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「……私、昨日カール様とお会いしてきました。アルフォンス様が帝位を継いでから、親子の会話はしていないのですか?」
確かにカール様にはきつい事を言われたけれど、まったく話が通じない訳じゃない。
心の病気で本意ではない事を言ってしまう人もいるし、病状が少しずつ回復しているなら、最も悪かった時よりは以前の為人を取り戻せているだろう。
可能ならまた以前のような親子関係を築けたら……、と思うけれど、カール様が仰っていたように、私は精神感応を切っていたから比較的穏やかにお話してくれたのであって、確執のあるアルフォンス様を前にすればそうもいかないかもしれない。
彼は痛みを伴った笑みを浮かべ、首を小さく横に振る。
「……俺と父上の間にできた溝は深い。俺が十一歳の時に父上は指輪をつけ、次第に精神を蝕まれていった。五年後に母上が亡くなったあと、状況は悪化した。自分を哀れむつもりはないが、俺は思春期の多感な頃に実の父からありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられた。弟妹を守るためには、俺が盾になるしかなかった。少しでも弟妹に矛先が迎えば、わざと憎まれ口を叩いて俺を悪く言うよう仕向けた。……そんな事を続けていくうちに、父上は指輪のせいだけでなく、本心から俺を憎んでいるのでは……と思うようになった」
彼は泣きそうな表情で言い、儚く笑う。
「……向き合うのが怖いんだ。帝位を継ぐ時も、凄まじい憎しみを向けられた。『呪い殺してやる』とまで言われたよ。その頃の父上は、帝位や指輪を守る事が自分の存在意義と思うようになっていた。……それを奪ったんだから、憎まれて当然だ。今は比較的穏やかに過ごせているのだろうが、呪いがすべて解けた訳ではない。距離を取る事でお互い平和を保っているものの、対峙した時、また父上から憎悪を向けられるのが怖くて堪らない」
「アルフォンス様……」
私はチラッとレティを見て彼女が起きていないのを確認してから、そっと彼を抱き締めた。
彼も私の体に腕を回し、私たちは運命を狂わせた魔石の前で切ない抱擁を交わす。
アルフォンス様はしばし、愛しむように私の髪を撫でていた。
そして、懺悔するように告白する。
「君と出会った時の俺は、自尊心がボロボロになっていた。……だからあの時、……道化にすら馬鹿にされた君を見て、同情すると共に…………っ、――――安堵してしまっていたんだ。……こんな俺より可哀想な存在がいると……っ」
私は切なく微笑み、震えながら嗚咽する彼を抱き締めた。
「許してほしい……っ。君を愛する気持ちに偽りはないが、俺が君に興味を持ったきっかけは見下した気持ちだった……っ。俺は君に頼られる事で、自分の価値を見いだしてしたんだ……っ」
私は背伸びをすると、彼の頬に伝った涙をチュッと吸い取った。
「いいんですよ」
その一言を聞き、アルフォンス様の目から新たな涙が零れる。
「いいんです。心の中で哀れんでいたとしても、あなたは私を馬鹿にしませんでした。アルフォンス様だけが、私に手を差し伸べてくれた事実は変わりません。あなたと交わした手紙の数々は、どれも私の宝物です」
言いながら、手紙に書かれてあった熱い励ましの言葉は、きっとアルフォンス様が自分に向けた言葉でもあるのだろうと思った。
「アルフォンス様は私を救う事でご自身を救われました。結果的にあなたが胸に高い志を持ち、その通りに歩まれたのなら、喜ぶべき事です。一石二鳥、と思いませんか?」
「君は……」
アルフォンス様は泣き笑いの表情で言い、私に頬ずりする。
「〝ハズレ姫〟と呼ばれている私から見れば、アルフォンス様は完全無欠の凄い人に見えます。見目麗しくてお優しい。武芸にも秀でて頭脳明晰。……でも、完璧じゃなくていいんです。あなたが教えてくれたんですよ? 『人は社会的地位や肩書き、財産で価値を持つ訳じゃない。誰かに必要とされて初めてかけがえのない人になる。聖なる力を持たなくても、君は俺を救ってくれる癒しの存在だ』って」
私は彼からもらった手紙の一文をそらんじる。
当時の私は、感銘を受けた言葉を暗記するほど、彼の手紙を繰り返し読んでいた。
彼は驚いたように目を見開いてから――、嬉しそうに破顔した。
「私はあなたの隣に立つのに相応しい女性になりたいです。『足りないものがあるなら、足りない部分を無理に補って平均以下になるのではなく、長所を研ぎ澄ます』。これもあなたが教えてくれた事です。だから私は〝ハズレ姫〟なりに歩んでこられました」
にっこり笑うと、アルフォンス様は照れくさそうに俯いた。
「……手紙に書いた言葉を口に出されると、恥ずかしいな」
「んふふ、いいじゃないですか。名言ですよ」
「……こら、フェリ」
彼は私をギュッと抱き締め、窘めるようにチュッチュッと額にキスをする。
私たちはしばし笑い合ったあと、手を繋いで魔石を見上げた。
「……まだまだ課題はありますが、なんとかなると思いましょう」
「そうだな」
アルフォンス様は頷き、「そろそろ戻ろう」と提案する。
時間が経ったからか、魔石のうなりは先ほどより落ち着いたようだった。
「仕上げをする」
彼はそう言うと、指輪に左手をかざして呪文を唱える。
すると指輪の魔石が明るく光り、それに呼応するように大きな魔石も光ったあと、うなり声はさらに落ち着いていった。
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