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暗い森の中、セリオとヴァルゼオは対峙していた。

互いに一歩も引かぬまま、重い沈黙が場を支配する。

ヴァルゼオの剣は雷光をまとい、荒れ狂う雷の魔力が辺りの空気を震わせていた。一方、セリオの霊装の剣は淡い青白い光を帯び、静かに敵を見据えている。


「……お前が”勇者”を捨てたところで、俺の目的は変わらん」


ヴァルゼオが低く呟く。


「生きるために戦う? 笑わせるな、セリオ・グラディオン。お前は既に”死んだ者”だ。死者が生を語るなど、戯言に過ぎん」

「それでも、俺は生きている。たとえアンデッドであっても……俺は俺の意思で生き続ける」


セリオの瞳は迷いなくヴァルゼオを見据えていた。


「……ならば証明しろ」


ヴァルゼオの剣が一閃した。

雷撃をまとった斬撃が空を裂き、セリオを襲う。

セリオはすかさず横に跳び、避ける。しかし、ヴァルゼオはすでに次の攻撃の構えを取っていた。


「遅い!」


ヴァルゼオの追撃がセリオの視界を埋める。横薙ぎ、突き、振り下ろし——嵐のような猛攻が繰り出される。しかし、セリオもまた、一歩も退かずに応じた。

剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。

その度に、雷鳴のような衝撃が周囲に響いた。


(……読める)


セリオは確信した。

ヴァルゼオの剣は驚異的な速さを誇るが、その軌道は一定のリズムを持っている。そして、その隙を突く瞬間が——


「……今だ!」


セリオの剣がヴァルゼオの剣を弾いた。その刹那、彼の動きがわずかに乱れる。

セリオは即座に踏み込んだ。

蒼白い刃が、ヴァルゼオの胸元を貫いた。


「——ぐっ……!」


ヴァルゼオが苦しげに呻く。


しかし——


「……まだだ!」


ヴァルゼオは剣を捨て、セリオの腕を掴んだ。そのまま雷撃を流し込む。


「……っ!」


セリオの体に痺れが走る。しかし——


「……終わりだ、ヴァルゼオ」


セリオは迷いなく、もう片方の手でヴァルゼオの腹部に剣を突き立てた。


——刹那。


雷の輝きが消え、ヴァルゼオが膝をつく。

血が口から滴り落ちるが、それでも彼は倒れなかった。


「……クク……まだ……死ねん」


ヴァルゼオはかすれた声で呟く。


その瞬間、空間が歪んだ。


セリオが反射的に身構えると、黒い霧のような魔力がヴァルゼオを包み込んでいく。


「——ヴァルゼオ、無理をしすぎよ」


妖艶な声が響く。

霧の中から、エルミナが姿を現した。


「……エルミナ、貴様……!」


ヴァルゼオは忌々しげに呻くが、エルミナは余裕の笑みを浮かべたまま、彼の肩に手を添えた。


「今ここで死ぬのは得策じゃないわ。あなたは”勇者殺し”の誇りを持っているのでしょう? なら、ここで消えるわけにはいかないはずよ」

「……チッ……借りを作る気はない」

「いいえ、貸しよ。次に会う時は、その雷の刃で私の敵を焼き尽くしてもらうわ」


エルミナが指を鳴らすと、ヴァルゼオの体が霧に包まれ、ゆっくりと消えていく。

セリオは剣を構えたまま、それを見つめていた。

最後に、ヴァルゼオが睨みつけるようにセリオを見た。


「……次こそ、お前を殺す」


それだけを告げ、彼の姿は完全に霧の中へと消えた。

エルミナは、セリオに向かって微笑む。


「……ふふ、また面白くなってきたわね」


そう呟きながら、彼女もまた闇に溶けるように姿を消した。


静寂が戻る。


セリオはゆっくりと剣を収め、深く息を吐いた。


「……生きるために戦う、か」


黒い木々の合間から、魔界の空が見える。

死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

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