テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
kaede🍁
6,006
1,825
体力と魔力が完全に回復してから。
阿部は人化の杖を持って、以前魔王とお茶会をした村へ向かった。
魔王との約束。
自分が裏ボスを倒して杖を手に入れたら。
魔王は、自分が滅ぼした村を復興する。
ちゃんと約束を守っているのか。
少し心配だった。
「……あれ?」
村が見えてきたところで、阿部は足を止める。
人がいる。
それも。
かなり大勢。
「魔王、ちゃんとやってるじゃん。」
少し感心しながら近付いていく。
でも。
何かがおかしい。
木材を運んでいる人。
畑を耕している人。
壊れた家を直している人。
井戸を掘っている人。
その格好に。
見覚えがあった。
「……勇者?」
剣を腰に差したまま木材を運んでいる勇者。
盾を地面へ置いて畑を耕している戦士。
魔法使いは魔法で瓦礫を片付け。
僧侶は疲れた人たちへ回復魔法をかけている。
「……。」
完全に。
勇者パーティだった。
「何してるの?」
阿部が声を掛ける。
「あ!」
勇者が振り返った。
「魔王様!」
「お疲れ様です!」
「……お疲れ様です。」
また反射的に返してしまった。
勇者は持っていた木材を地面へ置く。
「裏ボス倒したんですか?」
「うん。」
阿部は人化の杖を見せる。
「やっと。」
「さすが!」
「世界救いましたね!」
「……俺、魔王なんだけど。」
「そうでした。」
勇者が笑う。
阿部は村を見る。
「で。」
「なんで勇者が村作ってるの?」
「ああ。」
勇者は少し困ったように笑った。
「暇になったんです。」
「暇?」
「だって。」
勇者が阿部を見る。
「もう魔王様を倒す意味ないじゃないですか。」
「……。」
「魔王様倒したら。」
勇者は周囲を見る。
「せっかく平和になった世界、また危なくなるし。」
「……確かに。」
「敵モンスターもほとんどいないし。」
「うん。」
「勇者の仕事なくなっちゃいました。」
「……。」
阿部は何とも言えない気持ちになる。
勇者。
魔王を倒す存在。
その勇者の仕事を。
魔王本人が奪ってしまった。
「だから。」
勇者は笑顔で言う。
「今は復興支援してます。」
「ゲーム変わってるじゃん。」
「変わりましたね。」
「もうRPGじゃないよ。」
「村づくりゲームです。」
「……。」
阿部は頭を抱えた。
世界を平和にしすぎた結果。
ゲームの趣旨そのものが変わっていた。
___________
そこへ。
「おーい!」
聞き覚えのある声。
振り返る。
以前の魔王が走ってきた。
「遅かったじゃん!」
「裏ボス強かったんだよ。」
「倒した?」
阿部は杖を見せる。
魔王の目が輝く。
「取ったんだ!」
「うん。」
「すご!」
「本当に大変だった。」
「じゃあ早速やろう!」
「何を?」
「人化!」
魔王の後ろを見る。
そこには。
大量のモンスターが並んでいた。
「……。」
ゴブリン。
オーク。
スライム。
狼。
骸骨。
「多くない?」
「みんな待ってた。」
「全員人間になりたいの?」
「希望者だけ。」
魔王がモンスターたちを見る。
「嫌な子はそのまま。」
「それならいいけど。」
阿部は杖を持ち直した。
まず。
ゴブリンが前へ出てくる。
「お願いします!」
「はい。」
阿部が杖を振る。
光がゴブリンを包む。
次の瞬間。
「……!」
そこには。
普通の人間の青年が立っていた。
自分の手を見る。
顔を触る。
「人間だ……。」
嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。」
次。
オーク。
「お願いします!」
「はい。」
光。
人間になる。
「やった!」
次。
スライム。
「ぼくも!」
「はい。」
光。
小さな子どもの姿になった。
「うわ!」
自分の足を見る。
「足ある!」
「そこからなんだ。」
阿部は笑う。
スライムだった子は嬉しそうに走り回る。
「走れる!」
周囲のモンスターたちから歓声が上がった。
次々に。
人間になりたいモンスターへ魔法をかけていく。
そして。
人間になった者たちは。
みんな嬉しそうだった。
抱き合う者。
鏡を見る者。
服を選び始める者。
初めて人間の手で食べ物を持って感動している者。
「……。」
阿部はその光景を眺める。
頑張って裏ボスを倒して。
よかった。
素直にそう思えた。
