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朝の一件以来、銀時は妙に落ち着かなかった。――違う違う、あれはただの礼儀だ。
――金が余ったから飯作ってただけだ。
――俺が分けてやったのは、気まぐれだ。
そうやって自分に言い訳を重ねる。
あいつのことを考えると、胸の奥がざわつく。 面倒だ。非常に面倒だ。
だから決めた。
考えない。 会わない。 関わらない。
「銀さん、さっきからぼーっとしてどうしたんですか?」
志村新八の声に、銀時ははっとする。
「してねぇよ。俺は常にクールだ」
隣で神楽がじっと見上げる。
「顔が完全に恋する乙女アル」
「ぶっ飛ばすぞ」
三人で江戸の町を歩いていると、向こうから見慣れた羽織が近づいてきた。
真選組の巡回。
そして、その先頭。
「……げ」
無意識に足が止まる。
土方。
「うわ、また喧嘩始まるのか……」
新八がうんざりと呟き、神楽も大きくため息をつく。
「町中で騒がないで欲しいアル」
土方がこちらに気づき、いつもの調子で口を開く。
「よう、腐れ天パ。」
その声音は、特別でもなんでもない。 いつもの棘を含んだ平坦さ。
それだけなのに、銀時の心臓は無駄に跳ねた。
(落ち着け。いつも通りだ。いつも通り、噛みつけ)
「誰が腐れて――」
言い返そうとして、言葉が喉で止まる。
視線が合う。
朝、味噌汁をすすっていた横顔が一瞬よぎる。
駄目だ。
新八が察したように神楽の袖を引く。
「……先に行っときますねー!」
「銀ちゃーん、がんばるアルー!」
二人はあっさりと銀時を置いて走り去った。
「おい待てコラ!おい!!」
背後から土方の声。
思わずそちらに視線を向ける。
「どうした。珍しく静かだな」
振り向けば、いつもの副長。 煙草をくわえ、面倒そうな目。
(普通にしてる。俺だけだ、変なのは)
胸の奥がざわつく。
「……別に」
ぶっきらぼうにそれだけ言って、銀時は視線を逸らした。
「おい」
呼び止める声。
足が止まりそうになる。
止まったら、何か言ってしまいそうで。
「忙しいんだよコッチは」
吐き捨てるように言って、土方をすり抜ける。
そのまま新八と神楽を追いかけた。
背中に視線を感じる。
追ってはこない。
振り返らない。
数歩進んだところで、ほんの一瞬だけ胸が痛んだ。
――何やってんだ、俺。
一方、残された土方はわずかに目を見開いていた。
言い返してくると思っていた。 殴り合いになるかと思っていた。
それなのに、何もない。
「……なんだあいつ」
小さく呟く。
けれど深追いはしない。
煙草を灰に落とし、踵を返す。
「見回り続行だ」
部下にそう告げ、何事もなかったように歩き出す。
ただ、背中に残る違和感だけが、消えなかった。