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「とりあえず、ぬくうしちょきーね?」


よしよし、とくるみの頭を撫でると、実篤さねあつは風呂を目指した。



***



くるみが風呂に入っている間、実篤さねあつは彼女に許可を取って冷蔵庫を開けさせてもらっている。


先日ここへ来た時、くるみへの手土産に田岡オススメのミルクココアを持ってきていた実篤だ。


冷蔵庫に牛乳が入っているのもくるみに確認済みだから、彼女が風呂から上がったらホットココアを作ろうと思っていたりする。


鏡花きょうかあったかい飲みもん飲むと少しちぃと楽になるって言いよったしな)


湯船に浸かりながら、防水になっているスマホで調べてみたら、生理の時にはハーブティーや温めた豆乳、それからホットココアなどが良いと書かれていた。


前者二つは材料的に無理だが、ホットココアなら有るものでいけそうだなと思った実篤だ。


妹にも時々こんなことをしてやってたっけと思い出しながら、棚からマグを取り出す。


案外こんな風に好きな子のために色々甲斐甲斐しくするのが、実篤は嫌いではない。


八雲やくもに、「兄ちゃんは根っからの長男気質だよね」と、苦笑されたのを思い出して、実篤は一人小さく吐息を落として。


(まぁ、それでもほいでもくるみちゃんが嫌がらんのんじゃったら俺、他の人にどう思われよーがどうでもええわ)


そう思った。



***



くるみの部屋のシングルベッドに二人で寝るのはちょっぴりキツイので、実篤が泊まりに行った時は仏間の隣の居間に布団を二つ並べて一緒に眠るのが常になっている。


実篤さねあつさん、色々気ぃつこぉてくれてホンマに有難ぉーね」


「全然。――お腹、大丈夫? いとぉない?」


布団は二組並べられているけれど、グッとくっ付けて敷いてあるから、境界線なんてないに等しい。

実質二人で引っ付きもっ付きな感じで布団に潜り込んでいる。


いつもならイチャイチャしながらエッチなことに突入してしまう流れだけど、今日はさすがにそういうわけにはいかないから。


くるみを寒さから守るみたいに腕の中に包み込んで、実篤はじっと我慢の子だ。


シーリングライトは消してあるけれど、頭部側壁のコンセントプラグに挿してあるLED常夜灯ナイトライトのお陰でほんのりと明るい。


真っ暗闇ではないので、隣にいるくるみの表情がぼんやりと見えている。


ギュゥッと実篤にしがみ付くと、くるみが胸の辺りに顔を埋めたまま「実篤さんのお陰で寒ぅ〜ないし、平気」とつぶやいて。


お風呂上がりのくるみからふんわりとシャンプーの甘い香りが立ち上った。


(う〜。くるみちゃんっ! 今日はそれ、めっちゃ毒じゃわぁー)


なんて、自分を抱きしめている実篤こいびとが必死に本能と闘いながらソワついているだなんて、天然無自覚小悪魔のくるみはつゆほども思っていない。


「実篤さん、ええ匂い」


うっとりとつぶやいて、スリスリと額を実篤の胸元に擦り寄せてくる。


(ちょっ、待っ! ええ匂いなんはくるみちゃんの方じゃって!)


気持ち下半身をくるみの身体から離すように後ろに引いたら「何で離れるん? 寒いじゃ?」と聞いてくるとか、マジか!と思った実篤だ。


(勃っちょるんがバレんようによ!)


なんて直球、今のくるみに言えるはずがないではないか。


「ちょっと……いま下の方〝さわり〟があるけん」


古風な言い回しで誤魔化してみたけれど、くるみに可愛い顔でキョトンと見上げられてノックアウト寸前の実篤だ。


(わ、話題っ。なんか違う話にして気持ちを切り替えんとっ)


