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あの頃はまだ、夢を見るということの愚かさを知らなかった。
「ねえ父さん!僕強い!???能力の才能ある!??」
「ああ。オリヴィエ、お前には能力の才能があるよ。このまま行けば究極階級も夢じゃないかもな!アッハッハッハッ」
「ほんと!?父さん!僕、大きくなったら究極能力者になる!!そしてフェル様の作ってくださった平和に貢献できる能力者になるよ!!」
「オリヴィエ、お前は本当に出来た子だ。お前ならきっとなれる。お前は父さんと母さんの自慢の息子だよ。」
あの頃はまだ、努力は必ず報われるんだって、本気でそう思ってた。
「オリヴィエ、次だ!全力で来い!」
「はい!父さん!」
───アイシクルスペース…!!
「よーし!いい感じだ!次はもっと指先に力を貯めるイメージをしながらだ!やってみろ!」
「はい!」
───アイシクルスペース…!!!
「よし!もっと良くなったぞ!!」
「やったあ!!父さん!僕、このままいけば究極能力者になれるかな!」
「ああ、なれるさ!頑張る者の努力は、フェル様が必ず見てくれている。」
「やったぁー!僕もっと頑張るよ!」
「ああ、ありがとうございます。フェル様。ほら、オリヴィエも。」
「あ、ありがとうございます!フェル様!」
「よーし!次、行くぞ!」
「はい!!」
だから気づいた時には、何も出来なくなっていた。
「ねえあなた、少し話があるの。」
「どうした?セルヴィア。」
「オリヴィエのことなんだけど…。その、大丈夫なのかしら。」
「…?」
「ほら、最近は練習もしなくなって、学校の成績も…。私、もう…。」
「セルヴィア、子供を信じてやるのが親の役目だ。今は少し休憩したい時期なんだろうよ。」
「そうやって────」
「あなたがいつも甘やかすから、あの子がこうなっちゃったんじゃないのっ!?!?!!!」
申し訳なさでどうしたらいいかわからなくなった。
「セルヴィア、オリヴィエはオリヴィエなりに頑張っているんだ。そういう言い方はあまり好ましくないぞ。」
「じゃああなたは…っ!!!あなたは今のあの子を見てどう思ってるのよ!!!!!あなたがあの子に無謀な夢ばかり見せて、肯定ばかりするせいで!!!!!あの子は…あの子は夢と現実が乖離し続けて…っ!!!!!いつだって、言う方は簡単なのよ…っ!!いつだって…っ…言う方は無責任なのよ!!!!!」
「…夢は、無謀だから、現実と乖離しているからこそ夢なんだ。俺はそう思う。」
「そうじゃないの…っ!!!!!!!夢は、叶えたいと思えるから夢なのよ…!!才能に恵まれたあなたには縁の無かった話かもしれない…。でも、才能に恵まれなかった者ほど憧れは強く映ってしまうの…っ…。私が…っ…私がそうだったから…!あの子には…私と同じ思いは……」
母さんの言っていることは、あまりにも真っ当で、悲しいほどに僕の心を貫いていた。
「セルヴィア、それは違う。」
「…なにが…っ!!!あなたには…あなたには分からない…分かるわけ…っ…ないのよ…!!!!私はあなた達に憧れて…何度も、何度も何度も…っ…!!何度も何度も何度も何度も何度も…っ!!!!!」
「君の言うそれは、1人の大人として、1人の能力者としての立場で言うから説得力が湧くんだ。」
「でも、俺たちはあの子にとっての何だ?ただの大人か?ただの能力者か?違うだろ。」
「…っ…!!」
「例え大人が、ギルドが、世界があの子を見下して、馬鹿にして、見捨てたとしても、あの子が夢を見続ける限り、あの子がいつか叶えたいと願った夢を支えてやる。」
「それが、あの子にとっての唯一の親としての使命じゃないのか?」
「…で、でも…っ…!」
「確かに夢というものは無責任だ。ただ、それでいいとも思う。」
「そんなの…っ…」
「叶えたくてもすぐには叶わないから『夢』なんだ。」
「目標や目的なんて安い言葉とは明確に違う。現実と乖離しているからこそ、誰しも平等に見られる理想を『夢』と呼ぶんだと、俺は思う。」
「それじゃあ…っ…あの子が…っ!!」
「セルヴィア、子供は夢を見て成長する生き物だ。それは君に限らず、俺だって辿ってきた道なんだ。」
母さんは膝から崩れ落ちて、ただ一点を見つめていた。
「でも…私の夢は…叶わなかった……から…。」
「それでいい。それでも今はオリヴィエという子供がいて、家庭があって、今の人生に君は未練があるのか?」
「……。」
「……ないわ。ないわよ…あるわけ…っ…ない。」
「世界は必ず平和に収束する。例えその夢が叶わなかったとしても、フェル様は必ず別の形で我々に幸せと平和を捧げてくださる。」
「それなら子供の時くらい、現実とは大きく乖離したでっかい夢を見てもいいじゃないか。」
世界は平和に収束する。
それは確かに真実なのかもしれない。
それでも努力は必ず報われるとは限らない。
僕が現実を知った遠い秋の夜だった。
───アイシクル…スペース…!!
アイシクルスペース!アイシクルスペース!!アイシクルスペース!アイシクルスペース!!アイシクルスペース!!!アイシクルスペース!アイシクルスペースアイシクルスペースアイシクルスペース!!!!
「っはぁ、はぁ…。」
それでも、どうしても心の中では諦めきれない自分に、嫌気すら差した。
───ほら、飲め。
「…え?」
「疲れを取らなきゃ出来るもんも出来なくなる。それがコンディションってもんだ。飲め。」
「父さん、寝たんじゃ…。」
「お前の努力の声が聞こえてきた。眠気も吹き飛ぶくらいには力強い声がな!はっはっは!」
「…でも、父さん。僕、やっぱり…」
「オリヴィエ、父さんにもな、絶対に叶えたい夢があるんだ。」
「夢…?」
「ああ、夢だ。」
「父さんは既に上級能力者で、家庭もあって、仲間にも恵まれて、立場も、名誉も何もかも持ってるのに?」
「はっはっはっ!笑 そうかもしれないな!ただひとつ、絶対に叶えなきゃいけない夢がある。それは…」
──オリヴィエ、お前と極上に美味い酒を交わすことだ!!
「…え…。」
「俺はそれが出来れば立場も名誉も捨ててやる!」
「父さん、バカもほどほどにしてよ。」
「なぁに、言っとくが俺は本気だぞ!?」
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
父さんは強くて、そして誰よりも優しかった。
僕もいつか父さんみたいな強い大人になりたいって、いつか肩を並べられる能力者になりたいって、そう願って、
努力は必ずしも報われるものじゃないって、そんな現実を知りながらも、それでも、いつかきっとそれが叶う日を───。
僕は確かに夢見て生きてきた。
なんで…、なんでだよ…。
なあ父さん、昔言ってたよな。
親には子の夢を支える使命があるって。
僕、まだ夢叶え終わってないよ…。
それに…っ…父さんだって…まだ…。
なあ、夢の叶え方を教えてくれよ。
あんただって…結局…、…っ…偉そうなことばっか言って…っ…夢、叶えられてねえじゃねえかよ…。