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再び動き始めた西部閥一行。その中でレンゲン公爵母娘が乗った馬車の車内ではヴィーラとカナリアが十年ぶりの再会を果たしていた。
「生きて……いらっしゃったのですか?」
「あの程度で死んだと思われるなんて心外ね?」
「いえ、それはもちろん姉様が賊風情に討たれたとは思いませんでしたが……十年も音沙汰が無ければ諦めてしまいますよ。今までどちらに?」
「ある変態に捕まって匿われていたのよ。いや、この場合捕まっていたと言うべきかしらね。それに、不意打ちを食らって不覚をとった結果がこれよ。逃げ出すのに十年掛かったわ」
カナリアはローブを脱ぎ、失われた左腕と右足、そして隻眼を見せた。剣姫と詠われて、帝国最強の名を欲しいままとしていた姉と慕うヴィーラの痛々しい姿を見てカナリアは悲しげに眉を下げた。
「その様な深傷を……あの姉様が?」
「完全な不意打ちだったし、子育てに集中して身体が鈍っていたのもあるわ。シャーリィが興味を示して危ないから剣を携えなくなっていたしね。まあ、それでも数人は返り討ちにしてやったけれど」
「そうだったのですか……ですが、ご無事で何よりでした。姉様が生きていて嬉しく思います」
「私も元気そうな貴女を見れて安心したわ。その娘は……ジョセフィーヌかしら?」
ここでヴィーラは視線をジョセフィーヌへ向ける。
「ええ、今年で十五歳になりました。まだまだ手の掛かる娘ではありますが……ほら、ジョゼ。覚えていない?ヴィーラ姉様よ」
「あの時は五歳かそこらだったでしょう?覚えているわけがないわよ。うちの娘が特殊なだけよ」
「ヴィーラ様……もしかして、お姉様達のお母様ですか?」
「そう、シャーリィとレイミの母親よ。覚えていたのかしら?」
「えっと、小さい頃に確かレンゲン公爵家主催のパーティーでお会いしたことがあるような……」
ジョセフィーヌの言葉を聞いてヴィーラは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「中々賢い娘じゃない。それに、カナリアみたいな生意気さがないわ。この子が貴女くらいの頃は生意気でねぇ」
「社交界で傍若無人、破天荒な振る舞いをしていた姉様にだけは言われたくないわよ。男装してるし、他人を殴るし」
「私を口説こうなんて浅はかな考えを持っていたから、身の程を教えたまでよ」
「え?殴った……?」
ビックリして眼をぱちくりしているジョセフィーヌをみて、二人は微笑みを浮かべる。
「姉様は何もかもが規格外だったのよ。見た感じ、今も変わらないわね」
「そうでもないわよ。この身体にはまだ慣れていないし、少し休んで身体を馴染ませたら馬鹿共に復讐をしなきゃいけないわ。カナリア、手を貸して貰うわよ」
「元よりそのつもりよ。姉様が生きていたと知れば、あの子達も喜ぶわ」
カナリアの言葉にヴィーラは目を見開く。
「まさか……」
「そのまさかよ、姉様。シャーリィとレイミ、二人とも健在よ。シャーリィが十九歳、レイミが十七歳。立派な淑女に成長しているわ」
微笑みながら伝えるカナリアを前にして、ヴィーラは大粒の涙を流す。
「カナリア、貴女が?」
「いいえ、違うわ。私も再会出来たのはつい最近なの。信じられないと思うけど、あの娘達はシェルドハーフェンで生き抜いていたのよ。彼処なら貴族や政府の干渉も少ないから、賢明な判断ね」
「シェルドハーフェン……そう、地下道を使ったのね。今何処に?」
「慌てなくても直ぐに会えるわよ。それに、あの娘達は今戦っているのよ。この帝国そのものとね」
帝都市街地上空。レイミの手を握って飛翔したシャーリィは馬車の一団の進路を上空から確認し、目的地が駅ではなく港であると判断する。
「やはり駅には東部閥が手を伸ばしていましたか。レイミ、馬車と合流して海路から脱出しますよ」
「そうなると、少しばかり遠回りになってしまいますね……お姉さま!」
姉と言葉を交わした直後、レイミは後ろを指差して叫んだ。シャーリィが反応するより先に通常より巨大な怪鳥グリフィンが突貫、二人に衝突してシャーリィは手を離してしまう。
「レイミ!!」
「私は大丈夫です!お姉さまはそちらの対処を!!!」
落下していくレイミを追いかけようとするシャーリィであるが、レイミ自身の制止を受けて直ぐに周囲を見渡し、大口を開けて今まさにシャーリィを丸呑みにしようと迫るグリフィンに気付く。
「ウインド!!うぐっ!!」
シャーリィは直ぐに勇者の剣から風を産み出して間一髪回避するが、グリフィンの大きな翼までは避けられずそのままレイミとは別方向へ叩き落とされた。
「ふんっっ!!!」
「っ!スパーク!!!」
地面に向かって落下している最中、今度は緑色の肌を持つ大男が大剣を振るって襲い掛かってきたので、左手を向けて放電。咄嗟の悪足掻きであったが上手く直撃し、大男は跳躍して距離をとる。その間に体勢を立直したシャーリィも、帝都市街地にある広場の一つに降り立った。
「ふんっ……若くとも勇者か。その雷の力、実に忌々しい」
「お嬢様と直に戦って覚醒が促されているみたいだね」
ローブを羽織った大男、オークチャンピオンのロイスは忌々しげにシャーリィを睨み、更にシャーリィを挟むように反対側へ降り立ったグリフィンも隻眼の青年に姿を変える。グリフィンのランバート、現魔王四天王の二人がシャーリィと対峙する。
「どちらも見覚えがありますよ。ロウェルの森での一件でマリアに付き従っていた魔族ですね」
シャーリィも二人に前後を挟まれながらも油断無く勇者の剣を構える。ドレスは所々裂け、スカートはほとんど千切れてハイヒールを脱ぎ捨てた足は裸足のまま。更に出血もあり満身創痍であるのは一目瞭然だが、その闘志はまるで衰えていなかった。
「へぇ、覚えていてくれたんだ?それは嬉しいなぁ」
「ランバート、戯れ言を交わすな。勇者、姫様に手を出した以上覚悟は出来ているな。小娘と言えど容赦はせんぞ」
「そう言うこと、お嬢様に手を出されたら俺達も黙っていられないんだ。それにこれ以上勇者の力に目覚めて貰っちゃ困るし、悪いんだけどここで死んでくれないかい?無駄な抵抗をしないなら苦しまずに済ませてあげるよ?」
明らかな強敵に囲まれながらもシャーリィは笑みを深めていた。
「上等です。こっちは殺すべき復讐相手をようやく見つけたんですよ。魔王だとか勇者だとかには興味はありませんが、邪魔をするならあなた達は私の敵です!」
シャーリィの言葉に応えるように勇者の剣が目映い光を放つ。千年前の因縁が再熱しようとしていた。