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戦いが終わり、静寂が戻った。
ヴァルゼオはエルミナの手によって撤退し、辺りには焦げた草木の匂いと、残留する魔力の余韻だけが漂っていた。
セリオは剣を収め、深く息を吐く。アンデッドである彼に疲労はないが、それでも精神的な重みを感じずにはいられなかった。
「……次こそ、お前を殺す、か」
ヴァルゼオの最後の言葉が脳裏をよぎる。
——五度目の復活。
セリオは自らの存在の異質さを改めて実感した。普通なら一度死ねばそれで終わる。しかし、彼はリゼリアによって蘇り続けている。
自分は本当に”生きている”のか——?
そんな思考に沈んでいた時、不意に気配を感じた。
「……来るのが遅いな」
苦笑しながら呟いた瞬間、風と共にリゼリアが現れた。
白い髪をなびかせ、鮮やかな紅の瞳で真っ直ぐにこちらを見つめている。
「セリオ!」
駆け寄ってくる彼女の姿を見て、セリオは肩をすくめた。
「……奴ならもう撤退したぞ」
彼の前に膝をついたリゼリアは、素早く傷の具合を確かめる。致命傷ではないと判断して、わずかに肩の力を抜いたのが分かった。
「リゼリア、館の周りに住み着いた魔族だが……」
「セリオ。その話は後にしなさい」
珍しく強い口調だった。
「彼らから聞いたわ。お前はヴァルゼオと戦ったのでしょう?」
「まぁな」
「お前は何度もあいつに殺されているのよ。一人で戦うなんて、無謀すぎるわ」
リゼリアの細い指がセリオの腕を掴む。その力は思いのほか強かった。
「……お前が生きていて……良かった……」
ふっと目を伏せた彼女の頬には、微かに熱が帯びているように見えた。
「……心配、したのよ……」
その言葉に、セリオは息を詰まらせる。
リゼリアは、いつも冷静だ。どんな状況でも動じることなく、余裕すら見せる。だが、今は違った。
「……悪かったな」
不器用にそう返すと、リゼリアは顔を上げ、ふっと微笑んだ。
「なら、私の言うことを聞きなさい。今すぐ館に戻って、私の治療を受けること。いいわね?」
「……命令するのか」
「当然よ。私がお前を蘇らせたのだから……」
くすっと笑う彼女の表情は、どこか嬉しそうだった。
セリオは小さくため息をつくと、リゼリアの肩を借りることにした。
その瞬間、小さく息を呑む気配があったが、リゼリアは何も言わずに彼を支える。
──ただの主従関係を装っているはずのリゼリアの手は、妙に温かかった。