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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 帝都港。翡翠城の騒ぎは徐々に収まりつつあるが、今まさに鉄火場と言えるのがこの場所である。


「船長!本当に良いんですかい!?」

「狼狽えるんじゃないよ!これだけの騒ぎを起こしているんだ!しばらく帝都で商売することは無いだろうさ!それより今は生き残ってズラかるほうが先だよ!遠慮無く撃ちなぁ!」

「おうよ!撃てーーっっ!!」




 帝都港での騒ぎを聞き付けた領邦軍が次々と港へ駆け付けるが、海賊衆は容赦なく応戦。更にアークロイヤル号から野砲による艦砲射撃を行い港湾施設を破壊していた。信号弾による合図で帝都は完全に敵地であると判断したためである。商売については西部閥が新たな大口の相手になっているため、帝都方面は当分不要である。海賊衆とシャーリィの認識は一致していた。

 そんな大騒ぎの港へ複数の馬車を伴った一段が滑り込むように到着した。それは西部閥一行が無事に港へたどり着いたことを意味している。



 直ぐに先頭を走っていたマクベス、セレスティンが陣頭指揮を執っているエレノアの下へ駆け寄った。




「エレノア殿!」

「おうマクベスの旦那にセレスティンの旦那!待ちくたびれたよ!お客さんは連れてきたかい!?」

「ああ、御一行は全員お連れした!」

「それなら今すぐに乗船しな!奴らが本腰入れてきたら長くは持たないからね!贅沢な部屋なんて用意はしていないが!」

「それは仕方ありますまい」

「だが、まだお嬢様方が!」

「シャーリィちゃん達のことは気にしなくて良いよ!別のルートをマナミアとラメルの旦那が用意してるらしい!私らの仕事は、あんたらを今すぐに帝都から連れ出すことなんだ!早くしな!」

「畏まった!乗船急げ!馬車は乗り捨てよ!貴族の皆様はお早く!」




 マクベスは兵士達に誘導させて貴族達をアークロイヤル号へ乗り込ませていく。




「セレスティンの旦那、私の部屋を一番偉い人達に使わせな。少なくとも船倉より居心地は良いだろうからね」

「忝ない。予定よりお一人客人が増えたが、問題はありませんかな?」

「なんだい、飛び入りかい?そいつは大事な客なのかい?」




 首を捻るエレノアに対して、セレスティンは静かに囁く。




「お嬢様方のお母君です」



 セレスティンの言葉を聞き、エレノアも笑みを浮かべる。




「そうかいそうかい、シャーリィちゃん達も喜びそうだねぇ。今からその様子を見るのが楽しみだよ。後で挨拶に行くから、その時は頼むよ。礼儀作法なんて期待しないでな」

「心得ておりますとも」




 マクベス、セレスティン、エーリカが先導し貴族達と兵士達が駆け足でアークロイヤル号へ乗り込む。着の身着のままで大した荷物もないのが幸いし、乗船は短時間で終わった。




「野郎共!お客さんは乗り込んだよ!出港だぁ!」




 エレノアの号令を受けて最後まで桟橋で応戦していた海賊達が急いでアークロイヤル号へ駆け込む。それと同時に貴族達が使っていた馬車を横転させて臨時の障害物とした。




「近付かせるな!撃てーーっっ!!」




 それでも近付く領邦軍に対してマクベスの号令で先に乗り込んだ兵士達が甲板上から応戦。アークロイヤル号は帆を全開にし、更に機関をフル稼働させて港を離れていく。

 外洋へ出るまでさほど時間は掛からず、西部閥は無事に敵地である帝都を離れることが出来た。尚、レンゲン公爵家の別荘に居た者達は万が一に備えてパーティー開催に先立って帝都を離れている。




「嵐にならなきゃ良いが、しばらくは我慢しな」




 雨が降る中での出港である。今回は二百名近くのお客が居ることもあり、アークロイヤル号はぎゅうぎゅう詰めと言っても過言では無かった。船室はとっくに満杯となり、船倉にまで押し込み、兵士達は甲板で過ごすことになった。兵士達は雨を防ぐために初歩的なレインコートを羽織り寒さを凌ぐ事になる。

 エレノアもまたレインコートを羽織って甲板で指揮を執る。



「水と温かいスープを飲ませてやりな。燃料は度外視、全速力でシェルドハーフェンへ向かうよ」

「任せろ、船長」

「けど、良いのか?船長も甲板で寝るつもりかよ?」

「貴族様と一緒じゃ息が詰まるからね。トラブルは起きてないだろうね?」

「何人かの貴族が騒いだが、公爵様が黙らせてくれたぜ」

「そりゃよかった。シェルドハーフェンに着くまでの辛抱さ」




 部下と話をしていると、レインコートを羽織ったエーリカが近寄る。




「なんだい、エーリカちゃん。ちゃんと身体を休めな。疲れてるだろう?」

「あはは、大丈夫ですよ。それに、流石に公爵閣下や奥様と御一緒なのは勘弁してください…」



 エーリカはカナリアと同じ部屋を割り当てられたが、堪らずに出てきたのである。




「悪いねぇ、まさか男と一緒にするわけにもいかなかったからさ」

「お気遣いありがとうございます。見知った皆さんと一緒に居る方が安心できますから。それより、お嬢様方は大丈夫でしょうか?」

「なぁに、ラメルの旦那達が上手くやるさ」




 帝都市街、再び姉とはぐれてしまったレイミではあるが、状況を悲観してはいなかった。魔力の流れを辿れば姉を探すのは容易であるし、何より空を飛ぶ術がある姉はその気になれば単独で帝都を離れることも難しくはない。

 むしろ自分が帝都に留まれば、一度は撃退したマリア達が再び介入してくる可能性が高い。そうなっては不利である。故にレイミは帝都を離れるべく市街地を駆け抜けていた。雨が降る寒い冬の夜は人々を凍えさせるが、氷の魔法を得手とするレイミは寒さに対する高い耐性を持っている。むしろ皆が凍える今の状況は好都合である。




「見付けた!」




 レイミの前に男が現れて一瞬身構えるが、その姿を見て警戒を解く。ネズミ色の髪に括れたフレンチコート、暁情報部を率いるラメルである。




「ラメルさん」

「やれやれ、ようやく見付けた。全く、空を飛ぶなんて滅茶苦茶なことしたから探すのに手間取ったぞ?」

「ごめんなさい。色々ありまして、予定外の行動を取ってしまいました」

「いやまあそれは良いさ。それより、馬車を用意してある。直ぐに帝都を離れるぞ」

「お姉さまは?」

「ボスは心配要らねぇ。なにより、何があっても嬢ちゃんを逃がせって口酸っぱく言われてるからな。一緒に来て貰うぞ」

「分かりました、お任せしますね。お姉さま、お先に失礼します。どうか、ご無事で」




 今も帝都に居るであろうシャーリィを心配しつつ、レイミはラメル達と帝都を離れるのだった。



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