返る。
「畑中さん、最後には笑ってくれた。
『君の気持ちに負けた』って」
唯我は苦笑した。
「……あいつらしいな」
瞳は唯我の手をそっと握る。
「来てよかった」
唯我は少し照れながら視線を逸らした。
「……好きにしろ」
帰り際、瞳は振り返る。
「それと……
美鈴と再会できて、本当に良かったね」
そう言い残し、病室を後にした。
「……余計なことまで」
唯我は小さく呟く。
「良かったな〜唯我ちゃん」
「退院したら覚悟しとけ、公太」
公太の母
バンッ!
病室の扉が勢いよく開く。
「公太ぁぁ!」
「母ちゃん!?」
ドゴッ!
豪快な拳骨が飛んだ。
「いってぇぇ!」
「体張るにもほどがあるだろ!」
その迫力に、一祟は背筋を伸ばし、唯我は思わず苦笑する。
「あら、ごめんなさいね」
母親は二人へ頭を下げた。
「公太、迷惑かけてません?」
唯我はニヤリと笑う。
「ええ。たまに人をからかいます」
「唯我ァァ!」
ゴツン!
二発目の拳骨。
「また人様に迷惑かけて!」
「痛ぇってぇ!」
見舞い品を置くと、母親は笑顔で帰っていった。
病室に静けさが戻る。
「……すごいお母様ですね」
一祟が感心する。
公太は頭を押さえながら唯我を睨む。
「唯我……」
唯我は肩をすくめる。
「さっきの仕返しだ」
「覚えてろよ!」
二人のやり取りを見て、一祟は思わず笑みをこぼした。
重苦しかった病室には、久しぶりに穏やかな笑い声が響いていた。