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「んん……。…!?」
私は奇縁ちゃんに膝枕された後寝てしまった。そして、今起きたのだが、口をガムテープで塞がれていて、手もガムテープで縛り、その上から縄で縛ってある。起きた時、私は正座で寝ていたようで、少し足が痺れている感覚があった。
「起きたんだ」
私の前でしゃがみながら真顔で言う奇縁ちゃんが、目の前にいる。奇縁ちゃんは縛られていなく、疑問が生まれた。
何故私だけ縛られているのだろうか。何故奇縁ちゃんはそんなに淡々としているのだろうか。
それはすぐに分かった。
奇縁ちゃんが、包丁を持っていたのだ。腕を組んで、左手を右肩の方に寄せて、その左手に包丁を持っていたのだ。
私は殺されると反射的に思い、冷や汗をかいた。きっと顔は青ざめているのだろう。
「私のせいでもあるんだけどさ、イラつくことあるんだよね、お前に」
美香お姉さん、と私を呼んでいた奇縁ちゃんからは考えられない呼び方である、お前、と呼ばれた。そのことに少しのショックを受けていると、急に首の右横を左手で持っていた包丁を刺してきた。咄嗟のことで、血の生暖かさを感じた後、状況を理解して激痛を感じ、顔を歪めた。
血が流れる感覚が肌を伝う。鎖骨や肩までも、段々、ゆっくりと血が流れる。そして服に血が滲むまでにもいった。包丁は刺さったままだ。
「膝枕しちゃったの、許せないんだよね。私自身も、お前のことも。自分の愛する人以外に初めての膝枕を奪われるの、最悪だった。自業自得だろうけどさ?」
そう言い終わると、指したままだった包丁を抜いた。そこからはさっきの比じゃないくらいに血が吹きでる。そして奇縁ちゃんは、だから、と静かに怒ったような顔で私を見下ろし、言った。
「その太もも、私の代わりに無くしてあげる」
奇縁ちゃんは真顔でそう言うと、正座で座る私の左の太ももに思いっきり包丁を指した。腕を上げてから、それはもう思いっきり振り下ろした。
私は強烈な痛みに声を上げたくなるが、首を刺されたことにより、全然声が出なかった。確か、首のどこかを切られるとこうなると聞いたことがある。
私は首からも太ももからも血が出続け、意識が朦朧としてきた。朦朧とする中で、奇縁ちゃんは左の太ももを何度も何度も刺し、ぐちゃぐちゃになるまで刺した。左の太ももが太ももだと理解できないレベルまで血や傷跡でぐちゃぐちゃになると、次は右の太ももを何度も刺してきた。きっと左の太もものように、原型がとどまらないくらいにぐちゃぐちゃにするのだろう。
痛みで意識を飛ばせずに、叫ぶことさえできない。その事実と痛みによって、涙が自然に溢れてくる。
「猫被ってて気色悪いし…。私のこと、どれだけイライラさせるわけ?無自覚なんだろうけどさ」
そう言って刺すのをやめた奇縁ちゃんは私に言った。
「お前みたいなのはずっと休んでればいいんだよ」
私は意識を手放す瞬間、奇縁ちゃんの目を見ていた。けれど、やっぱりと言ったところか。瞳に私を映してくれやしない。瞳に光は乗っていないし、怒りと殺意が瞳から伝わってくる。
兄貴を殺したのも、きっと奇縁ちゃんなんだろう。
ごめんね、お兄ちゃん。クソ兄貴なんて言って。
本当は大好きだよ。
私のことを優しく見守ってくれたお兄ちゃん。
いつも私に優しかったお兄ちゃん。
みんなからはクズって言われていたけれど、私と性格が似ていたから、相性が良かったのかもしれない。同族嫌悪、なんて言葉があるけれど、きっと私もそういった類で暴言を吐いていたのかもしれない。
たったひとりの、お兄ちゃん。
クズ兄妹の、お兄ちゃん。
私はクズ兄妹の、妹。
お兄ちゃんと一緒にいられるなら本望だ。
私はそんなことを考えながら、意識を手放した。
美香が死んだ。
私自ら、信頼を勝ち取るために膝枕したとはいえ、そのことに対しての怒りと、猫を被っているこいつに対して、何日か前のお姉さんみたいに、気持ちが悪かった。
美香を殺してもなお、私の心はもやもやして気持ちが悪く、頭がぐるぐるしてぼーっとする。許せないからか?私の初めては全て、美輝ちゃんがいいのだ。
こんなクズで気色の悪い輩に奪われる筋合いなんて、ない。
「…奇縁ちゃん」
お姉さんが後ろから私に話しかけてきた。その声で振り向くと、お姉さんは暗い顔をして俯いていた。
「…明後日、さ……お父さんの所に行くことになったからさ、美輝ちゃんと一緒にお留守番しててくれないかな…」
そう言うお姉さんの瞳には、焦りと不安が映っている。
「…私、また違う人と出かけなきゃいけないから、美輝ちゃんだけになっちゃうかもしれないよ」
「…まあ、うん。それでもいいよ。分かった」
しどろもどろにお姉さんはそう言った。きっとまだ何か、言いたいことが山積みになっているのだろう。
「それより、床とか壁に血ついちゃってるけど、ビニールないんだね、今日」
私がそう言うと顔を上げて、私の方を見ながらむっとした表情で答えた。
「ビニール、悠真殺した時に全部なくなったの…。明日魚と一緒に買いに行くから待ってて」
この表情でバレないと思ったのか、お姉さんはこっちに近づいて、話を終わらせようとしているようだ。きっと、美香をバラバラにして海へ沈めるのだろう。
私はお姉さんの思いを見透かして言った。
「…悩みとかあったら相談していいからね」
お姉さんはしゃがみながら、驚いてこちらに振り向いた。そして微笑んで言った。
「…うんっ」