___________
その日の夜。
世界中がお祭り騒ぎになった。
敵モンスターはほとんどいなくなった。
裏ボスも倒された。
人間とモンスターは自由に行き来できるようになった。
人間になりたいモンスターは、人間の姿になれるようになった。
村では。
大きな焚き火を囲んで。
人間。
勇者。
モンスター。
元モンスター。
みんな一緒に笑っていた。
料理が並び。
音楽が流れ。
踊っている人もいる。
ドラゴンは。
「俺はこの姿が気に入ってる。」
と言って人間にはならず。
子どもたちを背中へ乗せて飛んでいた。
勇者は剣を置いて酒を飲み。
以前の魔王は。
自分が滅ぼした村の人たちに怒られながら、復興作業を手伝っていた。
阿部はその景色を見ながら笑った。
「……平和だなぁ。」
魔王なのに。
世界を平和にしてしまった。
___________
夜も遅くなって。
阿部は一人。
魔王城へ戻った。
「ただいま。」
誰もいない玉座の間に声が響く。
「……。」
静かだった。
さっきまで。
あんなに賑やかだったのに。
阿部は玉座へ座る。
「疲れた。」
体力はMAX。
魔力もMAX。
だから。
本当は疲れていない。
でも。
なんとなく。
そう言いたかった。
「……。」
阿部は天井を見る。
世界は平和になった。
裏ボスも倒した。
人化の杖も手に入れた。
敵モンスターもほとんどいない。
やることは。
もうない。
「……あれ。」
阿部は周囲を見る。
「夢。」
覚めない。
いつもなら。
目的を達成したら。
どこかのタイミングで目が覚める。
前も。
その前も。
気付けば。
現実の世界へ戻っていた。
でも。
今回は。
「……。」
何も起こらない。
阿部は目を閉じる。
そして。
開く。
魔王城。
「……まだいる。」
もう一度。
強く目を閉じる。
「起きて。」
自分に言い聞かせる。
「起きろ。」
目を開ける。
同じ。
黒い壁。
玉座。
紫色の炎。
「……なんで?」
胸の奥に。
小さな不安が生まれた。
「天使。」
呼んでみる。
返事はない。
「ねえ。」
静寂。
「もう終わったよ。」
誰も答えない。
阿部は立ち上がった。
「天使。」
少し大きな声で呼ぶ。
「聞こえてる?」
返事はない。
「……。」
急に。
怖くなった。
今まで。
考えたことがなかった。
これは夢。
だから。
いつか絶対に起きる。
そう思っていた。
でも。
もし。
起きられない理由があるとしたら。
「……まさか。」
阿部は自分の手を見る。
黒いローブ。
魔王の体。
体力は勝手に回復する。
傷も消える。
ここでは。
自分は簡単に死なないような存在になっている。
でも。
現実では?
思い出す。
祭りの屋台。
イカ焼き。
帰る頃には。
かなり具合が悪かった。
家へ着いて。
目黒はまだ帰っていなかった。
一人でソファに横になった。
そして。
そのまま。
眠った。
「……。」
阿部の顔から血の気が引く。
(俺。)
(現実でどうなってる?)
ただ眠っているだけ?
それとも。
救急車で運ばれている?
病院にいる?
それとも――。
「……死んじゃった?」
声に出した瞬間。
急に現実味を帯びた。
「……。」
阿部は首を横に振る。
「違う。」
そんなはずない。
「夢なんだから。」
でも。
覚めない。
「……めめ。」
名前が自然と零れた。
今頃。
仕事から帰っているはず。
ソファで倒れている自分を見つけて。
きっと。
心配している。
「めめ……。」
会いたい。
急に。
たまらなく会いたくなった。
「俺、帰らないと。」
世界を平和にしたことなんて。
レベルがカンストしたことなんて。
もうどうでもよかった。
阿部は玉座の間を見回す。
「帰りたい。」
返事はない。
「俺。」
声が少し震える。
「死んでないよね……?」
静かな魔王城に。
阿部の声だけが響いた。
世界中が平和を祝っている夜。
その世界を平和にした魔王だけが。
たった一人。
現実へ帰れない恐怖に震えていた。
コメント
1件
みらさん、第13話読みました。魔王なのに勇者たちが復興支援してる光景、シュールすぎて笑っちゃいました(笑)。「もうRPGじゃないよ」「村づくりゲームです」のやり取り、最高です。そして最後の展開…夢から覚めない不安、帰れないかもしれない恐怖。世界を平和にした張本人だけがひとり震えてるギャップが切なくて。めめさんに会いたいって呟くところ、心臓がぎゅっとなりました。次が気になります。