慌ててそう思った実篤は、「そっ、そういえば同窓会っ。結局どうするん?」と宙ぶらりんになってしまった話を蒸し返すことにした。



***



結局くるみは同窓会に行くことにしたらしい。


実篤さねあつが泊まりに行ったあの晩は「行きたいとは思うちょるんですけど」と煮え切らないままだったくるみだったのだけれど。


後日、遠方に出ている旧友から連絡が入って、「私も行くけぇ、くるみちゃんも一緒に行こうやぁ」と強く誘われたらしい。


「行くからには楽しんでおいでね」


にっこり笑ってくるみの頭を撫でて、そう言えば妹の鏡花きょうかも年末年始、地元に帰ってくるついでに同窓会に参加してくると連絡を寄越してきたのを思い出した実篤だ。


兄使いの荒い妹は、実篤に〝当日は友達と自分の足になれ〟と打診してきたのだった。


鏡花きょうかも実篤の通った高校の後輩なうえにくるみとは同い年なので、今さらのように〝もしや?〟と思って。


「そう言や、うちの妹もくるみちゃんの同窓会の日、同じ会場におるかもしれんわ」


何の気なしにそう言ったら「えっ?」と言われて。


「えっ。ちょっと待って、実篤さんっ。もしかして……実篤さんの妹さんって……栗野くりの……鏡花きょうかちゃん?」


と聞かれてしまった。


これには実篤の方が「えっ⁉︎」と声を上げる羽目になった。



***



栗野くりのさんなんて名前、そんなにないはずなんに、何で気付かんかったんじゃろ」


ソワソワと眉根を寄せるくるみに、実篤さねあつは「苗字で呼びよぉーらんかったんじゃない?」と助け舟を出してみる。


「うん。向こうも私も下の名前でばっかり呼びよった」


それに対してくるみは思案するみたいにそうつぶやいて。


それでもほいじゃけど気付かんってうち、抜け過ぎじゃろ」


としゅんとする。


「くるみちゃん、うちのと仲良かったん?」


よしよし、と落ち込んだ様子のくるみを撫でながら実篤が問いかけたら、「うん、うちら、よぉ一緒に受ける仲間じゃったけん」と言ってから、ハッとしたように「あっ」と唇を押さえるとか。


そう言えば鏡花きょうかは在学中は補習の常習者だった。


「お兄ちゃん、勉強教えてぇぇぇ」と泣きつかれた事が何度あっただろう。


もしかしてくるみちゃんも?と思った実篤だ。


鏡花きょうかは、特に数学が苦手だった。


「ひょっとしてくるみちゃんも数学苦手じゃった?」


クスクス笑いながら腕の中に閉じ込めたくるみをギュウッと抱きしめて耳元でささやきかけたら、「実篤さんの意地悪っ!」と腰に回された腕で背中をバシッと叩かれた。


いてっ」


その痛みさえ幸せだな、と思った実篤だ。



***



それでねほいでね、うちに一緒に同窓会行かん?って誘うてくれたん、鏡花きょうかちゃんなん」


言われて、実篤は


「じゃあ鏡花きょうかが俺に一緒に会場まで連れて行けって頼んできた友達って……」


「多分うちですね」


と返されて俄然やる気が出た。


「ぶっちゃけ何で俺が鏡花きょうかの言いなりにならんといけんのんじゃろ。くるみちゃん送っていく方が建設的なんにって思いよったんじゃけど。無駄な悩みじゃったね」


「うちも鏡花きょうかちゃんのお兄さんにご足労願うの申し訳ないなって思いよったんです。じゃけど実篤さんなら杞憂じゃったです」


二人で言って、クスクス笑って。


「じゃあ、当日はこちらまでお迎えにあがりますのでよろしくお願いします」

「こちらこそ」


年末年始はお互いバタバタして、なかなか会えないかと思っていた分、少しだけでも会える機会が増えたと言うのは、すごくすごく嬉しく思えたくるみと実篤だった。



***



恋人がいる人間にとって、年末ごろにある重要なイベントとのひとつに、クリスマスが上げられるだろう。


実篤さねあつとくるみもご多分に漏れず、そこは是非一緒に過ごしたい!と思っていたのだけれど。



「ごめ、んね、……くるみちゃ……。ホンマ……面目めんぼくない……」


くるみとの初めてのクリスマスに浮かれすぎたのがいけなかったのか、実篤は二三日の夕方から熱を出してダウンしてしまったのだ。


昼過ぎぐらいからやたらだるくなり始め、余りに節々が痛むから従業員らに断りを入れて『クリノ不動産』から徒歩五分圏内の『岩波内科』を受診した。


いつもなら散歩がてら歩いて行くところの距離なのだが、その日は余りにしんどかったので、近場にもかかわらず車で乗り付けたのだけれど。


『岩波内科』は高校時代の友人が、親がやっている病院に若先生として入り込む形で父親と二人三脚で医者をやっている病院なので、実篤的には結構気やすい感じで診てもらえて助かっている。


病院に着いてみると、熱がある場合は事前に受け付けまで申し出るように、と病院入口に貼り紙がしてあった。


車の中から「体温は測っていないんですが、おそらく――」と電話してみたら、そのまま車内で待機するようにと指示があって、待合室までは入れなかった実篤だ。


(ま、インフルの時期じゃしなぁ〜)


ぼんやりした頭でそんなことを思って、〝もしかしたら〟と吐息が漏れる。


この身体のだるさと関節痛、そうして徐々に強まっている悪寒に、実篤はイヤな予感しかしないのだ。


(明日は待ちに待ったイヴじゃのに)


例えインフルエンザじゃないにしても、このまま回復しなければくるみに会わせる顔がないのは確かだ。


(くるみちゃんに感染うつすんはイヤじゃしのぅ)


思えば実篤、子供の頃からここぞという時には体調を崩していたような気がする。

社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味!?

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