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男性にしては優美過ぎる、美貌を持つ杜若様なら仕方ないことだろうと、視線を逸らすだけしか出来なかった。
「知らないことは今から知ればいいだけのこと。今日は色々とあって疲れてるだろうから、用意した部屋でゆっくりと休め。心配しなくとも着替えなども準備済みだ。明日からは少々忙しくなるから、そのつもりで頼む」
最後、杜若の指先が私の唇に触れるか、触れないかギリギリの距離になったとき。
庭での口付けを思い出してしまい。一気に後ろへと体を引くと、ゴンッと頭をガラス窓にぶつけてしまった。
「い、痛いっ……!」
杜若様は目を丸くしたのち、面白いとクスクスと笑った。
涙目で頭をさすりながら、もう頭巾をつけなくてもいいんだ。それは凄く嬉しいと思った。
でも、こうやって揶揄われるのはいろんな意味で心臓が持たない。だって天敵には代わりない。
それにこんな風に男の人に接したこともなくて、ドキドキが止まらないでいた。
そこからは私も聞きたいことは沢山あったのに、とにかく気恥ずかしさを紛らわそうと、車窓から見える街の景色を見つめた。
すると、そのまま魅入ってしまった。
着物に混じって洋装姿の人や色彩豊かな看板、風に靡くのぼり。自転車、ちんちん電車、新しい電柱。コンクリートのビルディング。
どれも記事だけで読んでいたモノクロの世界が、鮮やかでそちらに目を奪われてしまった。
本当にときたま、ばあやと一緒に買い出しに行くことはあったが、頭巾を被っていたからいつも下を向いていた。
そして、街中で車が止まったとき。
そこはちょうど喫茶店の前だった。ガラス越しにレンガ造りの喫茶店の中が垣間見えて、胸がソワソワした。
「わぁ。喫茶店だ。お給仕の方が身に付けているフリルエプロン。なんて可愛いのっ」
いいな。給仕の方の髪型が巻き髪で素敵。
私もいつか、あんな風に働いてみたいと想像してしまう。
ずっと見ていたくなる景色だ。
「喫茶店か。今度、時間が出来たら行こうか」
その言葉にぱっと振り向く。
「い、良いのですかっ。そんな素敵な場所に私を連れて行って下さるのですかっ!」
この状況で戸惑いはまだあったが、自分の夢、憧れている話題に反応してしまった。
「俺も息抜きぐらいはしたいしな。ただ、今はやることが多いから少し待っていてほしい」
その言葉にあっと思う。