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『出立〜イカリソウ〜』
雪華の門を出るとそこにはずらりと、黒塗りの車が並んでいた。
その中に他の車より車高が高く、装飾も華麗。まるで豪奢な馬車の胴体を融合させたような車があった。
そこに杜若様はカツカツと歩みより、後部座席の扉を開いた。
「レディファーストだ。中にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
手を優雅に差し出されて、ドキドキしながらも手をそっと握りしめて車の中に入る。真っ白な座席に緊張しつつ、反対側の窓側へとちょこん座った。
窓ガラスに映る私の髪や瞳は頭巾がないので、金色がはっきりと現れていた。
そして、その金色とは対照的にくすんだ色の着物を着ている私と目が合って俯いてしまう。
私がここに居るのは不釣り合いだとか、思ってしまったけど──私はもう、選んでここに来たのだと顔を上げる。
「あの、杜若様。私、」
パタンと扉が閉まる音がして、隣に座った杜若様を見る。
「なんだ?」
そう言いながら、運転手の方に杜若様が手をスッと上げると車が滑らかに走り出した。
「これからのことなんですが、私は何をしたら良いですか。家事全般はなんでも出来ます。早起きも得意です。杜若様のお家で、なんの仕事をすればいいですか? 頑張りますから教えてくださいっ」
「……仕事?」
訝し気に見つめられて、何か変なことを言ったかと思って手をモジモジとさせる。
「あぁ、あと、ちゃんと人前に出る時は頭巾被っています。お部屋は蔵でも雨風凌げればどこで大丈夫ですっ。私、わりと頑丈なんで!」
「環」
「はい」
ガタンと車が微かに揺れたあと、杜若様は体をこちらに向けてゆっくりと喋った。
「俺は何も苦労はさせないと言ったはずだ。雪華家で環がしていたことを俺の家でしなくていい。頭巾など被らなくていい。部屋も蔵ではない。ちゃんとしたものを用意している。代わりに聞きたいことは十年前のことなどはあるが、基本的には自由にしているといい」
「自由に……」
「先に説明させて貰うが俺の家、杜若家は男所帯だ。敷地内に本邸と離れが三つ、道場、詰め所、宿舎などある。ここにほぼ男達が行き来している。これは二十四時間。妖に対応出来るように、杜若一族や優秀な力や能力ある者達が、一つの敷地に集結しているためだ」
「そう、なのですね」
私はこのあたりの事情に疎かった。
何しろあまり外に出ることがなかった。人との交流もあまりない。世間の情報は新聞や雑誌でぐらいしか知らなかった。
本当にこんな私が杜若様の妻でいいのかと、不安の芽が芽吹きそうになる。また車が微かに揺れたとき。
杜若様の手が私の頬に触れた。
しかもそのまま、するすると長い指先は頬から唇に落ちていく。
「杜若様っ!?」
「そのように金色の瞳を曇らせなくていい。今みたいに、驚いて瞳を潤ませている方がいい」
「……っ」
ここには運転手の方もいるのに杜若様は大胆だ。
いや、裏庭からの出来事を見ても、この方は女性慣れしているのだろうと思った。